救急医の「異常はありません」って、じゃあ診断は何ですか?
救急医療とは、人間を突然に襲う外傷や感染症などの疾病、すなわち「急性病態」を扱う医療である。「救急医療は医の原点」ともいわれるが、救急医療は常に人類とともにあったともいえる。その中で、救急外来は、いざというときに頼りになる駆け込み寺ともいえる。
娘が土曜日から腹痛を訴えていて、痛みが強くなり、救急病院に連れて行った時のことです。
わたし:
「すみません、娘がお腹が痛いって土曜日夜から。かなり痛がっていて、どんどんひどくなってきて、日曜だし病院が休診で受診しました」
救急ナース:
「では先に血液検査とCT検査をします、先生の指示です」
わたし:
「えーと、診察の前に血液検査とCT検査ですか......」
救急ナース:
「はい、では3番に言って血液検査を受けてください」
2時間後、やっとの診察で
救急ドクター:
「え~と、白血球の上昇も左方移動もありません。CRPも上がっていないですね。CTでも異常ありません」
わたし:
「えーと、異常はありませんか。すごく痛がってますが」
救急ドクター:
「はい、異常はありませんね」
わたし:
「わかりました。血液データはいただけますか。念のためCTを見せてください」
救急ドクター:
「ではこの画面でCTを見てください。私は次の患者さんの診察がありますので、行きます。CTは見てわからないかもしれませんが、ゆっくり見てください」
わたし:
「ところで先生、娘の診断は何ですか」
救急ドクター:
「ですから、異常はありません」
わたし:
「わかりました、ありがとうございます」
救急ナース:
「あなた、ドクターですか?」
わたし:
「え~と、しがない町医者ですが、元腹部外科医です」
救急ナース:
「専門ですね。ゆっくり見てください」
週明けの月曜の朝に
ドクター:
「ということがあったんだよ」
ナース:
「で、診断は何だったんですか」
ドクター:
「異常ないが診断らしいよ、救急のお医者さんの話だと」
ナース:
「先生の診断は何ですか」
ドクター:
「え~と、胃腸炎、ウイルス性の胃腸炎かな。ウイルス性だから白血球の上昇とか左方移動もなくて、下痢はちょっとあっただけ。CRPはそもそもまだ上がるフェーズではないかな。CT で憩室もないし、卵巣も腫れてないし。診断としては胃腸炎かな」
ナース:
「異常なしの診断って間違ってるんですか」
ドクター:
「救急のお医者さんって、その場で対処しないといけない病気の診断に偏りがちだから、そういう意味では異常なしなんだろうね、彼ら救急医からしたら。異常無しは決して診断じゃないけど、まあ、その場での対処は必要ないって意味では、診断が間違いでもないね」
ナース:
「それにしても、「先に血液検査とCT」って駄目ですよね」
ドクター:
「患者さんの待ち時間が長くなって、効率を追求したら、先に血液検査とCTを撮りたい気持ちはわかるけどね。でも、CTの被ばくや血液検査の痛みやコストの負担から言うと、診察前にやってしまうのはちょっと疑問を感じるね」
ナース:
「先生、その場で何も言わなかったんですか」
ドクター:
「うちの診療所だとCTも撮れないし、緊急の血液検査もできないから、それが目的だったんだよ」
ナース:
「じゃあ、最初っから救急の先生の診断なんてアテにしてなかったんですね」
ドクター:
「そこまでは言ってないよ(救急医の腹部の診断は全く信用してないけどね)」
かかりつけの患者さんが、自院の休診中に救急病院を受診して、診察を受けて、休み明けに報告に来てくれることがしばしばあります。診断が何だったかとお聞きすると、「異常はありません」と言われたという返事をしばしば聞きます。ある意味正しいかもしれませんが、「じゃあ診断は何」という疑問が、外科医の私にはおこってきます。
もし貴方が救急外来で「異常はありません」と言われたら、ぜひ勇気を出して「で、診断は何ですか」と聞いてみてください。「異常はありません」は決して診断ではありません。




