GP38 (012) 「経帷子」
人数 142名
座標 90° 15km
傾斜 0° 0°
「待機」
「今日こそ後半まで」
「人殺した味方どうなったん?」
「通報しました」
「頑張って!」
ため息をひとつ吐く。不快だ。
もしもシュリが居るのなら、とっくに首根っこ捕まえて表に引きずり出している。
ロギの顔の広さで3ヶ月見つからないなら、私が何をしても無駄だ。
いや、ロギが探してるのは、サイトウの方かもしれない。どっちにしたって手遅れだ。
Insightの影響で、自律補助AIは驚くほど早く浸透した。
これまで牽制で用いられてきた格闘武器を、明確に攻撃用として運用するフレームに光が当たり、ピボットゲームは今格闘環境にある。
幸いあれからまだ死亡者は居ない。それでも豆鉄砲をチマチマ撃つよりも、手足だろうと重い一撃を入れられる格闘は、さらにゲームスピードを上げた。
波に乗る気にはならない。そのせいか順位は落ち気味だし、もう2回も落とされた。
横に居たInsightの脅威は1番知ってたはずだ。
「音聞こえますかー?」
「はーい」
「始まった」
「聞こえまーす」
腹部の接続口とDarlingを繋げる。脊椎を通って脳に情報が伝わるのが分かる。
小さく口から漏れる声を、コメント欄は相変わらずピンク色で煽る。
サイボーグ化するにあたって、GP操縦における副次的な姿勢制御やコマンドを脳と直接やり取り可能にしている。
多少のAIの代わりにはなるが、こんなバカな事をしているのは他に居ない。
目の前のランプが赤く点灯する。集中しろ。
[登録コード確認。交戦申請を許可します]
青色のランプと共に床が抜ける。いつもの光景だ。無数のGPが、巨大な天盤に落ちていく。
その中にInsightを探す自分がいる。見つけたら即効で潰す。引きずり出して、私のチャンネルで土下座配信だ。
…勝てるだろうか、あいつに。
地面に降り立つ。交戦距離には3体。今日は多い。少なくとも2体は格闘持ちだ。初動はなるべく戦いたくない。
「ランカーは近くに居ないね」
「ハーフタイムまでが勝負」
「頑張れ!!」
「鳩待機中」
混戦する前半は、Darlingはすこぶる相性が悪い。ハーフタイムまで生き残れば、その後はいつものゲームと大差は無い。
そんな事は、相手も分かってる。
アラート音と共に、視界に一体出てきた。予想通り格闘持ちだ。
中型の実体剣を前に構えながら、高速で私の方に向かってくる。
ビルの間に入りながら距離を取る。向こうも迷いなくビルの隙間に入ってた。
ライフルを構える。左右に避けられないこの隙間なら、間合いが遠いなら私の有利。
間合いに入られたら私の不利。
撹乱の為に相手が跳ねた。降下のタイミングで撃つ。
実体剣を構えて射撃をいなして来た。その代わり敵の速度が一瞬落ちる。構わずもう1発撃つ。
敵の空いた腕部からフレアを展開した。私の弾丸が掻き消された瞬間、一気に詰めてくる。
敵の間合いに入った。目の前で大きく振り下ろされる、ライフルを横にして剣を受け止める。
流石に格闘環境で、ライフルがすぐに切られる耐久力なんかにはしない。もう1個の腕でDarlingを掴もうとする敵に、Darlingは膝蹴りをお見舞いする。
敵に当たるギリギリで、強烈な起動音と火花が飛び散った。
敵の腰が大きく抉れ、立てなくなった敵が倒れる。
腿から膝にかけて内蔵された杭が、膝から下に向かって飛び出ている。強制的に排出して立つ。
普通に考えて、こんな兵器はいつ人を殺してもおかしくない。これまでのゲームなら出禁だ。
シュリがそうだったように、高性能の姿勢制御が可能になった今の環境では、こういう武器が乱立している。
