GP39(012) 「絶縁」
人数 115名
座標 95° 15km
傾斜 190° 8°
私が手を出さなくても、AeriallagとMeltは勝手に戦っている。
Aeriallagがドローンを4体展開する。四方からMeltを囲んだドローンが発砲した。
それをMeltが器用に躱す。
距離を詰めようと接近するMeltに対し、Aeriallagは空中を飛び回って離れていく。
「チマチマ跳んで暇か!?」
「えぇ、時間はあるので」
何処からか飛んできた漁夫の弾丸も、Aeriallagは綺麗に避けた。
「ほらほら!こんな目立ってるのに落とせないなら、諦めた方がいいんじゃないか?」
新しい玩具を手に入れたガキみたいに、Aeriallagはうるさい。
それにしても、本当に技術推移が早い。付け焼き刃の装備じゃ太刀打ち出来ない自覚がある。
2人を置いて逃げようかとも思うが、むしろ今は、ランカーがドンパチ暴れているここの方が虫除けになってる。
…違和感がある。それを探ったら逃げる。
ドローンが一体私の近くに飛んできた。銃口をこちらに向けている。
いつ発砲するか分からないそれを警戒して射線から出ると、ドローンがこちらに向き直る。
AeriallagはMeltとの戦闘に夢中で、とてもじゃないが私に手動で噛み付いている余裕は無いはずだ。
「あんた、これAI?」
「あぁ、素敵なお友達も使ってたろ?」
ペクトゥスの性能のままなら、誰も使わない。こいつはそれの改良版だ。
照準を合わせてドローンを撃つ。一発目は避けられた。
「自動回避までついてるの?AIにおんぶにだっこね」
「お前とMeltと同じだよ」
「違うし。辞めてよ」
違う。違和感はこれじゃない。AeriallagとMeltの戦いを観察する。
これまで直線的だった戦闘が、より高次元の物に進化している。
それは間違いなくシュリが作った流れだ。あのGPとは思えない異次元の回避性能は、後にも先にも真似できそうに無いだろう。
ライフルを構えて対象にロックオンする。発砲した弾丸を、Meltは紙一重で回避した。
あの時のシュリみたいに。
「…おいおいおい、痴話喧嘩か?」
「…Melt、サイトウって知ってる?」
「……はい?」
「私はあんたより少しだけこの環境に詳しいから教えてあげる。今のあんたみたいな挙動が出来るOSは、後にも先にもたった1台しかない訳」
Aeriallagが一瞬止まる。
「私はあんたより、横で、裏で、ずっと見てきたんだよ。この鳥目には見抜けなかったみたいだけど」
「はは…こりゃ1本取られたな」
Meltが攻撃を辞めてビルの上に立つ。返事をしない。
「サイトウを積んでるだろ。お前」
Meltが背中を向けて逃げ出す。すかさずライフルを撃つ。
当たり前のように躯体を捻らせて避けるMeltが遠ざかって行く。
「…今のは当たりみたいだな。おい、どうするんだ?」
「…追う。引きずり出して問い詰める」
「ははっ!そりゃあいい!素敵なお友達に再会の挨拶をしねぇとな!」
「あんたと組むなんて誰が言った?」
「むしろ誰か言ったのか?これは競走だよ、トゥエルブ。俺だって、素敵なお友達を取られてキレてるんだ」
Aeriallagが空中に飛び立ちMeltを追い掛ける。私は何もせず立ち尽くした。
今の反応は黒だ。あいつはシュリを攫い、サイトウを盗んで今あの機体に積んでいる。
シュリが易々手放すとは思えない。無理やり奪ったか、あるいは。
「マジか…ヤバい展開だ」
「追い掛けるの?」
「弔い合戦だ!」
「文字通り溶かしてやれ!」
コメント欄が加速する。また少し、地面がかたむいた。
「…あいつ、まだ配信付けてる?」
「付いてる 真っ直ぐ逃げてる」
「もしかしてリタイアするか?」
「Meltの目的はなんだ?気になる」
「Aeriallagとの共闘とか誰が予想したよ」
とは言え、今の私がこの戦場を無策で突っ切ろうとした所で、漁夫に蜂の巣にされるのは明白だ。
今は、あれを待つのが最善だ。どのみちMeltがリタイアするのなら、私はどうする事も出来ない。
残りの人数が100を切った。ハーフタイムまであと30人。
「Meltの位置、常に見張ってて、リタイアしたら教えてね」
「はーい」
「了解」
「今別の奴と戦ってるわ」
あれが来るならもうすぐだ。シュリと居たMeltが、このゲームのアップデートを知っているかどうか。
真ん中の巨大な塔から、耳障りな警報音と共に、全体アナウンスがけたたましく流れ出す。
[間もなく、ハーフタイム突入任務が始まります。落下防止フィールドを展開します]
上空を大きな飛行艇が通る。一瞬影が指した。その飛行艇から、他よりも大きな人型の機体が落ちてくる。
「来たー!」
「朗報 Melt脱出できず!」
「Anomie降臨!」
「レイドスタート!」
ハーフタイム突入任務、Anomie討伐戦。ゲーム以外の目的を持って参加する不届き者対策と、マンネリ化した前半の乱戦を変えるために追加されたコンテンツ。
Anomieの機能停止まで人数が半分になってもハーフタイムには突入せず、外縁へのリタイアは不可能になる。
Anomieのタイプは3種類。今回はどれだ。
「Anomieは高機動タイプだ!」
「流石運営!分かってやってるだろ!」
「真ん中行った方がいいね!それともMelt追う?」
遠くまで広がる天盤都市の外縁を、赤い閃光が高速で飛んでいる。少しずつ天盤の傾きが戻ってきた。
「…ま、あれがいちばん倒しにくいんだけど」
「全く同感だよ。でもまぁ、楽しいから良いか」
横に並んできた白黒のGP。Pandaだ。あれ以来こいつにも気に入られてしまい、こうしてちょくちょく顔を出しに来やがる。
「何人落ちると思う?僕は今回は割とサクッと行ける気がするんだよね。ランカーが割と居るしさ」
「あっそう。それは残念」
「鳩から聞かせてもらったよ。僕と彼との約束を横取りした奴を見つけたんだってね」
「…シュリは殺人者だ。もうそんな約束は消えたよ」
「そんな事は関係ないさ。確かに僕はどっち付かずで遊んでるけど、それでも1度取り付けた約束はちゃんと守るからね」
「…ふーん」
コメント欄が、Meltが内側に逃げてる事を伝えてくる。
「…どうすんの?Panda」
「そうだなぁ…折角だし僕は、Anomieの方に行くよ。時間を稼ぐ気は無いから、出来るだけとっとと終わらせなよ」
Pandaが赤い閃光目掛けて飛んで行く。鳩の教えてくれる座標に私も飛び出す。
心臓が脈打っている。自分の身体を感じるのは久しぶりだ。
興奮でも、高揚でもない。私は今、ちゃんとシュリが頭を下げられる場所を奪った奴らが憎い。
Aeriallagが地面に向かって撃ち下ろしている。一瞬見えた派手な色の装甲のGPを視界に捉えた。
「遅かったじゃねぇか。魔女裁判は始まってるぜ」
「まだ倒せてないの?あれだけ意気込んでたくせに」
「当たり前だ。メインディッシュが来る前に終わらせる程、俺もとんちんかんじゃねぇよ」
ビルの上からMeltを見下ろす。遠くで音がした。誰かがAnomieと交戦を開始した。
「アバズレ、このイベント知らなかったの?」
「……えぇ、私は忙しいんで」
「じゃあこれから、たっぷり休めよ」




