第8話 ガタガタの聖女
全身を邪悪魔法で縛られているマグノリアは、口元だけにさわさわと触れるマオのモフモフによって、ムラムラが止まらない。
抱きしめたいけど、抱きしめられない。そんなバッキバキの夜を過ごしていた。
「にゃむ。我は魔王じゃぞ……勇者ごとき、まばたきの風圧で倒せるのじゃ……」
マオは本当に可愛い見た目の男の子。寝言でさえも、とても愛しく感じられる。
今は縛られているから、唇を必死に動かして僅かなモフを感じることしか出来ない。
けれど、マグノリアは久しく感じたことのない胸いっぱいの幸せを感じていた。
――マオ君は寝言まで可愛いのね。大好き
「小癪にも分身とな……そのような小物が使う技なんぞ、全て一気に粉砕してくれる!――喰らえ、魔王覇気じゃ。にゃむ」
「待って!嫌!マオく、お゛ぇ!」
寝相が悪いマオによって発動された臭っせえ覇気を至近距離で受けたマグノリアは、直後意識を手放した。
…
じらし&縛りプレイを一晩中させられていたマグノリアの身体は、朝から悲鳴を上げていた。
ようやく『束縛の網』から解放された時には、全身うっ血気味で、痛くない関節が一つも無い。顔も、これでもかと言う程に浮腫んでいる。
だが、当然ながら炊き出しは顔の浮腫みが取れるのを待ってはくれない。毎日朝の定刻に開催されることが、教会の規約で決まっていた。
炊き出しを逃せば、丸一日ご飯抜きが確定してしまう。
それに、庶民派聖女としての立場を確立している彼女にとって、炊き出し場で市井の様子を見ないなどあり得ないことだった。
「おんどりゃー!!」
薄っすい壁を吹き飛ばさんとする大声と共に、マグノリアは気合いで立ち上がる。その立ち居振る舞いや、全身の痺れで小刻みにプルプル震えている。
鉛の様な股関節と、ドロドロのクソの役にも立たないアキレス腱を引きずって(※比喩)、砂漠のど真ん中を水無しで彷徨う干からびたオーガのような顔面になりながら(※ガチ)も、何とか炊き出し場へと辿り着いた。
「大丈夫かの?昨夜はやり過ぎてしもうた」
「マオ君、大丈夫よ。私は聖女なんだから。常に民に希望を与え続ける私は、何事にも負けないし挫けないの」
マグノリアにとって、これしきのことは困難と呼ぶに値しない。
これまで越えてきたド級の苦難の前では朝飯前、いや、昼飯後くらいの辛さに過ぎないのだ。
「我の愛人に相応しい逞しさじゃ。惚れ直したぞ!」
――惚れ?
――今、惚れ惚れ大好きって言った??
マグノリアの脳みそは歓喜のあまり、頭蓋から飛び出んばかりの脳内麻薬を生成した。
――んほー!!
完全にハイになり翼を授かったマグノリアに、出来ないことはもう何も無い。
マオの困った顔を見たくないという一心で、聖女としての威厳を己に憑依させる。
「職員さん、ごきげんよう。今日も一杯貰えるかしら。大盛りで!」
先程まで、干からびたオーガの顔をしていたことが嘘のような聖女スマイル。
ギシギシ鳴る関節を気合いで抑え込み、普段の彼女と全く変わらない聖女らしい所作で、いつも通り大盛りの炊き出しを要求する。
ただし、顔だけは明らかに浮腫んでいた。
「我も大盛りなのじゃ!」
聖女になるという夢を叶えた以後のマグノリアは、優秀な聖女に囲まれて劣等感を感じる人生を送っている。
表の顔では強気で振る舞い、民の手本となっているが、本当の顔は男爵家追放の上、借金まみれの辛い生活。
実は、夜な夜なあばら家で一人、泣いてしまうこともあった。
その険しい人生に突然現れたマオは、マグノリアにとっての唯一の救いをもたらす――神。
「マグノリアよ、熱いうちに食べるのじゃ!」
「はい、マオ君。あーん!」
「あーんじゃ。美味いの!」
「何と!マグノリア聖女が自ら、孤児に食べさせているとは、何と慈悲深い!」
「マグノリア聖女は庶民の味方よね!」
「「「マグノリア聖女万歳!!!」」」
聖女の優しさに、炊き出し場の民は揃って涙を流す。
マグノリアも、マオの太陽のような笑顔を見つめて、思わず涙を流していた。
◯作者コメント
ほっこりエンドにしてみました。
一章はここで終わりですが、二章も続きますよ!
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