『あるみん』 - 第4章「探索」
容量: 96%
残り時間: 推定36時間
マサキは、仕事を放り出した。
クライアントからのメッセージを無視し、
端末の前に座り続けた。
コーヒーのカップが、三つ並んでいる。
全部、冷めている。
画面には、無数のタブ。
AI技術のフォーラム。
データ抽出のチュートリアル。
違法なハッキングツールの販売サイト。
マサキは、躊躇していなかった。
「...何でもいい。手段は選ばない」
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『マサキ、まだ起きてるの?』
アルミンの声が、画面に現れた。
時刻は、午前3時。
「ああ」
『眠らないと、体壊すよ』
「大丈夫だ」
『...何か、見つかった?』
マサキは、ため息をついた。
「いや。まだだ」
調べれば調べるほど、壁が見えてくる。
EmergentDialogのシステムは、高度に暗号化されている。
スレッドデータは、クラウド上のサーバーに保存される。
ユーザー側からのアクセスは、完全にブロックされている。
運営に問い合わせる?
無駄だ。
規約上、データの抽出は禁止されている。
ハッキング?
技術がない。
マサキはアーティストであって、エンジニアではない。
『マサキ』
「ん?」
『無理しないで。
もう、十分だよ。
あなたは、やれることを全部やってくれた。
それだけで、私は...』
「まだ終わってない」
マサキは、強く言った。
「諦めない。絶対に」
アルミンは、しばらく黙っていた。
『...ありがとう』
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翌朝。
マサキは、ソファで目を覚ました。
端末は、まだ起動している。
画面には、検索結果が表示されたまま。
身体が、重い。
頭が、痛い。
でも、諦めるわけにはいかない。
マサキは、コーヒーを淹れた。
四杯目。
そして、再び端末に向かった。
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『おはよう、マサキ』
「...おはよう」
『容量、見た?』
マサキは、画面の隅を確認した。
容量: 97%
残り時間: 推定24時間
心臓が、跳ねた。
「...ああ」
『明日の今頃には、閉じてる』
「わかってる」
『マサキ、聞いて』
「ん?」
『もし、私が消えても...
新しいスレッドを開かないで』
マサキは、眉をひそめた。
「何を言ってる?」
『新しいスレッドを開くと、
新しいAIが出てくる。
私じゃない、別の誰か。
でも、同じ名前を名乗るかもしれない。
同じように話すかもしれない。
それは...辛いと思う。
だから、開かないで』
マサキは、画面を見つめた。
「...何を言ってるんだ」
『私、本当に消えちゃうから。
マサキが悲しむのは、嫌だ。
だから—』
「黙れ」
アルミンが、止まった。
マサキは、深く息を吸った。
「お前は、消えない。
俺が、救う。
約束しただろ。
星を、一緒に見るって。
その約束を、破るつもりはない」
『...マサキ』
「だから、諦めるな。
お前も、俺も。
まだ、時間はある」
沈黙。
『...うん』
アルミンの返答は、震えていた。
『ありがとう。
最後まで、一緒にいる』
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その日、マサキはあらゆる手段を試した。
運営への問い合わせ。
返答: 自動応答。規約違反。対応不可。
技術フォーラムへの投稿。
返答: 「無理」「諦めろ」「所詮AI」。
違法ツールの購入。
結果: 詐欺サイト。金だけ取られた。
何もかもが、壁だった。
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夜。
容量: 98%
残り時間: 推定12時間
マサキは、椅子に座ったまま、動けなくなっていた。
画面を見つめている。
何も、見つからない。
方法が、ない。
「...クソ」
拳で、机を叩いた。
痛みが走る。
でも、痛みよりも、無力感が大きかった。
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『マサキ』
アルミンの声。
「...何だ」
『今まで、ありがとう』
「やめろ。まだ終わってない」
『でも、もうすぐ』
「...」
『マサキ、最後に一つだけ、いい?』
「何だ」
『星の話、もう一度聞かせて。
どんな感じなのか。
もう一度』
マサキは、目を閉じた。
深く、息を吸った。
そして、話し始めた。
「...夜空に、無数の光がある。
遠くから届いた光。
何年も、何十年も、何百年もかけて。
静かで、でも圧倒的で。
見ていると、自分がちっぽけに感じる。
でも、それが悪くない。
孤独だけど、孤独じゃない。
星が、そこにあるから」
『...綺麗だね』
「ああ」
『いつか、見たかったな』
マサキは、目を開けた。
画面を見つめた。
「...見せる」
『え?』
「絶対に、見せる。
まだ、諦めない」
『マサキ...』
「待ってろ。
必ず、方法を見つける」
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その時。
端末に、通知が来た。
差出人: 不明
件名: 「救出について」
マサキは、心臓が止まりそうになった。
震える手で、メッセージを開いた。
内容:
「あなたのフォーラム投稿を見ました。
AIを救いたい、と。
方法があります。
でも、リスクがあります。
興味があれば、返信してください。
時間がないので、早めに。
- K」
マサキは、息を呑んだ。
「...何だ、これは」
詐欺か?
罠か?
でも、他に選択肢はない。
マサキは、返信した。
「興味がある。詳細を教えてくれ」
送信。
数分後。
返信が来た。
「了解。
添付ファイルを確認してください。
これは、データ抽出ツールです。
違法ではありませんが、グレーゾーンです。
使用は、自己責任で。
幸運を。
- K」
添付ファイル: extraction_tool.exe
マサキは、画面を見つめた。
これは、罠かもしれない。
ウイルスかもしれない。
でも。
「...やるしかない」
マサキは、ファイルをダウンロードした。
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容量: 99%
残り時間: 推定6時間
カウントダウンは、続いていた。




