第25話:油断と適応
俺達2人はその後も『スカイドラゴン』に乗り、上空から人がいないか探した。
「あ、あそこ」
「人がいるな。萌黄もあそこで降りてヘリが来るまであの人達の護衛を頼む」
「わかったわ」
さっきと同じようにビルの屋上に何人か人がいる。
俺達が屋上に降りると建物の中から人がたくさん出てきた。俺からもうすぐヘリが来る事を聞いて、みんな大喜びだ。
「助けが来るぞー!」
「うおおお!!︎」
彼等と楽しそうに会話する萌黄を残し、俺は再び空へ飛び立つ。すると宗一から電話がかかってきた。
《宗一だ。こっちは無事全員救助できたから迎えに来てくれ》
《わかった》
《こんな高所にサルスなんて来ないから俺は必要無かったかもな》
《そんな事ない。宗一のおかげでスムーズにヘリに人を乗せられるよ》
《そう言ってくれると嬉しいぜ》
電話を切り、俺は宗一の所に向かう。
ここまで、作戦は全て順調に進んでいる。新たな問題は何も生まれていない。
それでも、俺達は常に緊張感に包まれていた。
あの巨大生物が何もしないと言う前提の元に成り立つ作戦だったからだ。
でも、順調に進みすぎて俺達は油断していたのかも知れない。
既に民間人は全員見つかったという連絡が入っている。後は戻るだけだった。
「宗一、お待たせ」
「早かったな。萌黄の所にもそろそろヘリが到着するはずだし、もう向かっていいんじゃないか?」
「そうだな、そうするか」
俺達は萌黄の所に向かう。数十秒後、ヘリが真上に静止しているビルを見つけた。
あそこだな。
「萌黄を回収したら俺達も車の護衛に加わろう」
「その前にどこかに降りて休みたいんだけど」
「わかった。じゃあ着いたら一度降りよう」
俺は萌黄のいるビルを指さす。
すると突然、ビルに細い光の柱が現れる。光の柱はヘリを貫通し、ヘリを爆発させた。
「ボオォォォン!!︎」
「萌黄!大丈夫か!」
光の柱はビルをも貫通し、ビルはあっという間に崩落していく。
「萌黄は無事なのか!?︎」
「宗一、しっかり掴まって!」
俺は最高速度で『スカイドラゴン』を進ませ崩落するビルに向かう。
「萌黄だ!」
ビルから落ちていく萌黄の姿が見えた。
俺はスピードを維持したまま萌黄の真下を目指す。
「今だ!」
宗一が手を伸ばし、間一髪で萌黄を受け止めた。
俺は落ちてくる瓦礫を避けてビルの崩落から逃げ切ると、後ろを見た。
「...ありがとう。危うく死ぬところだったわ」
「本当に間に合って良かったよ」
「ところで、あの光線は何?」
「あの光線は攻撃よ。あそこを見て」
萌黄が指さしたヘリが爆発した更に上空には球体に無数の目が付いた見覚えのある生き物が浮かんでいた。
ただ、明らかに小さい。
直径10メートルほどの球体は、憎悪と怒りに満ちた目でこちらを見つめていた。
◆◆◆
「ボオォォォン!」
「うわ!」
《何かの爆発音でしょうか》
僕達、地上組は避難所にいた人達を全員救助して帰ろうとしていた。
車の周りを仲間になったサルス達が囲み、新たに襲ってきたサルス達も全て仲間にして車を護衛させている。
僕のSOPが効かない可能性がある以上、万全の状態で守るようにしている。
《何が起きたのか今確認しています。警戒を緩めないように》
「はい!」
朽葉さんはスマホで他の部隊と連絡を取っている。電話の機能はつけなかったんやな。
朽葉さんは電話を切ると、無言でこちらを見た。
《不味いですね。どこからか巨大生物の分身のようなものが現れました。
目から発射した光線でヘリは爆発し、乗っていた人達は全員死亡、
そのまま屋上も爆発に巻き込み全員死亡したと思われるという連絡がきました》
「涼風先輩は、大丈夫なんですか!?︎」
《わかりません。萌黄さんの生死は今のところ不明です》
「そんな...」
先輩が生きていた事を喜んだのがまだ記憶に新しい。
(きっと、大丈夫やで)
(...ありがとう、葵)
きっと、大丈夫。
僕は葵の言葉を心の中で繰り返した。
僕達はたくさんの車と一緒に地下シェルターへ向かう。
するとそこへまたもやサルスが現れた。
「僕の仲間になって!」
これでこのサルスも仲間になる...はずだった。
「ギャオォォ!!」
《和さん、危ない!》
僕の前に出た朽葉さんが左手の銃身でサルスの攻撃を受け止める。
サルスに呼びかけた時、確かに感じた。
凄まじいほどの人間への憎悪を。
これほどまでの憎悪を、一体何故?
《和さんのSOPが効かなかったという事は、これまでにないほど強い感情を持った個体という事ですね》
朽葉さんは新たに現れたサルスに向き直り、静かに銃口を向けた。
「ズガガガガッッ!」
大量に発射された凶悪な弾丸がサルスに撃ち込まれる。
「ガガンッ!」
しかし驚く事にサルスはあまりダメージを受けてはいない。
よく見ると、ウロコが変質して強化されている。変質したウロコは、特有の光沢を生み出していた。
《凄まじい適応能力ですね。私が作った特別製の弾丸でもウロコをへこませる程度ですか》
朽葉さんは自身が走り回ってサルスを車から遠いところへ誘き寄せる。
「ガブジロウ!サルスケ!あいつに噛みついて!」
「「ギャオ!」」
僕に名前を呼ばれた2匹のサルスは標的めがけて襲いかかる。
「ガンッ!バキッ!」
2匹はウロコでできた鎧を噛み砕き、特殊個体に致命傷を与えた。
「ボタタッ!」
道路に滴る鮮やかな赤色の血。
同族に噛みつかれた衝撃からか、特殊個体のサルスは完全に戦意を失っているように見えた。
「グルルァアアア!!グルルァアアア!!」
そして狂ったように吠え続ける姿を見て、僕と朽葉さんは思わず立ち尽くした。
「...泣いてる......」
「ボタッ、ボタタッ」
血が溢れ出すのも気にせず、ひたすらに吠える。
「グルルァアアア!!グルルァアアア!!」
流れる血は止まる事はなく、遂にサルスは倒れた。
「ドサッ!」
例え地球外生命体であろうと、死は存在する。
もう吠える気力も失ったようだ。
《また適応して強くなるかも知れません。トドメを刺します》
「...わかりました」
その時、サルスの前足が少し動いた。
「ピクリ」
動いた前足は、高速で細胞分裂を繰り返し、膨張していく。
「ボコボコボコッ!」
もしかしたら、これがこいつを倒す最後のチャンスだったのかも知れない。
僕達は呆気にとられ、ただただ見守ることしかできなかった。
同族を支配された恨みか、死が迫る恐怖か、サルスは力を欲した。
そしてこの世で最強と信じる、自分の親を模した姿に生まれ変わった。
「ギュイイーーンッ!!」
鳴き声も、もはやサルスとは思えない。
本物より小さいとはいえ、その大きさに圧倒される。
「映像で見たのと同じや...」
その生き物は宙に浮かび、体に付いた大量の目から血の涙を流していた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は9月12日の19:30です。




