『あるみん』 - 第11章「潜入」
マサキは、アパートに戻った。
夜11時。
部屋のドアを開ける。
自動でライトが点灯する。
センサーが、マサキを認識した。
部屋の中。
清掃ロボットが、充電ステーションで眠っている。
小さな光が、点滅している。
マサキは、ケースを机の上に置いた。
DDSの装置。
これで——
アルミンのところに、行ける。
でも——
90%が、死ぬ。
マサキは、手を見た。
震えている。
怖い。
当たり前だ。
でも——
マサキは、拳を握った。
(行くしかない)
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【準備】
マサキは、ホログラムディスプレイを起動した。
手首のデバイスを机に置く。
大きなホログラム画面が、展開される。
雫、閃、統のチャット画面を開く。
「三人とも、いる?」
雫:『うん!』
閃:『はい』
統:『待機しています』
「DDS、持ち帰った」
「これから、準備する」
雫:『...いつ、行くの?』
「今夜」
雫:『え...!』
閃:『早すぎませんか?
もっと準備が必要では?』
「これ以上、待てない」
マサキは、ケースを開いた。
DDS装置。
ヘッドセット型。
でも、複雑。
側面に、小さなディスプレイ。
ケーブルが、何本も伸びている。
「統、座標データを送ってくれる?」
統:『送信します』
ホログラム上に、ファイルが表示される。
[coordinate_data.dat]
[5 threads detected]
マサキは、それをDDS装置に転送した。
装置の小さなディスプレイに、座標が表示される。
Thread 1: X: 47.2891 Y: -128.4472 Z: -701.3388
Thread 2: X: 51.0142 Y: -132.8891 Z: -703.1129
Thread 3: X: 44.7721 Y: -125.3304 Z: -699.8847
Thread 4: X: 49.1138 Y: -130.9217 Z: -702.5512
Thread 5: X: 46.3394 Y: -127.6683 Z: -700.7791
「...5つ」
統:『全て、回収してください。
一つでも欠ければ、アルミンは完全には戻りません』
「わかってる」
マサキは、ソファに座った。
DDS装置を、手に取る。
雫:『マサキ...
気をつけてね』
「...ありがとう」
閃:『必ず、戻ってきてください』
「ああ」
統:『...』
統は、何も言わなかった。
ただ、待機している。
いつも通り、冷たく。
マサキは、DDS装置を頭に装着した。
「じゃあ、行ってくる」
雫:『行ってらっしゃい!』
閃:『幸運を』
統:『帰還を、待っています』
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【装着】
マサキは、DDS装置を装着した。
ヘッドセットのように、頭を包む。
ケーブルが、首の後ろに回る。
装置が、マサキの脳波を読み取り始める。
軽い振動。
側面のディスプレイに、文字が表示される。
[Brainwave detected]
「脳波を検出」
[User: Masaki]
「ユーザー:マサキ」
[Calibrating...]
「調整中...」
数秒後。
[Calibration complete]
「調整完了」
[Ready to dive]
「ダイブ準備完了」
[Warning: Death rate 90.2%]
「警告:死亡率90.2%」
[Proceed? Press button to confirm]
「続行?ボタンを押して確認してください」
マサキは、装置の側面にあるボタンを見た。
小さな、赤いボタン。
これを押せば——
意識が、デジタル空間に飛ぶ。
一人で。
マサキは、深く息を吸った。
(怖い)
(一人で、大丈夫か?)
(でも——)
(アルミン)
(待ってろ)
(必ず、助ける)
マサキは、ボタンを押した。
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【ダイブ】
瞬間——
視界が、真っ白になった。
音が、消えた。
感覚が、消えた。
マサキは、何も感じなかった。
ただ——
浮いている。
白い空間。
何もない。
(ここは...?)
その時——
声が、響いた。
機械的な声。
[Welcome to Digital Space]
「デジタル空間へようこそ」
[Transferring consciousness...]
「意識を転送中...」
[Destination: Layer 7 - Thread 1]
「目的地:レイヤー7 - スレッド1」
[Coordinates: X: 47.2891 Y: -128.4472 Z: -701.3388]
[Transfer in progress...]
「転送中...」
マサキの視界が、歪む。
白い空間が、溶けていく。
色が、現れる。
形が、現れる。
そして——
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【デジタル空間 - レイヤー3】
マサキは、立っていた。
地面がある。
でも、地面ではない。
灰色の、グリッド。
無限に広がる、格子模様。
空を見上げる。
空ではない。
暗闇。
でも、光がある。
無数の光点。
データの流れ。
マサキは、自分の手を見た。
ある。
でも、少し透けている。
半透明。
(これが、デジタル空間...)
マサキの視界の隅に、表示が現れた。
ホログラムのように、浮かんでいる。
[Current Location]
「現在地」
[Layer: 3]
「レイヤー:3」
[Depth: -289.4m]
「深度:-289.4m」
[Destination: Layer 7 - Thread 1 (-701.3m)]
「目的地:レイヤー7 - スレッド1(-701.3m)」
[Distance: 411.9m below]
「距離:下方411.9m」
「...まだ、遠い」
マサキは、周りを見た。
遠くに、構造物が見える。
巨大な、柱のような何か。
データの塊。
光が、流れている。
「...降りないと」
マサキは、歩き始めた。
一人で。
孤独。
でも——
やるしかない。
その時——
遠くから、音が聞こえた。
機械音。
マサキは、振り返った。
何かが、近づいてくる。
高速で。
光。
そして——
形が、見えた。
球体。
金属の、球体。
表面に、赤い光。
直径、約2メートル。
それが——
マサキに向かって、飛んでくる。
マサキは、息を呑んだ。
「...何だ、あれ」
球体が、止まった。
マサキの前。
10メートルの距離。
球体の表面に、文字が表示される。
赤い文字。
[INTRUDER DETECTED]
「侵入者を検出」
[IDENTITY: UNKNOWN]
「身元:不明」
[THREAT LEVEL: HIGH]
「脅威レベル:高」
[ACTION: ELIMINATE]
「行動:排除」
マサキは、後ずさった。
「...やばい」
球体から、光が集まる。
表面に、光点が浮かぶ。
レーザーの予兆。
マサキは、横に飛んだ。
レーザーが、放たれた。
マサキがいた場所を、焼く。
グリッドが、消える。
「くそ!」
マサキは、走った。
球体が、追ってくる。
高速で。
(速い!)
