第19話:隊長、生成圭太との決戦(後編)
今回は海棠宗一の視点から始まります。
「グハッ!」
痛い。頭がクラクラする。
俺の心は絶望に呑まれていた。
凛が裏切った。いい奴だと思っていたのに。
萌黄ちゃんが死んだ。
萌黄ちゃんは爆発を至近距離で喰らい、一瞬で消し飛んでいた。
生成から5メートルほどはなれていた俺でさえこのザマだ。
動けそうにない。
一希は意識を失っている。
葵と和は軽傷だが戦う力は持っていない。
みんなのボロボロな姿を見た俺には自分の心の中で何かが切れた音が聞こえた。
「予定より早かったね」
「あのタイミングしか無かっただろ。もうちょっと大きくして全員まとめて始末するつもりだったのにな」
「圭太がどこまで火力を伸ばせるのか知らないけど相変わらずの火力だね」
「まあな。生き残ってるやつは部下に任せるか。おいお前ら、アイツらを殺せ」
どこからともなく現れた数十人の隊員が俺達をほういする。
「近づくな!」
和の声が聞こえる。
俺は満身創痍の状態で立ち上がる。
「全員、今たった男を警戒しろ」
生成の命令を聞いた隊員達は俺から十分に距離を取り、銃口を向ける。
「萌黄ちゃんを、...俺の仲間をよくも...!」
俺の心は怒りにとてつもなく激しく燃えている。
「許さない...」
生成が撃つ合図をする前に全ては一瞬で終わっていた。
「「ポンッ」」
隊員達の頭が弾ける。
そのまま大量の血を噴き出しながら頭を失った体が次々と地面に倒れていく。
それは異常事態だった。
俺が怒りを開放すると空間が歪み、景色が元に戻る。
地獄絵図のような様を見た凛は急いで生成を掴み、空高く飛び上がった。
「逃げるよ、圭太!分からないSOPほど危険なものはないからね」
元の場所には健人が立っていた。
「おいお前!敵だったのかよ。降りてこい!」
そう言うと健人は落ちていた石を空に向かって投げる。
しかし凛はそれを軽々とかわした。
「アンタのSOPも分かってないし、今は無理だよ。また今度ね♪」
凛と生成が見えなくなると同時に俺は地面に倒れ、意識を失った。
◆◆◆
俺はテミスの施設にある病室で目を覚ました。
生きてる...。
なんでだろう。
体が動かせる。
となりを見ると宗一が寝ていた。
俺がぼーっとしているとドアを開けて誰かが入ってきた。
和と葵、そして吉岡と朽葉さんだ。
「先輩!...よかった」
「体の調子はどうですか?」
「...問題は無さそうです。元気ですよ」
「それはよかったです。ゆっくり休んで、元気になって下さいね」
朽葉さんはご飯を用意してくれた。
「なんで...俺は生きてるんですか?」
「どういう状況だったのか、私にも分かりません。どうやら一希さん達は異空間に閉じ込められていたみたいですね。
中の情報は和さんから聞きました」
「僕が説明します」
俺は和から宗一のした事についての説明を聞いた。
「そんな事が...」
「戻ってきてみれば大量の死体があるもんだから驚いたぜ」
吉岡が説明を加える。
「そもそも、なんで戻ってきたんですか。一希さん達の護衛のつもりで同行させたのに意味がないじゃないですか。
レボルさんにも怒られてましたし、これで懲りて下さいね」
「はい。すみません。何も考えていませんでした」
月城さんと朽葉さんには弱いんだな、コイツ。
「すみません。健人さんが勝手な真似をしたばかりに...」
「いえいえ、俺からは何も言えませんので」
そして俺はさっきから気になっていたことを朽葉さんに聞いた。
「萌黄は、どこにいるんですか?」
最後は少し声が震えた。
それは、達也を守れなかったあの無力さが込み上げてくるのを必死に抑える一つの方法だった。
脳に、萌黄が生きていると錯覚させるための。
「萌黄さんは、...ここにはいません」
「...そうですか......」
朽葉さん達が病室から出ていき、未だに起きない宗一と2人きりになる。
俺は次々と出てくる涙を止める事ができなかった。
2日後、俺の体はほぼ回復していた。
宗一はまだ起きない。
葵と和と3人で、会議室に入り、イスに座る。
今回の報告会では凛に関しての話だ。
凛がスパイだった事による損害はいくつかある。
テミスの存在とその科学技術がバレたこと、そして計画の全てがバレたこと、更に送り込んでいたスパイが殺された事などだ。
「テミスが犯罪組織として危険度レベル4に指定されてしまいました。
安全のため外出を減らす必要があります」
朽葉さんが説明する。
しかし俺は朽葉さんが何か別の事を考えている気がした。
「朽葉さん、何か他に悪い事でもあったんですか?」
俺が聞くと朽葉さんは驚いたような顔をした。
「私情ですが、...実は私の妹が死んだんです。ドラゴン型が切り落とした尻尾に押しつぶされたと、連絡を受けまして...。
そのせいでなんとSOPを得たのですが、...それが良い事なのか、悪い事なのか、考えてしまって」
SOPを得られる人間はほんの一握りだ。
希少価値がとても高く、SOPの内容によっては貴重な戦力でもある。
珍しく弱音を吐く朽葉さんを月城さんが見据える。
そして「悪い事だ」と言い切った。
「何があろうと人の命は何物にも変えられない。
SOPを得られたのは良い事だが、それを加味しても悪い事である事に変わりはない」
朽葉さんは迷いの晴れた顔で月城さんを見る。
「ありがとうございます!おかげで迷いが晴れました」
俺達は会議室を出た。
そこに1人の研究員のような人が駆けつける。
「すみません。今すぐ司令室に来て下さい!」
司令室には大量のモニターが施設内や外の景色を映している。
「どうしましたか?」
「この画面を見て下さい」
指を指された画面を見る。
見覚えのある廃工場の中。
その中に一つの人影が映り込む。
その人影はこちらを見つめる。
俺は息を飲む。
時が止まり、呼吸もできないほど。
緊張で震える手に力を入れる。
何故か入院着を来た彼女は左手に銃、右手に刀を握っている。
彼女の萌黄色の髪はポニーテールにくくられ、俺は込み上げてくる涙をなんとか抑える。
涙は似合わないと思ったから。
彼女は元気よく声を出す。
《涼風萌黄、ただいま戻りました!》
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は8月25日の19:30です。




