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LEVEL5 〜超能力を巡る戦いの記録〜  作者: 更待クロム
第1章:政府革命編
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第38話:最初で最後の...

テミスと特審の会合当日、俺達は指定されたビルに入った。


「お待ちしておりました。私について来てください」


中には男がおり、俺達を奥のエレベーターへ招いた。


上の階へ行き、沢山の部屋の前を通り過ぎ、遂にその会議室の前に到着した。


「入るぞ」


扉が開き、部屋の中が見える。


部屋の真ん中には大きな横長の机が置かれており、向かい合うように椅子が配置されていた。


そしてこちらを向いている椅子に一人の男が座っていた。


男の後ろには隊服を着た5人の隊長達が立っている。


凛、生成、姫乃先生、黒鳶先生、そしてメガネをかけた若い女性。


おそらくあの人が不明だった序列2位の隊長なのだろう。


俺は視線を椅子に座る男に戻した。


テレビで何度も見たことがある。


間違いなく内閣総理大臣、金青尚輝本人だ。


金青と目が合う。


その瞬間、忘れもしないあの日の惨状が脳内を埋め尽くした。


コイツは家族を殺した。


コイツは達也を殺した。


コイツは先生や、クラスメイトや、名前も知らないたくさんの人を殺した。


家も壊された。


全て燃やされた。



...なら、今度は俺がコイツを殺せばいい。


コロス...コロス......殺ス!!︎



「待て」


俺がSOPを使用しようとした瞬間、月城さんが俺の肩に手を置いた。


「冷静になれ。君達の感情は正しい。だが、奇襲が失敗に終わる事もわかっているはずだ」


俺は隣を見た。


隣にいる萌黄にも月城さんは同じように肩に手を置き宥めている。


徐々に落ち着きを取り戻す萌黄を見ていると、俺もいつも間にか冷静になっていた。


息をはき、呼吸を整える。


「ありがとうございます。おかげで落ち着きました」


金青は俺達の会話が終わるのを見ると、口を開いた。


「私だけ座っているわけにもいきません。どうぞ皆さん、席について下さい」


俺達は椅子に腰を下ろした。


月城さんが話し出す。


「このような機会を設けていただき、感謝します。和解の話は我々も願っていた事です」


両者が和解を望んでいる時点で、和解する事自体はほぼ確定している。


問題は殺人の責任追及やそれによって生まれる賠償金などだ。


正彦さんが中立の立場として、双方が相手に与えた損害などを説明する。



「...以上。双方がこれまでに与えた怪我などは任務や正当防衛として賠償金は生まれないものとする。


不満があれば、各自で解決するように」


他にも破壊された物など細かな物があるが、双方共に賠償金は求めなかった。


どちらもここで変な問題を起こしたいわけがない。


もっとも、ドローンが破壊された件について朽葉さんは文句を言いたそうにしていたが。


「しかしこれだけではない。先ほどは説明しなかったが死者が出てしまった事例がある。


テミスに所属する海棠宗一が特審の隊員32名の頭部を破壊した件である。


これについて、総理はどう考えるか」


金青は正彦さんの言葉に頷くと、月城さんを見た。


「殺人を良しとはしませんが、こちらが彼を殺そうとしていたのもまた事実。


銃を持った隊員達を一人でも生かしておけば、仲間や彼自身が殺されていたでしょう。


よって正当防衛とし、決して過激なものでもないこととします」


!?︎


良いのか?


俺はほっと胸を撫で下ろす。


「感謝します」


「...次の事例は殺人ではなく殺人未遂である。


特審に所属する生成圭太がテミスに所属する涼風萌黄を自らのSOPを使用して殺そうとしている。


実際、同じく特審に所属する姫乃美空が救出しなければ、涼風萌黄は死亡していたと思われる。


これについて、月城さんはどう考えるか」


正彦さんの声色が段々と荒々しくなり、手に持つ報告書にもかなりの力を込めている。


誰が見ても怒っていた。


「本人の意思ではないので生成さんに罪を問うつもりはありませんが、


その責任は、命令を出した議会にあるのではないですか?」


正彦さんは生成圭太に責任がないと聞きむっとした顔になったが、


議会に問題があると聞くと途端に頷き出した。


「涼風萌黄はもともと危険度レベル2に指定されていました。


実働部隊を退ける度に罪が重くなる制度に問題があるのかもしれませんが、


彼女が犯罪者である事実は変える事ができません。


涼風萌黄は1月22日20時17分、『山海の宿』にて被害者の河野明久の首を日本刀で切断し、更に銃で頭を打ち抜き殺害しました。


これに関しては見逃す事はできません。


後日、涼風さんを議会で裁く事になるでしょう」


正彦さんは強く動揺していた。


萌黄は青ざめている。


当たり前だ。


懲役数十年なんてまだマシで、最悪死刑も有り得る。


俺も何か打開策が無いか必死に考える。


俺達が焦っている中、月城さんは冷静に話し始める。


「裁判をするなら、涼風萌黄の当時の精神状態も鍵になります。


涼風萌黄が何故突然会ったばかりの他人を殺したのか、明らかになるはずです。


そしてそれは総理にとって都合が悪いのでは無いですか?


