第2話 無一文の聖女
風呂、トイレなし、冷房もなし。
水道も料金未納で止まっている。
押せば倒れそうな壁に囲まれて、力士が百年修行した後みたいなササクレ立った畳が四つ敷いてある。
そこが聖女マグノリアの今の住まいだ。
「あ゛ー!! イケメンに吐くほどドンペリ飲ませたい!」
そこで、教会に聞かれたら何かしら処分されそうな言動を一人繰り返していた。
「ショタの募金童貞(※)を奪いてえ!!」
※マグノリアのお金で、ショタに人生で初めての募金をさせること(特殊性癖)。
気が触れた発言を繰り返しているのは、有名な闇金『勇者金融』で借りた二十億のお金の利子が、膨れに膨れ上がっているからである。
今の彼女は、聖女の皮を被っているだけで、もう死にかけていると言っても過言ではない。
このまま行けば近い内に勇者に捕らえられて、聖剣エクスカリバーで八つ裂きにされてしまうだろう。
「無いお金は出せないのだから、仕方無い!今日も元気よく生きましょう!」
その持ち前の明るさと、破天荒さから今日一日が始まっていく。
…
「まずは、腹ごしらえね。お腹が空いては何も始まらないわ!」
正真正銘の無一文である彼女は、水道も止まっている家に居た所で全くお腹が膨れないことは分かっている。
朝起きると同時に、最低限のメイクと着替えを済ませて外へと繰り出した。
向かう先はもちろん、無料の炊き出し場である。
「教会職員さん、おはようございます!」
「これはこれはマグノリア聖女、おはようございます。さすが最も庶民目線の聖女と言われるだけありますな。このような場所に毎朝通われるとは。皆、よろこんでおります」
「聖女として当然の行いです。今日も頂けるかしら?――ご飯大盛りで」
炊き出し場では、貧しい民達の為に一日一回無料でご飯が配られている。
マグノリアが実家の男爵家を追放されてから今日まで生きてこられたのは、全て炊き出しのおかげであった。
明日の炊き出しまで一日一食で食いつなぐ必要があるので、聖女特権を使って可能な限り量を多くして貰っている。
列に並ぶ貧民たちは、マグノリアの膳に盛られた大盛りのご飯にキラキラと羨望の眼差しを向けている。
それでも誰も聖女の特別待遇に文句を言う人が居ないのは、炊き出し会場の看板に『提供:聖女マグノリア』と書かれているからであった。
そう、この炊き出しは全てマグノリアの百億コロの寄付金から行われているのである!
民達は配給を貰うと、わざわざ聖女の元へ出向き「ありがとうございます」と頭を垂れて感謝をして行く。
この瞬間、マグノリアの自己肯定感は爆上がりし、苦しい生活を立て直そうとする原動力となるのであった。
「職員さん、ちょっと良いかしら」
「何でしょう?マグノリア聖女」
「今日はちょっと材料費をケチってるんじゃなくて?」
「い、いえ、滅相もありません。規定通りにお作りしておりますが」
「なら、規定を変える必要があるわね。後で教会に訴えておくわ。これでは貧民が栄養不足で野垂れ死んでしまう」
「さすが聖女様。お慈悲、身に染みます」
ここで言う貧民とは、もちろんマグノリア自身のことである。
百億コロを寄付したことで、少なくとも数年間は炊き出しを開催しつづけられるであろうが、その先に待つのは餓死一択。
一日一食は食べられている今の内に、先々のことを考えておく必要があった。
問題はそれだけではない。
借金を滞納し続けているせいで、『勇者金融』の追っ手を避け続けなければならないのだ。
容赦が無い取り立てで定評がある勇者といえど、人気のある真っ昼間や聖女としての仕事中に手を出すことはしない。
とは言え、路地に一本入ったところで拉致られる可能性はゼロではない。
そのせいで、マグノリアは出来るだけ路地や人目が無いところを避けて生活することを余儀なくされているのだ。
「人生とは、ままならないわね」
そんな嫌なことを思い出しつつ、炊き出しの味を噛みしめていると、何やら民衆達が騒ぎ始めた。
「ん? 何か臭くね?」
「確かに、風の便りで仄かに臭いな」
「く、くっっせー!」
同じくして、マグノリアの鼻も臭いを検知した。
この神聖な炊き出し場を汚す者は、庶民派の聖女としては許せない。
「職員さん、この臭いの元を直ちに探しなさい!」
「はい、直ちに!」
職員さんが去った途端、人知れず、お茶碗のご飯をもう一盛りおかわりした。
◯作者コメント
次話、タイトル回収!
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