腹部で繋いだDarlingと格闘補正を共有して、狙った位置に当てられるように設計してある。
その分、頭に入る情報は増えたけど。
「派手過ぎてヤバい」
「これは変態ですね」
「1キル!」
そもそもこのパイルバンカーも、Insightの盾に内蔵していた物の予備を改造した物だ。
本当に切羽詰まった時の「とっておき」として持っておいた物が、まさか普通に使える時が来るなんて。
動かないGPを横目に、肩に積んだ予備の杭を腿の装填口に入れる。
天盤が傾いた。私は横側だ。相変わらず数が減るのが早い。
「次、どこにいる?」
「近くはまだやり合ってるね」
「ランカーが少ないのは50°の辺り」
「Melt近付いてきてるね」
「まだキルする?逃げる?」
「…あいつ復活したの?」
シュリが消えてから、何人かのランカーは音信不通だった。Meltもそのうちの1人だ。
専ら、ほとぼりが冷めるまで待ってる連中だ。炎上の爆心地の私が出てきているのに、何をそんなに怯えているのやら。
「…Meltはどこら辺?もう来る?」
一体どういう腹づもりなのか、聞いてみたい。
敵を警戒しながらビルの隙間で待っていると、近くに降りた音がした。ビルの影から派手な色の機体が顔を見せる。
「トゥエルブさん…!ご無事でなによりです」
「…いつも影からみてるだけのストーカーなのに、今日は顔出すんだ」
「ごめんなさい。気になってしまい」
おどおどした声で話す。相変わらず何を考えてるのか全然分からない。
「ま、また隠れるようなら探しに行ってやろうと思ってたし」
「ほ、本当に?」
「再会の喜びを分かち合おうなんてつもりは無いけど?」
遠くで金属がぶつかる音がする。
「あんた、今どう思われてるか知ってる?」
「……」
「Insightが狙われて、馬鹿な事して、その後不明機体に攫われた」
「……」
「その時の試合に参加せず、かつ休止をしばらく取ったのは、あんた含めて3人。意味分かるよね?」
「そんな…違います…」
そりゃあ、そういう反応が返ってくるのは知っている。証拠を出せと言った所で、無茶な話だ。
容疑者3人のうち、シュリとゲームで関わりがあったのはこいつだけ。
私を遠巻きに見てきて、なにやら粘着しているこいつがその疑いがある事が、気持ち悪くて仕方ない。
「私は今、あんたを信用してない。そんな奴が周りをウロチョロされるのは嫌なの。これから先、付きまとってるなら撃つよ」
Meltの反応を伺う。立ち尽くしたGPは動かない。
「…分かりました。付きまとうのは辞めます」
思いのほかあっさり引き下がったと思ったMeltが続ける。
「…ですので、信頼を回復するまで、貴女を狙うランカーを倒しますね」
何も言えない中に、突如アラート音が響く。すかさず回避行動を取る。
空からのグレネードを避けた代わりに、機銃の攻撃を受ける。舌打ちが漏れる。Aeriallagだ。
「密会か?」
「あんた、運が悪いね。今ちょうど、あんたの話をしてたんだ」
何も言わずにMeltが飛び出した。狙う先はAeriallagだ。ひらりと空中で避けたAeriallagが軽快に笑う。
「素敵なお友達が消えたら、すぐに乗り換えか?薄情なやつだぜ」
「そう見える?鳥目って大変だね」
「だから、俺の見えない所に行けよ。例えば海の底とかな」
明らかに前よりAeriallagの動きがいい。
「…あんた、何積んでるの?」
「ははっ!その質問をまさか俺がされるとはな。時代遅れはお前らくらいだぜ!」
Aeriallagの背中から数機のドローンが展開された。
これも、Insightでペクトゥスでやっていた奴だ。
「…ほんと、悪趣味な奴しかいないわ」