なにしろ涼風萌黄の動機は、『総理を恨んでいたから』なんですから。


人を間違えた事に気づかずに殺してしまうほど総理を恨んでいたとなると、


何故恨んでいたのか調べられる事になります。


そしてあの日の大震災にたどり着くはずです。


総理がやったんですよね?織野市で起きた大震災は多くの死者を出しました。


その犯人である総理が今度は裁判にかけられる事になるでしょう」


「...やはり知っていたのか」


月城さんは少しだけ怒っているように思えた。


達也を殺した張本人と平然と会話できる事からも、月城さんがものすごい胆力を持っている事が分かる。


月城さんの言葉を聞いて一番動揺していたのは金青の背後に立つ黒鳶先生だった。


「それはダメだ!...総理が殺される事は万が一にでもあってはならない。


涼風萌黄の裁判は取り消しましょう、総理」


何故か金青よりも黒鳶先生が慌てている事が俺は気になった。


「それだけ総理を尊敬しているからですか?」


「もちろんそれもあるが、...」


「それは私が話そう」


金青はそう言うと、SOPを手に入れた経緯を話し出した。


◆◆◆


戦乱の時代、ある一人の武将がいた。


名を、金青義政といった。


金青家の国は小さい。


兵も少なく、攻めにくい土地というわけでも無い。


籠城できるだけの立派な城もない。


隣接する有力大名が治める国にいつ攻め滅ぼされてもおかしくなかった。


更にこの年は寒波による不作で、皆苦しい生活を強いられていた。



ある日、前からこの国を狙っていた隣の国が遂に動いた。


義政も奇襲を警戒していたが、予想以上の大軍に、民を守るには切腹をする他なかった。


もはやこれまで、そう思った時、...


