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凸凹コンビのささやかな祝杯

ダンジョンからの帰り道、隣を歩く足音が聞こえるというのは、妙な気分だった。  いつもなら一人で、今日の反省をぶつぶつ呟きながら歩く道だ。  だが今日は、金髪ツインテールの少女が、俺の歩幅に合わせて歩いている。


「ねえ、ちょっと歩くの遅くない? あたし、これでも歩幅抑えてるんだけど」 「悪いな。魔法使いってのは体力がないのがデフォルトなんだよ」 「ふーん。ま、荷物は持ってあげるわよ。魔石、よこしなさい」


 シルフィはぶっきらぼうに言うと、俺の腰袋をひったくった。  口は悪いが、気遣いはあるらしい。俺は苦笑しながら、夕暮れの街を並んで歩いた。


 ◇


 冒険者ギルド『白銀の翼』に戻ると、いつもの喧騒が俺たちを迎えた。  だが、受付カウンターに向かう俺たちの姿に、周囲の目が少しだけ変わった気がした。万年ボッチのFランク魔導師が、美少女エルフを連れているのだから無理もない。


「お疲れ様です、レンさ……あれ? そちらの方は?」


 受付嬢のミリアさんが、目を丸くしてシルフィを見た。


「今日からパーティを組むことになった、シルフィだ」 「まあ! レンさんにパートナーが! おめでとうございます!」 「……なんでそこで拍手するのよ」


 シルフィが居心地悪そうに頬を膨らませる。  ミリアさんはニコニコしながら、一枚の羊皮紙を取り出した。


「それでは、パーティ登録の手続きをしますね。お二人のギルドカードを提示してください」


 俺とシルフィは、カウンターにそれぞれのカードを置いた。  手続きの間、俺たちは互いのステータスを見せ合うことになった。パーティを組む以上、能力の把握は必須だ。


「どれどれ……うわっ、あんた本当に魔力Fなの? よく生きてたわね」 「うるさいな。ほっとけ。……そっちこそ、なんだこれ」


 俺はシルフィのカードを見て、絶句した。


【名前】シルフィ 【種族】エルフ 【職業】剣士 【ランク】F 【敏捷】B 【筋力】G 【耐久】F


「……敏捷B?」


 Fランクの平均ステータスは、良くてEかFだ。Bなんて数値は、中堅冒険者であるCランク相当じゃないとお目にかかれない。  だが、その下の【筋力】が酷かった。


「筋力Gって……俺の体力と同じレベルかよ」 「う、うるさいわね! あたしはテクニックタイプなの! 重い剣とか振れないのよ!」


 シルフィが顔を真っ赤にして抗議する。  なるほど、納得だ。  彼女は敵の攻撃を避けることはできるし、当てることもできる。だが、非力すぎてゴブリンの硬い皮膚や筋肉を断ち切れないのだ。だから決定打に欠け、長期戦になり、ジリ貧になる。


 対して俺は、精密射撃で急所を突けるが、動きが遅くて紙装甲。


「……決定打不足のスピードスターと、火力不足のスナイパーか」 「ふふっ、なにそれ。ほんと、あたしたちって『欠陥品』同士ね」


 シルフィが自嘲気味に笑う。だが、その顔はどこか晴れやかだった。  一人では欠陥品でも、二人なら埋め合わせられる。それが分かったからだ。


「登録完了です! パーティ名はまだ決まっていないので、『レンとシルフィ』で仮登録しておきますね」


 ミリアさんからカードを受け取る。  そこには小さく、【Party:レン】の文字が刻まれていた。


 ◇


「よし、登録も済んだし……飯にするか」 「賛成! あたしお腹ぺこぺこ!」


 俺たちは換金したばかりの硬貨を握りしめ、ギルド併設の酒場コーナーへ移動した。  今日の稼ぎは、ゴブリン3匹分の魔石と素材。一人ならそこそこの額だが、二人で割ればカツカツだ。  だが、今日は特別だ。


「おばちゃん! 『冒険者セット』二つ! あと、串焼きも追加で!」 「あいよ!」


 運ばれてきたのは、いつものスープに加えて、焼きたてのパンと、肉汁滴るウサギ肉の串焼き。  普段の俺なら絶対に頼まない贅沢メニューだ。


「わあ……っ!」


 シルフィの目が輝いた。  彼女もまた、一人ではろくなものを食べていなかったのだろう。喉を鳴らす音が聞こえてきそうだ。


「ほら、食おうぜ。冷める前に」 「い、言われなくても食べるわよ! ……い、いただきます!」


 シルフィは小さな口を大きく開けて、串焼きにかぶりついた。  モグモグとリスのように頬を膨らませ、幸せそうに咀嚼する。ツンとした態度はどこへやら、美味しいものを前にした彼女は年相応の少女だった。


「んん~っ! おいひぃ~!」 「はは、そんなに急がなくても誰も取らないよ」 「だってぇ、久しぶりにお肉食べたんだもん……」


 口の端にソースがついている。  俺は何気なく手を伸ばし、親指でそれを拭った。


「っ!?」 「あ、悪い。つい」


 妹がいた前世の記憶のせいか、こういう世話を焼くのが癖になっている。  シルフィはビクッと固まり、みるみるうちに耳まで真っ赤になった。


「な、ななな、なによいきなり! 気安く触らないでよ!」 「悪かったって。ソースついてたぞ」 「自分で拭けるわよ! ……もう、調子狂うなぁ」


 彼女はぶつくさ言いながらも、俺を拒絶する様子はない。  俺も自分のスープを一口すする。  一人で食べる時の、ただ栄養補給をするだけの食事とは、味の深みが違った。


「……ねえ、レン」


 食事が終わる頃、コップの水を揺らしながらシルフィが呟いた。


「なに?」 「あたし、ずっと一人でやっていこうと思ってたの。誰も信用できないし、足手まとい扱いされるのも嫌だったから」


 彼女は少し寂しげな目をして、それから俺を真っ直ぐに見つめた。


「でも、あんたなら……背中を任せてもいい気がする。魔法の腕は確かだし、お節介だし」 「最後のは余計だ」 「ふふっ。……だから、これからよろしくね。相棒」


 差し出された小さな拳。  俺は自分の拳を軽くぶつけた。


「ああ。Fランクから這い上がろうぜ、相棒」


 こうして、凸凹コンビの夜は更けていった。  明日からは本格的な連携訓練だ。  俺たちの長い長い、スローペースなダンジョン攻略が、ここからようやく動き出す。

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