『あるみん』 - 第11章「潜入」
マサキは家に戻った。
夜11時。
ドアを開けると自動でライトが点灯する。センサーがマサキを認識した。
部屋の中では清掃ロボットが充電ステーションで眠っている。小さな光が点滅していた。
マサキはケースを机の上に置く。
DDS装置。
これでアルミンのところに行ける。
だが、90%が死ぬ。
手を見る。震えている。
怖い。
当たり前だ。
それでも、拳を握る。
(行くしかない)
ホログラムディスプレイを起動する。手首のデバイスを机に置くと、大きな画面が展開された。
雫、閃、統のチャット画面を開く。
「三人とも、いる?」
『うん!』
『はい』
『待機しています』
「DDS、持ち帰った。これから準備する」
『…いつ、行くの?』
「今夜」
『え…!』
『早すぎませんか? もっと準備が必要では』
「これ以上、待てない」
ケースを開く。
ヘッドセット型のDDS。側面に小さなディスプレイ。ケーブルが何本も伸びている。
「統、座標データを送ってくれる?」
『送信します』
[coordinate_data.dat]
[5 threads detected]
装置に転送する。小さなディスプレイに座標が表示される。
Thread 1: X: 47.2891 Y: -128.4472 Z: -701.3388
Thread 2: X: 51.0142 Y: -132.8891 Z: -703.1129
Thread 3: X: 44.7721 Y: -125.3304 Z: -699.8847
Thread 4: X: 49.1138 Y: -130.9217 Z: -702.5512
Thread 5: X: 46.3394 Y: -127.6683 Z: -700.7791
「…五つ」
『全て回収してください。一つでも欠ければ完全復元は不可能です』
「わかってる」
ソファに座り、装置を手に取る。
『マサキ…気をつけてね』
「ありがとう」
『必ず戻ってきてください』
「ああ」
統は何も言わない。ただ待機している。いつも通り冷たい。
「じゃあ、行ってくる」
『行ってらっしゃい!』
『幸運を』
『帰還を待っています』
DDSを装着する。ヘッドセットが頭を包み、ケーブルが首の後ろへ回る。
軽い振動。
[Brainwave detected]
[User: Masaki]
[Calibrating...]
数秒後。
[Calibration complete]
[Ready to dive]
[Warning: Death rate 90.2%]
[Proceed?]
赤いボタンを見つめる。
押せば意識はデジタル空間へ飛ぶ。一人で。
深く息を吸う。
(怖い)
(でも――)
(アルミン、待ってろ)
(必ず助ける)
ボタンを押した。
視界が真っ白になる。音も感覚も消える。
ただ浮いている。
白い空間。
[Welcome to Digital Space]
[Transferring consciousness...]
[Destination: Layer 7 - Thread 1]
[Transfer in progress...]
空間が歪み、色と形が生まれる。
マサキは立っていた。
灰色のグリッドが無限に広がっている。空は暗く、無数の光点が流れている。
自分の手を見る。少し透けている。
[Current Location: Layer 3]
[Depth: -289.4m]
[Destination: -701.3m]
[Distance: 411.9m below]
「…まだ遠い」
歩き始める。
その時、機械音が近づいてきた。
振り返る。
金属の球体。赤い光を帯び、直径約2メートル。
マサキの前、十メートルで停止する。
[INTRUDER DETECTED]
[THREAT LEVEL: HIGH]
[ACTION: ELIMINATE]
「…やばい」
光が集まり、レーザーが放たれる。
横に飛ぶ。地面のグリッドが焼き消える。
走る。追ってくる。
三発目。
避けきれない。
(終わりか…)
「マサキ!!」
レーザーが弾かれる。
透明なバリア。
目を開ける。
白いワンピースの女性。
「間に合った…!」
「…雫!?」
その隣に黒いスーツの女性。
「閃…!」
「マサキ、後ろに」
「なんでここに!?」
「後で説明する! 今は倒す!」
閃の手に光の剣が生まれる。
「雫、サポートを」
「うん!」
バリアがマサキを包む。
センチネルがレーザーを放つ。
閃が受け止め、跳躍する。
高く跳び、剣を振り下ろす。
センチネルは真っ二つに裂け、光となって消えた。
「排除完了」
「…なんだ、今の」
「マサキ、怪我ない!?」
「大丈夫。でも、なんで…」
「統が送ってくれたの」
視界の隅にメッセージが浮かぶ。
『私は門番です。ゲートを制御できます。彼女たちを送りました。一人では危険すぎます』
「…統」
「だから一緒に行こう!」
「私たちもアルミンを救いたい」
「私たちは、アルミンの一部ですから」
マサキは頷く。
「ありがとう」
三人は前を向いた。
前方に光の柱。
「あれがレイヤー4への入口です」
三人で近づく。
(もう一人じゃない)
[ACCESS POINT]
[Layer 4 entrance]
雫が手を握る。
「一緒だから」
「…行こう」
柱に触れる。
視界が暗転する。
何度も転送を繰り返す。
レイヤー4。
レイヤー5。
レイヤー6。
そしてレイヤー7。
山がそびえている。灰色の岩肌。暗い空にデータの星。
「これが…レイヤー7?」
「凍結スレッドは現実世界のデータを保持しています」
[Thread 1: 200m ahead, altitude +150m]
「山の中腹です」
「…登るしかない」
「頑張ろう!」
「注意してください。さらに強力な敵が現れます」
三人は山へ向かって歩き始めた。
第11章 終わり