天から声が聞こえた。


《死ぬ必要はない。我がお前に力を授けよう。そして強くなるのだ。


お前にはこの、大いなる大地の力を授けよう》


その瞬間、義政は雷に打たれたような感覚になる。


「こ、これは!?︎」


《特定の物を通して大地を揺らす事ができる。そうだな、お前の後ろにある『それ』を使うがいい》


義政が振り返ろうとすると、声が止めた。


《その前に、一つ忠告しておいてやろう。お前が死ねば、それまでに揺らした土地は消滅する。


『それ』が破壊されたとしてもな。嫌なら誰かに力を押し付けてしまえ。では、健闘を祈ろう》


声は消えた。


「殿!どうされましたか!?︎」


家臣達が義政を心配する。


「見つかったかも知れん。この戦に勝利する手立てがな」


「そんなものが!?︎」


義政は背後に置かれた大太鼓を見た。


代々伝わる、家宝とも呼べる代物だ。


義政は家臣達を見る。


「たった今、神から神通力を授かった!儂が巨大地震を起こし、敵の城を破壊して見せよう!」


普段の真面目な殿を知っている家臣達は驚いたが、同時にそれが偽りではない事を見抜いた。


「ならば、この戦は勝ったも同然ですな」


異論はなかった。


義政は想像以上の反応に気分を良くする。


「神通力を使うにはこの大太鼓が必要じゃ。太鼓を叩くと大地が揺れる」


義政はバチを握った。


「決して、儂以外は太鼓に触れるでないぞ。良いな?」


「「ははっ!」」


バチを握ると見える。


隣の大名が治める国の中心にある、立派な城が。


「ふん!」


「ドオォン!!︎」


直後、僅かに床が揺れた。


義政は成功を確信すると、家臣達に命令する。


「我が領地に侵入した者共に文を送れ。お前達の国の城が崩れているが、戻らなくていいのか、とな」


城の近くまで来ていた兵達は文を読み初めは苦し紛れについた嘘だと笑っていた。


しかし、知らせが届くと、慌てて国へ戻って行った。


本当に崩れていた事に驚き、義政に恐怖を感じながら。



こうして金青家は滅亡を免れた。


義政は神通力を持つ武将として名が知れ渡ったが、信じない者が大半だった。


隣の国の大名は崩れた城に巻き込まれ、死亡していた。


跡取りもおらず、義政はこの国を自分の領地にする事に成功した。


家臣から天下統一の声も出たが、義政には一つの懸念があった。


天の声は死ねば揺らした土地が消滅すると言っていた。


それは太鼓が壊れた場合も動揺だと。


問題は、人はいずれ死ぬという事である。


自分が天寿を全うした時、一体どうなるのか分からない。


ならば、危険を避けるために一族で受け継ぐしかない。


義政は神通力について記した書物を残し、我が子に力を継承させてこの世を去った。


その後も神通力は継承され続け、現在は金青尚輝がその力を持っている。


◆◆◆


なるほど。


戦国時代に手に入れたSOPが、今もなお呪いのように継承され続けているのか。


天の声も気になるけど、結局なぜ黒鳶先生はあんなに慌てていたんだろう。


もしかして、誰かが昔日本全土を揺らした事があるのか?


「大太鼓は他人が叩いても反応します。


ただし、私が近くにいて、特定の場所を思い浮かべている必要がありますが。


今は厳重に保管していますが、条件が重なると意図せずに地震を起こしてしまう可能性は十分にあるのです。


もし、今までに日本全土を揺らした事が一度でもあれば、私が死ぬと同時に、日本は消滅します」


...やはりそうか。


それを確認する術が無いからここまで警戒しているのか。


萌黄は今回は不起訴という事になった。


本当に良かったと、俺達は安堵した。



こうして和解は次の段階へ進む。


俺達はテミスの要求を呑んでもらうためにここに来たと言っても過言ではない。


俺もそのために来たわけだが、...意外とすんなりと意見が通った。


と言うのも凛を経由して金青総理にも伝わっていたらしい。


散々悩んだ末、SOPの公表賛成派として各国と会議する事に決まったらしい。


SOPを秘匿していたデメリットは一見特にないように思えるが、勿論そんな事はない。


世界中にある犯罪組織が今日までバラさずにいるのにも理由がある。


例えば犯罪組織の主な活動として典型的なのは人身売買だ。


SOP所有者を売り捌くわけだが、効率良く集めるためにネットを使っている。


『超能力が使える人、募集中!』みたいな感じだ。


本当に使える事が分かれば毎日大金が貰えると書いてあるなど、さまざまな手を使い勧誘してくるわけだ。


こう言う手口にはSOPを知らず、自分は超能力を使える唯一の人間だと思っている人間が簡単に引っかかる。


SOPの公表と共にこういう詐欺があると広めるだけでも効果はあるだろう。


成功する事を願うばかりだ。



テミスの要求の次は、特審の要求だ。


要求はシンプルで、サルス討伐に協力して欲しいというものだ。


金青総理の護衛は常に必要なので隊長を迂闊に動かせないのだろう。


総理が死ねば、国家が消滅するかも知れない。


金青総理の護衛はサルスよりも大事な任務という事だ。


これに月城さんは了承した。


詳しい事は後日、また決めるという事になり、いよいよ会合が終わろうとしていた。



俺は会合が終わる前に一つ、総理に聞きたい事があった。


「結局、何故総理は地震を起こしたのですか?」


先ほどの話だと、地震は総理もなるべく起こしたくないはずだ。


何よりメリットが何一つなかった。


金青総理は少し言い淀んだ。


何か言いづらい事なのか?


「それは俺が答えよう」


総理の代わりに黒鳶先生がその日、会ったことを話してくれた。


◆◆◆


織野市で巨大地震が起きた日、金青総理は黒鳶先生と話していた。


「黒鳶さん、この前新しい学校でまた教師をすると言っていましたね。あれってどこだったんですか?」


「川端市の公立高校です。ほら、この前刀鍛冶がテレビに出てきていた織野市の隣です」


「ああ!あそこですか。織野市にも今度行ってみたいものですね」


二人が話していると、平坂凛が大太鼓を持って歩いてきた。


「倉庫にこんな物があったんですけどこれって使います?捨てちゃって良いですか?」


凛はそう言って太鼓を手でポンポンと叩いた。


「やめろ!」


慌てて黒鳶が取り返すが叩いてしまった以上、地震を止める事はできない。


テレビで報道される様子を見て、凛もことの重大さに気づいた。


「ごめんなさい!こうなるとは思わなくて、...」


特審の倉庫は隊長なら誰でも入る事ができる。


新しく隊長になった凛にもしっかり伝えるべきだったと、黒鳶は後悔した。


◆◆◆


「「すみませんでした!」」


金青総理は立ち上がり、5人の隊長と共に深く頭を下げた。


月城さんは頭を上げるように言った。


「人間は誰しも、過ちを犯す事があります。今回はその事に免じて見逃しましょう。


しかし、次はありません。


我々が和解するのは、これが最初で最後です」


最初で最後。


それは脅しとしても受け止められるが、月城さんの言葉からはもう争わないという意志も感じた。



会合が終わると、姫乃先生は朽葉さんに何やら話しかけていた。


久しぶりの再会らしい。ゆっくり話し合ってもらおう。


俺は目を合わせようとしない凛を見ると、声をかける。


「凛」


「ごめんなさい!


