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嫌われ悪妻に転生しましたが、今日も元気です! ――悪妻ファルファナの円満離婚日記――  作者: 光子


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三十八話 マギアの花


 マギアの祝宴。

 それは名の通り、マギア塔へ祝福を捧げるために開かれる特別な宴だ。

 祝宴に招かれた者には、一輪の「白い花」が手渡される。それは招待客であることを示す証であり、同時に、マギア塔へ捧げる祈りの花「マギアの花」でもある。

 ――もっとも。その花は、ただ白いだけでは意味がないけど。


「わぁ……良い匂い」


 マレギリアへ足を踏み入れた瞬間、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐった。

 式典のテーマが花なだけあって、広々とした会場のあちらこちらには、色とりどりの花が飾られている。空色に桃色、薄紫まで。


「あっ、可愛いお花!」


 しゃがみ込んで、花壇の小さな花をじっと見つめる。

 広い入り口には、私以外の姿がない。それもそのはず。今は式典の途中で、皆はもう別の場所に集まっている。私は式典には参加しないから、ここで旦那様と合流してから、一緒に舞踏会へ向かう予定になっていた。


「確か、お迎えの人がきてくれるはずなんだけど」


 きょろきょろ辺りを見渡してみるけど、迎えの人らしき人の姿はない。どうしたのかな? 迷子になっちゃったとか?

 首を捻ってみるけど、もちろん答えなんて返ってこない。


「ま、いっか」


 迎えの人が来ないなら、来るまで待っていればいい。私はまた花壇へ視線を戻した。

 お父様やお母様のこととか、色々と胸の奥に引っかかるものはあるけど。


「楽しみだなぁ」


 それでも純粋にパーティーを楽しみにしている自分がいる。

 前は転生したばかりで余裕なんてなかったけど。小説の中で何度も読んだ場所に、こうして自分の足で立っていることが嬉しい。


「……旦那様と離婚したら、もう二度と来られないもんね」


 ぽつりと零れた言葉。

 どうしてだろ。私はずっと、離婚することばかり考えていたはずなのに。旦那様の幸せのためにも、それが一番いいと思っていたはずなのに。


「ちょっとだけ……寂しい、かも」


 口にした瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。

 ……あれ? どうして、こんな気持ちになるんだろう。数秒の沈黙。そして――ばばばっと、私は勢いよく首を横に振った。


「だめだめ! 旦那様のためにも、ちゃんと離婚しなきゃ!」


 自分に言い聞かせるように声に出して、ぱっと立ち上がる。

 すると、「わっ……!」と背後から小さな声が上がった。いつの間にかすぐ後ろには一人の男性が立っていて。


「も、申し訳ございません。遅れてしまいました……!」


 彼は慌てた様子で深々と頭を下げた。


「いえ。大丈夫ですよ」


 私が答えると、男性はほっとしたように顔を上げた。その口元には、にこりと笑みが浮かんでいた。……なんだか、ずっと同じ笑顔のままのような気もするけれど。

 男性はその手を、いくつかに分かれた道のうち一本へと向ける。


「式典が終わるまでの間、ファルファナ様にお待ちいただく場所へご案内するよう、スエイル様より申し付かっております」

「分かりました。よろしくお願いします」


 頷いて、素直に後についていく。

 この時の私は、何も気づいていなかった。これが、お父様達の仕掛けたくだらない罠だということに。

 それに気づいたのは、男性に連れてこられた先でのこと。案内された場所は――私が想像する待機場所とはまるで違っていた。


「……私をどこに連れてきたんですか? お兄さん」


 最初に目に入ったのは、白い石で作られた小さな祭壇。

 段になった祭壇の上には、マギア塔を模した細長い柱が立ち、その周囲には色とりどりの花が捧げられている。

 赤、青、黄色……魔力の色に染まった花が、まるで光の波みたいに揺れていた。


「こちらは式典で使われた花を、一時的に保管する部屋ですよ」

「ここって、旦那様が用意した待機場所じゃな――」


 言いかけたところで、男性がすっと手をかざす。


「わっ!」


 私が入ってきた扉が、風の魔法に押されて――ばたんっ! っと大きな音を立てて閉まった。


「……あーあ。閉じ込められちゃった」


 小さく息を吐いて、男性へ視線を戻す。


「貴方はどちら様? 何のために、私を閉じ込めたの?」

「私は《プレス》と申します。ファルファナ様には申し訳ありませんが……貴女には、ミシュラート侯爵家の罪を全て背負っていただく必要があるのですよ」


 細められていた目がすっと開く。

 そこには、先ほどまでの柔らかい表情は一つも残っていない。むしろ、ひしひしと危ない気配が滲んでいた。


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