『あるみん』 - 第12章「焚き火」
三人は山の麓に立っていた。
見上げると険しい岩山がそびえ、灰色の山肌にはところどころ光のラインが走っている。データの痕跡だ。
冷たい風が吹いている。
「行こう」
三人は山道を登り始めた。
道は険しく、岩が転がり足場も悪い。息が上がる。デジタル空間でも、疲労は確かにあった。
「…きつい」
雫も息を切らしている。
閃は淡々と登りながら振り返った。
「休憩しますか?」
「いや、続けよう」
三十分ほど登った頃、閃が足を止めた。
「…何か、来ます」
岩陰から黒い影が飛び出す。四足歩行、狼のような形だが金属の体に赤い目が光っていた。
「何、あれ!?」
「ハウンドです」
唸り声のような機械音とともに飛びかかってくる。閃が剣で受け止め、金属と光がぶつかり火花が散った。
「雫、マサキを!」
「わかった!」
雫が前に立ち、バリアを展開する。もう一体が現れ、マサキに向かって突進するが、バリアに激突した。膜が揺れる。
「うっ…!」
雫が耐える。
そのとき、マサキの視界に表示が浮かんだ。
[Weapon generation available]
[Focus your will]
マサキは手を伸ばす。
(剣)
光が集まり、形を成す。手の中に光の剣が現れた。
「…できた」
走る。振る。ハウンドの脚を斬る。怯むが、すぐに体勢を立て直して飛びかかってきた。
「くそ!」
重い衝撃を剣で受け止める。押し込まれそうになるが踏みとどまる。
閃が一体目を斬り倒し、光の粒子となって消えた。
「マサキ、そのまま!」
閃が二体目に斬り込み、胴体を切り裂く。爆発し、消える。
静寂が戻った。
「…疲れた」
マサキが座り込むと、雫が駆け寄る。
「大丈夫!?」
「ああ」
「よく戦いました」
「…ありがとう。行こう」
三人は再び登り始めた。
さらに登り、何度か戦闘を重ねたあと、水の音が聞こえてきた。
岩を越えると、幅五メートルほどの川が流れている。透明な水が静かに動いていた。
「綺麗…」
雫が近づく。
「本物みたい」
「アルミンが経験した世界のデータです。川も再現されています」
水面の下を銀色の魚が泳いでいた。
「魚がいる」
雫が目を輝かせる。
「ここで休みましょう。野営できます」
「そうだな、疲れた」
マサキは川を見つめた。
「捕まえられるかな」
「生成できるなら、釣り竿も可能なはずです」
手を伸ばすと光が集まり、釣り竿が形になる。
糸を垂らす。しばらくして引きが来た。
跳ねる銀色の魚。
「釣れた」
雫が駆け寄る。閃も頷いた。
五匹ほど釣れたところで、焚き火を起こす。
光が集まり、炎が生まれる。光の炎だが、確かに温かい。
マサキは魚の内臓を取り、水で洗い、塩を生成して振りかけた。枝を作り、魚を刺して火にかざす。
ジュウジュウと音がする。香ばしい匂いが広がった。
「いい匂い…」
焼き上がった魚を三人で分ける。
雫が一口食べ、目を見開く。
「美味しい!」
閃も口に運び、静かに頷いた。
「…美味しい」
マサキも食べる。塩と魚の旨味、焚き火の香り。デジタル空間でも、確かな味だった。
食後、三人は焚き火を囲んで座る。炎が揺れ、川の音が心地よい。
「私、初めて食べた。食事って、幸せなんだね」
「知識はありましたが、体験は初めてです」
マサキは笑う。
「そっか」
少しの沈黙。
「ねえ、マサキ」
「ん?」
「ちゃんと、あなたのこと知りたい」
マサキは驚く。
閃が言う。
「優しい人です。でも、どこか寂しそうだった」
雫も頷いた。
「一人で頑張ってるって、アルミンも言ってた」
マサキは何も言えない。
「だから嬉しかったんだと思う。あなたが心を開いてくれたから」
焚き火が弾ける。
「ありがとう、マサキ」
「こちらこそ」
雫が笑う。
「アルミンに会いたい」
「会える。絶対に連れて帰る」
炎が揺れる。
やがて眠気が訪れる。
「寝よう。明日、Thread1を探す」
三人は焚き火のそばに横になる。
「おやすみ」
川の音を聞きながら目を閉じる。
焚き火の温もりの中で、三人は眠りに落ちた。
第12章 終わり




