第34話:体験と決心 後編
私は家に帰るとお父さんとお母さんに私がトランスジェンダーであることを伝えた。
2人とも最初は驚いていたが、すぐに受け入れてくれた。
「美空の好きにしなさい。困った事があればいつでも相談に乗るよ」
「ありがとう!」
家族の温かみを感じ、私はもっと早く言えばよかったと少し後悔した。
その後は先生と話し合い、クラスメイト全員の前で発表する事になった。
本当は嫌だったけれど、少なくともクラスメイトはいつか全員が知る事になる。
1人ずつ説明するよりはと先生が提案した。
それに先生の目の前で公表する事によって、いじめのリスクを少しでも下げるためでもあった。
それが最適解ならと、私は渋々それを了承した。
私が明日のことを考えて不安を募らせていると、頭の中に黒鳶先生の声が聞こえてきた。
(クラス全員がお前の味方だ)
その言葉を聞くと、抱えていた不安は和らぎ、微かな希望が生まれた。
そして当日、朝のホームルームの時間に私はクラスのみんなの前に立っていた。
「姫乃から話があるらしい。とても真剣な話だ。先生が何を言いたいのか、分かるな?」
静かに話す先生の目からは、絶対に私をいじめさせないという強い意思を感じる。
そして私はこちらを見つめるクラスメイト達を見て、驚いた。
全員が真剣な目で私を見ている。
私がいじめを心配する気持ちを恥じるほど。
先生は初めから心配していなかったのだ。
さっきのはそれでも私を少しでも安心させるための儀式だった。そう気づいた私は、みんなを信じる事にした。
いじめが怖くないわけじゃない。
ただ、このクラスは大丈夫だと、そう確信した。
「僕はクラスのみんなにずっと隠していた事があります。
実は、僕は体は男ですが、心は女です。
かわいいものが好きなので、明日から学校にはスカートで来ようと思っています。
...僕が普通ではない事は分かっています。
でも僕はみんながきっと受け入れてくれると信じています。
お願いします!
僕を、...私をクラスの一員でいさせて下さい!」
私が頭を下げた瞬間、教室にみんなの拍手の音が鳴り響いた。
「「パチパチパチパチッ!」」
私が驚いて顔を上げると、私の前に駿介が立っていた。
「今の美空にいう事じゃないかも知れないけど、...かっこよかったよ!美空」
駿介はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
「俺たちに教えてくれてありがとう!」
「これからも仲良くしようね、美空ちゃん!」
クラスみんなが私を受け入れてくれた事がすごく嬉しくて、私は思わず涙を流した。
「本当に、ありがとう!」
この日から、私は毎日が楽しかった。
制服はスカートを履き、休日はおしゃれをして楽しんだ。
そして私はホルモン治療を始めた。
ホルモン治療とは特定のホルモンを体に投与し、女性の体に近づけると言うもの。
変化は徐々に目に見えて分かるようになっていった。
体が女性のようになるにつれ、ますますおしゃれが楽しくなった。
こうして私は高校生活を満喫した。
私は駿介と同じ大学の同じ学部に入った。
偶然の再会に私達は喜び、一緒にキャンパスライフを楽しんだ。
私達が入った学部は工学部だった。
駿介はロボットの開発に熱中していた。
私は黒鳶先生の様な教師になりたいと思い、教員免許を取るために国家試験の勉強をしていた。
ある日、私が大学から帰っていると、夜道にフードを被った1人の男が現れた。
男は何かに追われるようにこっちに走ってくる。
その手にはナイフが握られていた。
「おいお前!どけ!」
「キャー!!︎」
あまりに突然の出来事に、私は思わず叫んでしまった。
足がすくんで動けない。
男のナイフが私に触れる瞬間、男は私の目の前からいなくなった。
いや、違う。私が移動した!?︎
「クソッ、お前もかよ!」
怪我をしていない事に驚く私は男が何か言った事に気づかなかった。
男が私を無視して走り去ろうとすると、何かが高速で飛来した。
私にはそれが人に見えた。
それはスピードを落とす事なく男に接近し、至近距離で止まると同時に、男の腹を蹴り男を吹き飛ばした。
「ドッ!」
私は目を見開いた。
飛来したものの正体は、黒鳶先生だったのだ。
先生は見たことない隊服を着て背中に翼を生やしていた。
私を見ると先生は驚いた表情になり、翼は消えた。
「先生!お久しぶりです。」
「姫乃か!また会うとは...これはだな、......」
私と先生が話している隙をついてさっきの男が逃げようとした。
「逃げるな!」
「ヒイィ!」
先生は瞬時に追いつき男のフードを取ると、頭を鷲掴みにした。
「この男はとある犯罪組織の手下だ。姫乃、コイツに何かされなかったか?」
「...ナイフで私を刺そうとしました」
私の返答を聞いた先生は鬼の形相になった。
「お前、姫乃にナイフを向けるとは死ぬ覚悟はできているんだろうな!!︎」
先生はそう言うと頭を掴む手を禍々しく巨大化させ、男の頭を引きちぎろうとした。
「やめてください!」
私が止めに入ると、先生は渋々手を元に戻した。
男はあまりの恐怖に気絶していた。
「いいのか?殺人未遂だぞ?」
「大丈夫です。私は無傷なので」
先生は私を見ると、どこか納得したような表情になった。
「なるほど、それが姫乃のSOP...」
「それより先生、先生は、...人間じゃないんですか?
さっきから手が変形したり、...明らかに人間とは思えません」
「...いや、俺は人間だ。人間の中には異能を持つ者が存在する。
俺も持っているし、そう言う異能を使った犯罪を取り締まる仕事をしている」
「そんなものが...」
「そして姫乃、お前も異能を持っているな」
私は先生が何を言っているのか分からなかった。
私のきょとんとした顔を見ると、先生は言った。
「やはり気づいていなかったか。きっかけは中学の...いや、なんでもない。
何か不思議な現象が起きる事はなかったか?」
「不思議な現象...そう言えば、高校生から今まで一度も怪我をしていません。
それもただの偶然ではない気がします」
さっきナイフを避けたのも、もしかすると異能かも知れない。
「姫乃の異能はおそらく攻撃を避ける、細かく言うとダメージを受ける前にテレポートしているのだろう。
この男は手からナイフを生み出す」
先生は男を持ち上げてみせた。
「ナイフの扱いにも慣れているだろう。この男の攻撃を避ける事は一般人には難しい。
しかしそれを姫乃は避けた。それが証拠だ」
先生は男を抱えると、翼を広げ宙に浮かんだ。
「俺はもう行く。コイツを取り調べる必要があるからな。また会えて良かったよ」
「待って下さい!」
私は先生を引き留めた。
せっかく黒鳶先生に会えたのだから、今度は私が先生に恩を返す番だ。
「私も手伝います!異能を持っている私なら、きっと先生の役に立てるはずです!」
「...わかった。姫乃の入隊を許そう。姫乃は今は大学生か。就職先は決まっていないのか?」
「教師を目指して勉強中です」
「教師か...勉強は続けてくれ。教師になっても構わないが、...多忙になるぞ?」
「先生もそうですよね?」
「...それもそうか。うちに入るなら、このまま連れて行こう」
「え?」
先生は私と男を両脇に抱えると、空に向かって飛び立った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は10月9日の19:30です。
すみません。
皆さんお察しのとおり、完結できませんでした。
過去編でここまで長くなってしまうとは私も思っていませんでした。
次は完結編ですね(笑)
完結編もぜひ読んでみてください。




