第20話:健人の過去
昔から加減するのは得意じゃない。
中学に上がってからも俺はケンカは人一倍強かった。
バカみたいに湧き出るちっぽけな正義感を胸に、毎日のように不良どもを殴り飛ばした。
べつに何かされた事があるとか恨みがあるわけじゃない。
ただ単純に、ぶっ飛ばしたいと思った。
「健人!暴力はダメでしょ!」
春香か。
「良いじゃん別に。コイツらは不良なんだから」
俺は胸ぐらを掴んでいた不良を投げ飛ばす。
「だからダメだって!それじゃ健人が不良だよ?大体、竹刀なんてどこから持ってきたの?」
春香は俺が右手に持っていた竹刀を指さす。
「この学校には剣道部があるんだぜ?部室からパクったに決まってんだろ」
呆れた顔をする春香を無視して俺はその場を去る。
春香は俺の幼馴染だ。小さい頃から何かと俺に文句を言ってくる。
今日だってそうだ。
「めんどくせぇ野郎だぜ」
俺が路地を歩いていると高校生と思われる不良の4人組を見つける。
「さっさと金出せや!」
「ぶつかっといて金も払わんのかぁ!」
知らない男子高校生が殴られている。
「おいお前ら、そいつを離せ」
「あぁ!?︎」
「ガキが、あんま調子乗んじゃねえぞ!」
俺は竹刀を取り出すと、殴りかかってくる不良共をあっという間に叩きのめした。
俺は剣道を習っていない。
我流だ。
「ひぃ!」
「コイツヤベェ!」
4人組は尻尾を巻いて逃げていく。
「カッコ悪ぃな」
呆気に取られた男子高校生をおいて俺はその場を後にした。
ある日、1人で学校から帰っていると、後ろから友達が走ってきた。
「おい、健人!春香が、春香が大男にさらわれた!」
「はあ!?︎」
「早く吉岡健人を連れて来ないと春香を殺すって言ってるんだ!」
「ソイツはどこにいる!」
「親分、ありがとうございます!俺らの仇を打ってくれるんですね!」
大男は答える。
「おうよ。子分を助けるのは親分の役目だからな」
大男はこの町のヤクザの組長でもあった。
「離...して...!」
春香は自分の首を掴む大男の手から逃れようともがく。
「離さねーよ。ウチの面目を潰した吉岡って野郎にはおとしまえをつけて貰わねえといけねえんだ」
すっかり調子に乗った子分達は親分に話しかける。
「ところで、その女は吉岡を殺った後、貰っちまっても良いですかい?」
その言葉を聞いた瞬間、親分の顔は恐ろしい形相になった。
「オメエら、それでも人間か!!︎のオメエら見てえなゲス野郎は殴られて当然なんだよ!!︎」
「すいませんすいません!」
子分達は親分の怒気に触れて震え上がる。
「漢なら!どっしり構えて待て!」
ちょうどそこに健人が駆けつけた。
「春香を離せ!!︎」
竹刀を取り出し、大男に向けて勢いよく振り下ろす。
しかし、簡単に弾かれてしまう。
大男は春香を放り投げる。
「うっ!ゲホッゲホッ!」
春香は地面に叩きつけられ、首を押さえながら激しく咳き込んだ。
「テメエ、よくも春香を!」
俺の怒りは最高潮に達する。
同時に春香が死ぬかもしれないという恐怖に包まれた。
この時、俺の中で何かが変わった気がした。
今なら、できるかも知れねえな。
『加減』を。
突然、猛烈な殺気を放ち出した俺を大男は警戒する。
頭上には雨雲が現れ、雨が降り出した。
「ダッ!」
勢いよく俺は駆け出す。
そして、ブロックする大男の太い腕に竹刀を当てる。
「トン」
そんな優しい音とは裏腹に大男は勢いよく吹き飛んだ。
「ドッ!」
大男は壁に激突し、動かなくなった。
「春香!大丈夫か!?︎」
俺は倒れている春香に駆け寄る。
「健人、......助けに来てくれて...ありがとう。
...すごく...嬉しい。
.........健人は、...私のこと...好き?」
俺は顔が熱くなるのを感じた。
「ああ、好きだ!俺は春香の事が好きだ!」
春香はにっこり笑う。
「ありがとう。...私も...健人のことが......好き」
そう言うと彼女は息を引き取った。
「クソッ!」
どれだけ強くなっても、守りたいものも守れないなんて意味がないじゃないか!
「俺の馬鹿野郎!」
雨の中、傘もささない俺に通りすがりの男が声をかけた。
「君、大丈夫か!?︎」
その男がいなければ、俺は捕まるところだった。
大男が倒れ、少女が死んでいる。側からみると俺が暴れたように見えてしまう。
それに普段から不良を殴っていた俺なら有り得るという考え方もできる。
その男が一部始終を見ていたこと、そして俺の友達の証言もあり俺は助かった。
「あなたの名前を教えてください」
「そうだな。...私のことは、レボルと呼んでくれ」
レボルさんは俺にSOPや特審について、教えてくれた。
「まだ小さな組織だが、...いつか特審の規定を変える。そのためには君の力が必要だ。
吉岡君、私の仲間になってくれないか?」
「なります!」
レボルさんへ恩を返すため、そして春香の分も、俺は戦う。
テミスの施設に入り、俺はレボルさんと朽葉さんにSOPの説明をした。
俺の『加減』のSOPは込めた力の大小に関わらず完全に威力を調節できるというものだ。
本来出せない威力も出せる。
投げた物も豪速球にはならないが当たった瞬間とてつもない威力を出すこともできる。
俺の攻撃を喰らっていた大男は両腕の骨が2本、そしてあばら骨数本が折れていた。
俺の説明を聞いた朽葉さんはある発電機を発明した。
「ここに思いっきり衝撃を与えてください」
鉄でできた巨大なボタンのような物が頑丈そうな壁に取り付けられている。
朽葉さんはその中心を指さした。
俺が衝撃を与えると部屋の電気が急激に明るくなり、煙を出した。
「成功です!このボタンを一日一回小突いて貰うだけで施設内全ての電気を補ってもお釣りが来ますよ」
「よくやった。朽葉君、吉岡君。余った電気は溜めて置けば何かに使えるかも知れない」
こうして俺はテミスの発電機になった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回の投稿は8月28日の19:30です。




