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嫌われ悪妻に転生しましたが、今日も元気です! ――悪妻ファルファナの円満離婚日記――  作者: 光子


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三十四話 売られた喧嘩は、ちゃんと買わないとね


「勘違いするな。俺は君の作るアルケミアの危険性を重視しただけだ」

「危険、ですか?」


 んー? 何のことだろ。

 頬に人差し指を添え、こてんと首を傾げる。すると旦那様は、私の耳で揺れる《めらりの耳飾り》へ静かに手を伸ばした。

 

「これもそうだが、君の作るアルケミアは常識の範疇を超えている。無条件に市場へ流していい代物ではない」

「……ああ」


 ヤト先生も、その言葉に納得したように頷く。


「そうなんですか?」


 きょとんとしていると、先生が苦笑混じりに口を開いた。


「生活用のアルケミアならともかく、攻撃性の強いものは話が別なんだ」

「攻撃性?」

「誰にでも扱えるものじゃない。適性のない人が無理に使えば、自分だけじゃなく周囲まで巻き込む大事故になりかねない」

「へぇー!」


 思わず目を丸くする。


「そうだったんですね! 私、たくさん作って売りさばこうと思っていました!」

「止めろ。そんな危険な物をほいほい市場へ流通させられてたまるか」


 間髪入れずに、旦那様は冷たく言い放った。

 そっか。だからヤト先生は《めらりの耳飾り》をお店に並べなかったんだね。せっかくなら売ればいいのにって思ってたけど、ちゃんと理由があったんだ。


「そういうことでしたら……路地裏の魔法工房は、エルライン公爵家の管理に従います」


 ヤト先生は姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「守っていただいたご恩は、必ずお返しします」

「……ああ、期待している。くれぐれも失望させないことだ」


 旦那様の静かな声が落ちる。

 その一言だけで、工房の空気はぴんと張り詰めた。冷えた空気に呑まれたように、双子が小さく肩を震わせる。


「わぁ。二人とも、仲良くなれて良かったですね!」


 私はそんな二人を見比べて、にこっと笑った。

 ……あれ? なぜか先生も旦那様も、双子さんまで何とも言えない顔で私を見ている。私、何かおかしなこと言ったかな。

 でも、とにかく工房が無事で本当に良かった。胸の奥が軽くなって、ほっと息がこぼれる。

 ――だけど。その軽くなった胸の奥に、代わりに小さな火が灯った。

 

「娘の大切なものにまで手を出すなんて……ひどいね。お父様、お母様」


 大切なものを簡単に壊そうとするお父様とお母様。それだけは絶対に見過ごせない。

 私の幸せを邪魔するなら――容赦しない。


「売られた喧嘩は、ちゃんと買わないとね」


 にこっと笑うと、そっと言葉を落とした。





      ◇side ミシュラート侯爵夫妻


「失敗しただと……!?」


 ミシュラート侯爵邸に、怒号が雷鳴のように轟いた。


「こ、工房は平民の間で大変な繁盛となり……そ、それに加えて、エルライン公爵様が介入を……」


 報告役の侍従は顔を真っ青にし、震える声で言葉を絞り出す。


「何だと!?」

「今後は公爵家の後ろ盾もございますので……その……簡単には手を出せないかと」

「ふざけるな!」


 侯爵の拳が机を叩きつけた。

 ――ドンッ! 重い音に部屋中の調度品がびりりと震え、侍従は思わず息を呑む。


「わけの分からん錬金術などに現を抜かしていると思えば……よりにもよってスエイル様が、あの娘に肩入れするだと!?」

「ああ……そんなはずありませんわ」


 夫人は青ざめた顔で首を振る。


「スエイル様は、あの子を誰よりも嫌っていたはず……なのに」


 信じたくない。そう言いたげに唇を震わせた。


「本気なのか……! 本気で私達に逆らうつもりなのか、あの無色の恥さらしが……っ! 人に嫌われることでしか役に立てなかった、あの無能が――!」


 脳裏に浮かぶのは、怯えながら縋りついてきた娘ではない。

 真っ直ぐこちらを見据え、「毒親」と言い放った娘の姿だった。


「あなた……もし本当に、ファルファナが私達の言うことを聞かなくなったら……?」


 夫人が不安そうに侯爵の袖を掴む。


「あの子の唯一の価値を、私達が使ってあげていたというのに……」

「そんなことは絶対に許さん!」


 侯爵は低く吐き捨てると、ぎりっと奥歯を噛み締めた。


「そのために育ててきたのだ! ファルファナには――侯爵家の『悪意』を全て背負ってもらう必要がある。逃がすものか……!」


 冷え切った瞳には狂気にも似た執念が宿る。

 役立たずと罵りながらも、ファルファナを便利な道具として手放す気はさらさらないようだった。


 


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