第3話 モフモフの男の子
「聖女様、臭いの元凶はこの者でございます」
「職員さんありがとう。ところで、この者を閉じ込める為の密閉容器はありませんの?」
「時空間魔法で亜空間へ隔離することは可能ですが……命は保証されません」
「仕方ないですね、この場の責任者として聖女マグノリアが何とかしましょう」
貧民とは皆揃ってそれなりに臭いものであるが、この者は常軌を逸していた。風呂キャンセルとか言う次元ではない。
それに姿形が、どことなく人間離れしているような……。
背丈は十歳くらいの男の子。綿のようなモコモコの服を纏い、頭には小さな羊のような角が生えている。
――もしや魔物?
いや、違いますわね。
瞳が綺麗すぎますもの。
確かに生えている角はとても気になるけれど、勇者によって魔王が討伐された数十年前以降、平和な世の中が続いている。
これほど人間らしい高次の魔物が生き残っているとは考えにくい。
「この子は私が連れていきます。もし親御様が見つかればマグノリアが保護していると伝えなさい」
「承知致しました、聖女様」
「では、私は教会へ向かいます」
――はっはー!
――ギリ女湯に入れるくらいのショタ、捕まえちゃった!
これは、シャワーで隅の隅まで洗わないといけないわね。(荒い鼻息)
本当は自宅に連れ込みたかったが、水道が止まっているので洗うことが出来ない。
そこで逃げられないように仲良く手を繋いで、一緒に教会へと向かった。
…
「さすが、マグノリア聖女様。お優しい」
「ええ、流石ね。聖女の鏡だわ!」
マグノリアはとっても臭う男の子を連れて、教会までの道を練り歩く。
通りすがりの市民はあまりの臭いに最初は顔をしかめたが、聖女様が貧しい民に救いの手を差し伸べている状況とすぐに察した。
こうして暫く市民からの好感度を上昇させつつ、街のど真ん中の教会へと突き進んで行く。
尚、彼女の脳は、ショタ誘拐によってアドレナリンが大量放出されていたことにより、臭いを感じなくなっていた。
「着いたわ! ここが教会よ」
輝く瞳の臭う男の子は、ペコリと軽く会釈をした。
「そう言えば、名前を聞いていなかったわ。なんてお名前なのかな?」
「……我は魔王」
「教えてくれてありがとう。マオ君ね!」
マグノリアは極度の興奮状態にあるため、魔王をマオと聞き間違えたことに気づく由もない。
ただ、一緒にシャワーを浴びる時にどこから洗ってやろうかと、それだけを考えていた。
勇み足で教会の敷地に足を踏み入れる、その時だった。
――ビー! ビー! キュイー!
――ビー! ビー! キュイー!
ピシッという亀裂音と共に、教会中に警報が鳴り響いた。
「敵襲ーー、敵襲!!」
「何事だ!」
「司祭様、結界が破られました」
「何だと!上位悪魔の侵入をも防ぐ、あの結界が!?」
「はい!まさに今、聖女マグノリア様が入って来た途端に警報が鳴ったのです!」
人目につかないように、こっそりシャワー室へと向かおうとしていたマグノリアに全職員の目線が集まってくる。
慌てる人々を落ち着かせるのは聖女の役割の一つ。このくらいの難局は何度も越えてきた。
いつも通り、落ち着いてやり過ごすだけだ。
「こほん。失礼。少々、結界の角に小指をぶつけてしまったようです」
――結界の角??
全職員の頭の上にハテナの文字が浮かんだ。
「私の靴は魔物の素材を使っておりまして、きっと誤作動したのでしょう。さっさと警報を消しなさい、聖女命令です!」
「「ははっ!」」
意味が分からない言い訳をしたという自覚はある。だが、他の聖女が不在中の今、マグノリアの位が一番上であった。
それに『聖女の言葉は事実である』という教会の掟もあることから、誰も異を唱える者は居ない。
事態を理解出来ていないマオは、澄んだ瞳で首を傾げつつ、不安そうに彼女を見上げる。
「ごめんねマオ君、手間取らせちゃて。お姉さんが綺麗にしてあげるから」
「お、お願いするのじゃ?」
――くっっ、カワイイ!
――尊すぎる!(成仏)
可愛い過ぎる一言に、マグノリアの意識は今にも飛びそうだ。
◯作者コメント
聖女という職業柄ギリギリ耐えて?ますが、幼い子どもを連れ去ることは何らかの犯罪です。真似しないように!(当然)
尚、マオは魔王なので人権の適用外です。
よって、マグノリアがマオに何をしても違法ではありません。←ここ大事




