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嫌われ悪妻に転生しましたが、今日も元気です! ――悪妻ファルファナの円満離婚日記――  作者: 光子


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二十七話 ハイデルク商家の双子


「あの、どちら様ですか?」


 先生の背中からひょこっと顔を覗かせ、頬に人差し指を添えながら素朴な疑問を口にする。

 二人は顔を見合わせると、そっと帽子を取った。


「……私は《エレノワール=ハイデルク》と申します。こちらは双子の弟の――」

「僕は《カガミ=ハイデルク》。ハイデルク商家の跡取りです」


 息を合わせたように一分の狂いもなく頭を下げる。

 本当にそっくり。髪の長さこそ違うけれど、ふわりと波打つ金色の髪も澄んだ青い瞳も、ぴたりと揃う仕草まで、まるで鏡を見ているみたい。


「ハイデルク商家って、帝都の貴族御用達の商家の……!?」


 ヤト先生が驚きの声を漏らす。双子はその反応に満足そうに口角を上げた。


「ええ。そのハイデルク商家ですわ」

「庶民では、店の敷居を跨ぐことすら叶いませんけれどね」


 胸を張る仕草が、なんだかきらきらして見える。商家の跡取りって肩書き以上に、自信と誇りが溢れてる感じ。

 へぇー、そんなにすごい商家なんだ。

 感心していると、先生が戸惑うように口を開く。


「そ、その……帝都でも名高いハイデルク商家の跡取りが、どうしてこんな路地裏に……」

「正直に申し上げますと……帝都にこのような工房が存在しているなど、想像もしておりませんでしたの」


 エレノワールは頬に手を添え、はぁっとため息を吐いた。


「無色が営むお店が帝都にあるなんて……街の品位を損ねてしまうと思いませんか」


 追随するようにカガミが続く。

 冷たい視線が、そのまま棚に並ぶアルケミアへと向けられた。


「こんな玩具のような低俗なアルケミアを、誰が好んで手に取るというのでしょう」


 そう言うと、エレノワールは手にしていた《夢見の袋》を地面に落とし、笑顔のまま踏みつけた。

 くしゃり、と乾いた花びらが潰れる音とともに、ポプリの甘い香りがふわりと立ちのぼる。……あーあ。せっかくヤト先生が心を込めて作ったアルケミアだったのに。


「「帝都の景観を損ねる前に、店を畳まれてはいかがですか?」」


 二人揃って微笑む。

 その姿は、まるで漫画に出てきそうないじめっ子みたいで。


「わぁ……すっごく意地悪な双子ですね! まるで悪役そのものです!」

「「……えっ」」


 思わず、自然な感想が口から零れた。

 予想もしていなかった言葉だったのか、双子は揃ってぱちぱちと瞬きを繰り返している。私は二人の傍まで歩いていくと、踏みつけられた《夢見の袋》を拾い上げた。


「よしよし……怖かったね。意地悪されて痛かったでしょう? あとでちゃんと治してあげるからね」

 

 優しくぽんぽんと埃を払い落とす。それから、私は双子へと視線を向けた。


「どうやらお客様ではないみたいですね。それなら――どうぞお帰りください」


 にこっと笑って、手を出口のほうへ向ける。

 どうぞ、と明るく促したけれど、二人は固まったままその場から一歩も動こうとはしなかった。……あれ? 帰らないのかな。


「な、なんですか、その態度は!」


 あ、怒った?

 はっと我に返ったように、双子が揃って声を荒げる。


「まるで僕達に『早く帰ってください』と言っているみたいではありませんか!」

「はい、その通りですね」


 無色が嫌いみたいだから、そんなお店に無理していても楽しくないと思うし。お互いのためにも、そのほうがいいと思うんだけど。

 

「ハイデルク家といえば帝都でも名の知れた商家なのよ? 私達のような選ばれた家の者が訪れているのですから、本来なら跪いて感謝する場面でしょう!」

「それが普通なんですか?」


 こてん、と首を傾ける。だって商家の跡取りと言われても、正直ぴんと来ない。

 転生前のファルファナなら、ドレスとか装飾品とか買い漁っていたみたいだから知ってるのかもしれないけど、今の私は興味がない。

 それに。


「意地悪な双子を特別扱いする理由って、どこにもありませんよね!」

「なっ」

「私達が、意地悪ですって……っ!?」

「はい! 自信持ってください。ちゃんと意地悪ないじめっ子ですよ!」


 私はにこっと笑って、大きく頷いた。


「「――っ!」」


 双子の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。

 隣ではヤト先生が両手で顔を覆い、小さく天を仰いでいた。……どうしたんだろう?


「貴女……私達に喧嘩を売っていいんですか? この工房がどうなっても知りませんよ?」

「あれ? 最初から、この工房を潰す気満々で来たようにしか見えなかったけど……違ったんですか?」


 二人の態度や言葉の端々からは、無色への嫌悪が隠そうともせず滲んでいた。


「「それは……」」


 図星だったのか、双子は揃って言葉を詰まらせる。

 しかしすぐに互いの目を覗き込み、余裕を取り戻したようにくすくすと笑い始めた。


「そうですよ。僕達は遊び半分でここへ来たわけではありません」

「あるお方から、正式に依頼を受けて参りました」


 その声音には、先ほどまで以上の自信が滲んでいる。


「依頼?」


 二人は口元に笑みを浮かべ、声を揃えた。


「「――公爵夫人ファルファナ様です」」

「…………え?」


 間の抜けた声が漏れる。

 えっと……今、誰の名前って言った?


「ファルファナ様より、『こんな悪い工房は潰してしまいなさい』とのご命令をいただきました」


 初耳だなぁ。


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