第31話:テミスの処遇
5人の隊長とある部屋の円卓に、5人が座る。
そのうちの1人の男が4人が揃ったことを確認すると、口を開いた。
「これより、我々内閣府特務防衛審議会、実働部隊隊長5名による会議を始める。
議題は、政府革命を謳う犯罪組織、『テミス』の処遇についてだ。
これについて、何か意見のある者はいるか?」
それを聞いて姫乃美空が静かに手を挙げた。
「どうぞ」
「テミスは凶悪な組織ではないわ。テミスは過去に何回か我々実働部隊と戦っている。
しかしそれは単なる正当防衛よ。
生成の部下が任務で出向いた時から、彼らはずっと我々から逃げようとしていただけなのよ」
これに生成圭太が口を挟む。
「だけどよ、俺達がずっと追いかけてるのは涼風萌黄って奴が人を殺しちまったからだろ?
それに、俺の部下達もあいつらに惨殺されたんだぜ?」
「それも正当防衛よ。涼風萌黄が人を殺してしまった事については擁護しきれないけど、
その原因は我々にある。
動機は、総理に顔が似ていたから、だそうよ」
「はあ!?似ていただけでか?」
「似ていたかどうかは置いておくとして、総理だと思って殺したらしいの。
問題は総理をそれだけ恨んでいる理由なのよ。
政治的な問題ではなく、あの織野巨大地震を起こしたのが総理だと言っていたそうよ」
姫乃がそう言った瞬間、その場にいた全員が緊張感を覚えた。
最初に話していた男が問いかける。
「何故、それを知っているんだ?」
「テミスのリーダーであるレボルと名乗る者、月城正輝が送ったと思われる手紙に書かれていたみたいね。
涼風萌黄はその後、手紙を燃やしたと思われるわ。
けれど露草一希がほとんど同じ手紙を受け取っていた事がわかっているわ。
情報局が燃やされずに捨てられた手紙を入手したのよ。
月城は送り込んでいたスパイから情報を得た、あるいは地震のデータを元にそう判断したようね」
「なるほど、な。動機を作ってしまった我々に非があるか。復讐心を抱くのも当たり前だ。
なら、姫乃はテミスをどうするべきだと思う?」
「私は、まずは和解し、そして協力関係を築くべきだと思うわ。
そのためには向こうの出すSOPに関する規則の改正案を検討する必要があるわね。
テミスの最終目標はSOPを民間人にも認知させる事、らしいわ」
「そうか。...それはなかなか難しいな。
まずは議会が良しとするかだ。それに今の時代、日本だけ公表する事はできない。
各国のSOPの第一人者達、そして首脳達で会議をする必要がある。
どのみちいつかは世界中に知れ渡る。ネットがある今の世の中で未だに知れ渡っていないのは奇跡だ。
まあそれは置いておく。
何故、姫乃はテミスと協力するべきだと考えるんだ?」
「隊長が派遣されても任務の失敗が続いているわ。
特に害のないテミスにこれ以上隊長を派遣するのは無駄だと思うの。
それに情報局によると、世界的な犯罪組織、『プロメテウス』が日本に上陸したらしいわ」
再び空気が重くなった。
「ここは争っている場合じゃないと思うのだけれど」
「そう...だね。それがもし本当なら、私も協力した方がいいと思うよ」
平坂凛も姫乃の意見に追随する。
「それだけじゃないわよ。テミスは技術力も凄まじいらしいわ。凛が言うには、転移装置があるそうよ」
「「転移装置!?」」
「私もびっくりしたよ」
「他にも色々作っているようね。更にテミスには恐ろしく強い者がいるらしいわ。
確か、吉岡健人という幹部の一人だと言っていたわね」
「そうだよ」
「......その名前、どこかで...」
男が少し名前に反応する。
「協力関係を築くことに異論はないわね?」
全員が頷いた。誰も、異論はないようだ。
「議会にはそのように伝えておこう」
会議はこれにて終了した、と思われた。
「ところで、あの涼風萌黄の祖父を名乗っていた人は何者?私がまるで相手にならなかったわよ?
凛にも撤退するように言っていたし、知っているんでしょう。
ねえ、黒鳶先生?」
姫乃は男を見る。
「先生と呼ぶな。...彼は20年ほど前まで、実働部隊で序列一位の隊長だった涼風正彦さんだ」
「先生より強いの?」
平坂が聞く。
「...それはわからない。まあ序列一位という事はその間は実質日本一強かったという事だ。凄い方だよ」
「自分で言っていて恥ずかしくないのかしら」
「先生も一位だもんね」
「黙れ。
...あの人のSOPは『必中』。狙った物全てに攻撃を当てる能力だ。
避けようとした者を確実に倒せるから初見殺しな上に、対策も容易ではない。
愛用していた刀を使い、序列一位にまで上り詰めたそうだ」
「ねえねえ、その『必中』を使えば、宝くじとかも当て放題なんじゃないの?」
「流石にそこまで自由度は高くないんじゃないか?」
「いや、...まさに同じ事を、特審に入る前はしていたようだ。
そしてやり過ぎて一度特審に捕まったらしい。その後は改心したようだ」
平坂に突っ込んでいた生成は話を聞いて唖然としていた。
「そして涼風さんはSOPだけで戦っていたわけではない。剣技も一流で、自分で道場を開いたほどだ。
当時涼風さんと一緒に任務にあたった人によると、二刀流で戦っていたらしい」
姫乃は不思議そうな顔をした。
「私が会った時、腰にさしていたのは一本だけだったわよ?」
「それこそが涼風さんの二つ目の能力、愛刀を2本に増やす力だ。
以前、涼風さんのSOPについて気になって調べたことがある。
当時から議会は調査を行っていたようだ。データが残っていたからな。
結論から言うと、この力はSOPではない。
自身の愛用する武器を使い続けると、素質は必要だが武器が進化する事がある。
進化した武器は『武刀』と呼ばれ、その所有者は『武刀の者』という称号を得る。
『武刀』はより扱いやすく、より頑丈になる上に、何かしらの能力が付与される。
涼風さんの愛刀、『竜巻』の場合2本に分身させられるというわけだ。
また、SOPでないという証拠に使っている間も特有のオーラが出る事はない」
「...へ〜、そんなの初めて聞いた...」
「サルスの親玉もまだ健在だ。その人が仲間になってくれれば心強いってもんだな」
「もしかして、...萌黄も?」
姫乃は何やら思案し始めた。
5人の隊長達による会議は終わりを迎える。
しばらくして、一希達の元に議会から和解の申し入れが書かれた書類が送られる事になる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は9月30日の19:30です。