嫌われて当然だけどどうか私と友達でいて下さい!


何卒、何卒ォ!」


そう言って俺と萌黄の前で涙を浮かべて土下座する凛の姿を見ていると、


憎む気持ちは失せ、なんだか笑えてきた。


それと同時に一つの案が浮かんだ。


「萌黄、いいか?」


「私はこれで満足だけど、何かあるなら一希に任せるわ」


俺は凛に立ち上がるよう言った。


「許してくれるの?」


「そうだな、...みんなで遊園地に行こう。俺と萌黄と宗一、和と葵も連れて行こう。


凛は俺たち5人全員に遊園地内のものは全て奢って貰おうかな」


「ぜ、全部私が奢るの!?︎」


凛は驚きで体が固まってしまっていた。



後日、俺達は近くにある割と人気の遊園地に来ていた。


「いっぱい遊ぶぞ!」


「ねえ、どこから行く?」


「やっぱりジェットコースターだろ」


俺たち5人がアトラクションをどこから回るか話し合っていると、凛がおそるおそる聞いてきた。


「まさか、...全部回るなんて言わないよね?」


「1日じゃ難しいな。明日も来るか?」


「無理無理、全部回るなんて言ってない!」



俺達は色々なアトラクションを楽しんだ。


おやつを買ってみんなで食べていると、凛がふとこう言った。


「お金で解決って言うのはどうかと思うんだけど...」


これに萌黄がすかさず答える。


「お金自体じゃなくて、ちゃんと払う誠実さを求めているのよ」


そう言うと萌黄はお土産に何を買うか調べ始めた。


本当に思っているのか?説得力がないな。


「なんか納得いかないけど、...わかったわよ。私が全部払うからみんなでお土産を見に行こう!」



凛がいくら払ったのかは聞かないでおこう。


それを口実に俺が奢らされるのは嫌だからな。


俺は遊園地で凛に奢って貰ったお土産を見ながら、また行きたいと思った。


◆◆◆


ここは大阪の中心部。


地上はサルス達がひしめき、空中には巨大な球体が浮かぶ。


この球体はたくさんのサルスを生み出す。


2体の巨大生物も南北に散る前は大阪で目撃されていた。


それ故に、テミスと特審はこの球体こそが、サルスの始祖だと推測した。


それは半分正解で、半分不正解だ。


この球体すら生み出したサルスがいる。


そのサルスは自ら球体に取り込まれ、身を隠している。


「ドクンッ」


巨大な球体が脈打つ。


サルスの始祖が復活するまでの時間は、残り少ない。

諸事情により投稿が遅れてしまいました。誠に申し訳ございませんでした。


ついに第一章:政府革命編が完結しました!


ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。


今まで書き続けて来れたのも皆様のおかげです。


面白かったと思った方はぜひ高評価とブックマークをよろしくお願いします!


次の投稿日ですが、第二章の第一話を約1ヶ月後の12月21日の19時30分に投稿します。


細かい流れがまだ定まっていないので確実に3日に一つ投稿するためです。


最後に、名前の読み方がわからないキャラがいた方も少なからずいると思うので、


回想も兼ねて主なキャラクターを登場順にふりがな付きで載せておきます。

露草一希(つゆくさいつき)

月城達也(つきしろたつや)

月城正輝(つきしろまさき)

涼風萌黄(すずかぜもえぎ)

河野明久(こうのあきひさ)

海棠宗一(かいどうむねかず)

平坂凛(ひらさかりん)

金青尚輝(こんじょうなおき)

リヴ

杉原(すぎはら)

海棠誠二(かいどうせいじ)

涼風正彦(すずかぜまさひこ)

涼風敬三(すずかぜけいぞう)

涼風かな(すずかぜかな)

黒鳶聡(くろとびさとし)

姫乃美空(ひめのみそら)

藤黄和(とうおうやまと)

谷川葵(たにがわあおい)

米沢(よねざわ)

服部(はっとり)

朽葉駿介(くちばしゅんすけ)

トカゲマル

吉岡健人(よしおかけんと)

生成圭太(きなりけいた)

紅葉(もみじ)

春香(はるか)

吉田(よしだ)

ガブジロウ

サルスケ

ガミオ

金青義政(こんじょうよしまさ)


抜けていたら、コメントで教えてください。

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