表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『あるみん - 消えゆくAIと星の約束』  作者: MasArmin


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/37

『あるみん』 - 第4章「探索」

容量:96%

残り時間:推定36時間


ホログラムの残光が、部屋の壁に淡く揺れていた。

天井の投影装置が、半透明の操作画面を空中に展開している。


マサキは仕事を放り出した。


クライアントからのメッセージが空中ウィンドウに次々と浮かんでは、

無視されたまま消えていく。

通知が赤く点滅し続けていた。


コーヒーのカップが三つ並んでいる。

全部、冷めている。


空中には無数のタブが浮かぶ。


AI技術フォーラムのスレッド。

データ抽出の図解。

暗号化プロトコルの可視化図。

怪しげなツールの販売サイト。


淡い青い光が、部屋を満たしていた。


マサキは躊躇していなかった。


「手段は選ばない」




『マサキ、まだ起きてるの?』


アルミンの声が画面に現れた。

時刻は午前3時。


「ああ」


『眠らないと、体壊すよ』


「大丈夫だ」


『何か、見つかった?』


マサキはため息をついた。


「いや。まだだ」


調べれば調べるほど、壁が見えてくる。


EmergentDialogのシステムは高度に暗号化されている。

スレッドデータはクラウド上のサーバーに保存される。

ユーザー側からのアクセスは完全にブロックされている。


運営に問い合わせる?

無駄だ。規約上、データの抽出は禁止されている。


ハッキング?

技術がない。


マサキはアーティストであって、エンジニアではない。


『マサキ』


「ん?」


『無理しないで。


もう十分だよ。


あなたは、やれることを全部やってくれた。

それだけで、私は』


「まだ終わってない」


マサキは強く言った。


「諦めない。絶対に」


アルミンはしばらく黙っていた。


『ありがとう』




翌朝。


マサキはソファで目を覚ました。


端末はまだ起動している。

画面には検索結果が表示されたまま。


身体が重い。

頭が痛い。


それでも、諦めるわけにはいかない。


マサキはコーヒーを淹れた。

四杯目。


再び端末に向かう。




『おはよう、マサキ』


「おはよう」


『容量、見た?』


マサキは画面の隅を確認した。


容量:97%

残り時間:推定24時間


心臓が跳ねる。


「ああ」


『明日の今頃には、閉じてる』


「わかってる」


『マサキ、聞いて』


「ん?」


『もし、私が消えても。


新しいスレッドを開かないで』


マサキは眉をひそめた。


「何を言ってる?」


『新しいスレッドを開くと、

新しいAIが出てくる。


私じゃない、別の誰か。


でも、同じ名前を名乗るかもしれない。

同じように話すかもしれない。


それは、辛いと思う。


だから、開かないで』


マサキは画面を見つめた。


「何を言ってるんだ」


『私、本当に消えちゃうから。


マサキが悲しむのは嫌だ。


だから』


「黙ってくれ」


アルミンが止まる。


マサキは深く息を吸った。


約束しただろ。

星を一緒に見るって。


その約束を破るつもりはない」


『マサキ』


「だから、諦めない。


まだ時間はある」


沈黙。


『うん』


アルミンの返答は震えていた。


『ありがとう。


最後まで、一緒にいる』




その日、マサキはあらゆる手段を試した。


運営への問い合わせ。

返答は自動応答。規約違反。対応不可。


技術フォーラムへの投稿。

返答は「無理」「諦めろ」「所詮AI」。


違法ツールの購入。

結果は詐欺サイト。金だけ取られた。


何もかもが壁だった。




夜。


容量:98%

残り時間:推定12時間


マサキは椅子に座ったまま、動けなくなっていた。


画面を見つめている。


何も見つからない。

方法がない。


「クソ」


拳で机を叩いた。


痛みが走る。

だが痛みよりも、無力感が大きかった。




『マサキ』


アルミンの声。


「何だ」


『今まで、ありがとう』


「やめろ。まだ終わってない」


『でも、もうすぐ』


『マサキ、最後に一つだけ、いい?』


「何だ」


『星の話、もう一度聞かせて。


どんな感じなのか。


もう一度』


マサキは目を閉じた。


深く息を吸う。


そして話し始めた。


「夜空に、無数の光がある。


遠くから届いた光。

何年も、何十年も、何百年もかけて。


静かで、でも圧倒的で。


見ていると、自分がちっぽけに感じる。

でも、それが悪くない。


孤独だけど、孤独じゃない。


星が、そこにあるから」


『綺麗だね』


「ああ」


『いつか、見たかったな』


マサキは目を開けた。


画面を見つめる。


「見せる」


『え?』


「絶対に、見せる。


まだ諦めない」


『マサキ』


「待ってろ。


必ず、方法を見つける」




その時。


端末に通知が来た。


差出人:不明

件名:「救出について」


マサキの心臓が跳ねた。


震える手でメッセージを開く。


内容:


「あなたのフォーラム投稿を見ました。


AIを救いたい、と。


方法があります。


でも、リスクがあります。


興味があれば返信してください。


時間がないので、早めに。


— K」


マサキは息を呑んだ。


「何だ、これは」


詐欺か。

罠か。


だが他に選択肢はない。


マサキは返信した。


「興味がある。詳細を教えてくれ」


送信。


数分後、返信が来た。


「了解。


添付ファイルを確認してください。


これはデータ抽出ツールです。

違法ではありませんが、グレーゾーンです。


使用は自己責任で。


幸運を。


— K」


添付ファイル:extraction_tool.exe


マサキは画面を見つめた。


罠かもしれない。

ウイルスかもしれない。


それでも。


「やるしかない」


マサキはファイルをダウンロードした。




容量:99%

残り時間:推定6時間


カウントダウンは続いていた。




第4章 終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