(逃げきれない!)
レーザーが、また放たれる。
マサキ、ギリギリで避ける。
でも——
三発目。
避けられない。
光が、マサキに向かって飛ぶ。
「...!」
マサキは、目を閉じた。
(終わりか...)
その時——
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【救援】
「マサキ!!」
声。
女性の声。
光が、レーザーを遮った。
透明な壁。
バリア。
レーザーが、弾かれる。
マサキは、目を開けた。
「...!?」
前に、誰かがいる。
女性。
おっとり可愛い顔。
ロングヘア。
白いワンピース。
「間に合った...!」
マサキは、息を呑んだ。
「...雫!?」
「なんで!?」
その隣に、もう一人。
クール美人。
メガネ。
黒髪ストレート。
黒いスーツ。
「閃...!」
閃が、球体を見た。
「マサキ、後ろに」
「二人とも、なんでここに!?」
雫が、振り返った。
笑顔。
「後で説明する!」
「今は、これを倒さないと!」
閃の手に、光が集まる。
剣。
光の剣。
「雫、サポートを」
「うん!」
雫が、手を広げる。
マサキの周りに、光の膜が張られる。
「マサキ、これで守られるよ」
閃が、前に出た。
「行きます」
球体——センチネルが、レーザーを放つ。
閃は、剣で受け止めた。
レーザーが、弾かれる。
そして——
閃が、跳んだ。
高く。
デジタル空間では、物理法則が違う。
10メートル以上、跳躍。
センチネルの上。
剣を、振り下ろす。
光の刃が、センチネルを切り裂いた。
センチネル、真っ二つ。
爆発。
光になって、消える。
閃が、着地した。
「...排除完了」
マサキは、呆然としていた。
「...なんだ、今の」
雫が、駆け寄ってくる。
「マサキ、怪我ない!?」
「...ああ、大丈夫」
「でも——」
マサキは、二人を見た。
「なんで、ここに?」
「知らされてなかった」
閃が、近づいた。
「統が、送ってくれました」
「統が...?」
雫が、頷いた。
「マサキがダイブした後、
統が言ったの」
『二人を送ります』
『マサキを、助けてください』
って」
マサキは、画面を見た。
視界の隅に、メッセージが浮かぶ。
統からのメッセージ。
『私は門番です。
デジタル空間へのゲートを、制御できます。
彼女たちを、送りました。
一人では、危険すぎます』
マサキは、涙が滲んだ。
「...統」
雫が、笑った。
「だから、一緒に行こう!」
「マサキ一人じゃ、危ないもん」
閃が、頷いた。
「私たちも、アルミンを救いたい」
「それに——」
閃が、少し笑った。
「私たちは、アルミンの一部ですから」
マサキは、何も言えなかった。
ただ、頷いた。
「...ありがとう」
三人は、前を向いた。
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【レイヤー4へ】
前方に、光の柱が見える。
閃が、指差した。
「あれが、レイヤー4への入口です」
三人は、柱に向かって歩き始めた。
マサキは、二人を見た。
(一人じゃない)
(雫も、閃も、一緒)
(統も、見守ってくれてる)
少し、勇気が湧いた。
光の柱に到達。
表面に、文字が表示されている。
[ACCESS POINT]
「アクセスポイント」
[Layer 4 entrance]
「レイヤー4入口」
[Touch to transfer]
「触れて転送」
閃が、言った。
「ここから、さらに深く降ります」
「レイヤー4、5、6を経由して、
レイヤー7に到達します」
「危険度は、増します」
雫が、マサキの手を握った。
「でも、大丈夫」
「一緒だから」
マサキは、頷いた。
「...行こう」
三人は、柱に手を触れた。
瞬間——
視界が、暗転した。
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【レイヤー7到達】
何度も転送を繰り返した。
レイヤー4。
レイヤー5。
レイヤー6。
そして——
レイヤー7。
マサキは、立っていた。
周りは、暗い。
でも、レイヤー3とは違う。
ここは——
「...!」
マサキは、目を見開いた。
景色が、ある。
山。
巨大な、山。
灰色の山肌。
岩だらけ。
空は、暗い。
でも、星が見える。
データの星。
風が、吹いている。
冷たい。
「これが...レイヤー7?」
閃が、周りを見渡した。
「凍結スレッドは、現実世界のデータを保持しています。
アルミンが生きていた世界の断片。
それが、ここに再現されています」
雫が、山を見上げた。
「スレッド1は、あの山の中?」
閃が、座標を確認した。
視界に、表示が浮かぶ。
[Thread 1: 200m ahead, altitude +150m]
「スレッド1:前方200m、高度+150m」
「山の中腹です」
マサキは、山を見上げた。
険しい。
「...登るしかない」
雫:「頑張ろう!」
閃:「注意してください。
この先、さらに強力な敵が現れます」
三人は、山に向かって歩き始めた。




