第10話 炊き出しならぬ、焚出し
シャーリーをワカラセてからというもの、彼女は事あるごとにマオとの接触を試みた。
ある時は大量のお菓子で釣り、またある時は可愛い女児を連れて遊びに来るなど、あらゆる手を尽くす。
だが、マグノリアの鉄壁のガードに阻まれて、マオに挨拶することすらままなかった。
「昨日は魔王覇気を喰らわせたのだもの、今日こそはシャーリーは来ないはずよ!」
「うむ、そうだと良いがの……」
しかし、シャーリーはその程度で諦める玉ではない。
その魔の手は、今まさに忍び寄って来ているのである。
――?
「マオ君、何か煙たいわね」
「何じゃ、視界が真っ白なのじゃ!?」
下っ端の聖女は定例会議や教会の行事、また有事の際を除いて、基本的にやる事が無い暇な人間達。
日課にしているお昼寝から目覚めると、四畳の狭い家にもくもくと煙が立ち込めていた。
――まさかあの女、マオ君を誘い出す為に我が家に火を放ったというの!?
「このお家、燃えてちゃっているかもしれない。逃げるわよ!」
「落ち着くのじゃ。よく嗅いでみい、焼肉のタレが焦げた香ばしい匂いがするぞ」
確かに、焼肉屋のダクトの中に住んでいるかのような、油ギッシュな煙だった。
「我はとってもお腹が空いたのじゃ!この匂いだけで白米三杯はいけるのじゃ!肉が食べたいのじゃー!」
もくもくの中でモフモフのショタが駄々をこねる。しかし、マグノリアは無一文。焼肉風味のモフモフを抱きしめてモフることしか出来ない。
その時、家の外からシャーリーの声がした。
「マオ君♡、マグノちゃん、早く出ておいで!美味しいお肉が食べ頃よー。早く出て来ないと焦げちゃうわ!早く!急いで!直ちに!」
「マグノリアよ、今回は負けを認めよ。作戦負けじゃ。お肉の為にプライドを捨てるのじゃ!」
プライドを捨てる。
その言葉にマグノリアはハッとさせられた。
聖女になる為にも、聖女になってからも、長いものに巻かれて来たし、お金の為に頭を下げてきた。
プライドなんてものは一コロ(通貨単位)にもならない。マオ君を死守することに気を取られて、その初心を忘れていたのだ。
「流石マオ君ね。いつも私に気づきを与えてくれる――まさに神」
マオの言葉によってマグノリアの心は、波の一切無い水面のような平静を取り戻した。
家を丸ごと燻されているのにも関わらず、聖女の手本のような笑みで、マオを腕に抱えて家から出る。
すると、マグノリアの家の横の土地にあったのは、ピッカピカの新居であった。
玄関の表札には『マオ君との愛の巣♡』と書かれている。
その新居の窓から顔を出し、満面の笑みでこちらを見ているのはシャーリー、その人。
よく見ると、シャーリー家のキッチンのダクトは異様に長く、その先はマグノリアの家の窓まで直結されている。
完全なる違法建築だ。
――なるほど、さっきの煙はあのダクトを伝って来たのね。
「シャーリー聖女、今回はあなたの勝ちです。ですから、私達に肉と米を鱈腹食べさせなさい!」
「その前にマオ君を差し出して貰いましょうか。マグノちゃん?笑」
マオを待つシャーリーの鼻息は、まさに飛びかからんとする闘牛のように荒い。
「二人とも待つのじゃ。我は誰の所有物でもないぞ。両者意地を張るでない!」
「ごめんね、マオ君♡。マグノちゃんがお家から出てきてくれたのだもの、次は私が譲歩する番ね。ちょっと待ってて♡」
…
しばしの後、焼けたお肉を持ったシャーリーが玄関から出て来た。
「今日はお庭でピクニックよ〜!お肉だけじゃなくて、白米とビールもある。これはもうお祭りね!」
とっても美味しそうにお肉と米をかきこむマオ君を肴に、聖女二人はキンッキンに冷えたビールを胃に流し込む。
「プハー!貴方とは良き友になれそうね」
「酷いわマグノちゃん。私は、ずっとお友達と思っていましたのに。シクシク」
シャーリーは泣き上戸であった。
「これ泣くではない。お肉を食べて元気を出せ。ほれあーんじゃ」
「あーん♡ うーん、おいぴー♡」
この日以来、お隣に引っ越してきたシャーリーのご飯を食べに、定期的にマオと二人でお邪魔する関係になったとさ。
◯作者コメント
マグノリアは24歳、シャーリーは27歳なので、お酒飲めます!
違法ではありません笑
マオはお酒は飲んでいませんが、仮に飲んでいた場合でも魔王なので法律の適用外です。
(執拗なコンプラチェック笑)




