十六話 番外編sideユラ 最後の我儘
◇ side ユラ
生まれた時から、世界は私に冷たかった。
無色で病弱で――そんな私を、両親はあっさりと捨てた。
悲しくて、辛くて……それでもコローレ孤児院に拾われたことだけは、唯一の救いだった。
「こほん、こほん」
咳が止まらず、今日もベッドから出られない。
「ユラ、大丈夫か?」
「うん。……ありがとう、ヤト先生」
そんな私の様子を見に、錬金術師のヤト先生は度々顔を見に来てくれていた。
よく眠れるようにと、良い香りのする袋を枕元に置いてくれる優しい……本当に、優しいお兄ちゃんみたいな人。
「ヤト先生は……ファナさんを雇ってあげないの?」
ふと、そんな言葉が口からこぼれた。
私がそんなことを聞くとは思っていなかったのか、ヤト先生は少しだけ驚いていたけど、すぐに困ったように視線を伏せて、短く答えた。
「……雇わないよ」
それは優しい先生が言うとは思えないほど、はっきりとした拒絶だった。
「あ、もちろん! ファナが悪いってわけじゃないんだ。ただ……色々と難しい事情があってね」
どこか昔を思い出すような、悲しみを含んだ声色。
きっと子供の私には分からないことが……先生にもいっぱいあるんだろうな。
「……先生が雇わないなら、孤児院に来てくれないかな」
ぽつりと落ちた言葉に、今度こそヤト先生は驚いて目を丸くした。
「人見知りのユラがそんなこと言うなんて……本当に珍しいな」
「あ……だって」
ファナさんは明るくて、優しくて――同じ無色なのに、まるでそれをまったく気にしていないように笑う、少し不思議な人。
無色であることを理由に捨てられた私から見れば、その姿は眩しくて。
あんなふうに笑える人がそばにいてくれたら、きっと毎日が少しだけ楽しくなる気がしたから。
「残念だけど……孤児院では雇えないと思う」
「……そう、だよね」
孤児院が経済的に苦しんでいるのは、私でも分かる。……私が病気でお金がいるから、余計に。
悲しそうに俯いた私の頭を、先生はそっと撫でてくれた。
「ファナはここにいると、きっと辛い思いをする。だから離れたほうがいい」
その言葉は百パーセント、ファナさんを想ってのことなんだと思う。
だけど。
「ファナさん……すごく嬉しそうに、『先生のところで働きたい』って言ってたのに」
小さな声で呟く。
先生だって、私の目から見ればファナさんを心から拒絶しているようには見えない。大人って、自分の気持ちに素直に生きられないの? ……変なの。
きっと私が今なにを言っても、先生の意思は変えらない。だからせめて――。
「少しでも元気になったら……またヤト先生の工房に行きたいな。ファナさんが働いてるところも……見てみたい」
無理だと分かっているお願いを、そっと口にした。
私ね、分かるんだ。自分の体のことだもん。もう……元気にならないって。ほら、先生がそんな悲しそうな顔をするから――余計に分かってしまう。
「……そうだな。また遊びにおいで」
「うん」
最後に一つだけ我儘を。
せめて私が死ぬまでは――ファナさんと一緒にいさせてね。




