GP40(012) 「羽化」
人数 60名
座標 200° 30km
傾斜 150° 5°
「ほう…あれが噂の」
「先日検査したturtleとの共通点は、あまり見受けられませんね」
「伍長殿は?」
「まだ出場出来ていないそうです」
「ふむ…では、今回は観戦するとしよう。ポップコーンを持ってこい」
「了解です。何味でしょうか?」
「塩だ!!急ぐ必要は無いぞ!!」
―――
私もAeriallagも射撃特化だ。2人で囲んでMeltを撃つが、一発も当たらない。
サイトウのイカれっぷりは知ってる。だが、こんな簡単に主を変える性格とも思ってない。
確かに動きは、Insightの時とよく似ている。Meltの反応的にも、関わってるのは間違いない。
自分で啖呵を切っておいて、本当にサイトウか?と疑っている。何にしろ関わってるのなら、Meltを逃がす道理はない。
「なんか言うことないの?配信者でしょ?」
「……」
舌打ちをする。それを聞いてAeriallagから笑い声がする。
「そりゃあある訳ねぇよ。あれでもInsightは伝説だ。それをひったくってOS盗んで参加とは、とんだ腫れ物だわな!」
「…私は」
Meltはドローンの射撃を器用に躱す。
「私には、やるべき事があります。シュリさんは生きています。本当はお返しするつもりで参加したのですが、今回は居ないようなのでリタイアする次第です」
「は?お前脳みそまで腫れたか?聞いてるのはお前のお気持ちじゃねぇよ」
「あんた黙れない?」
とは言え、思ったよりすんなり吐いた。
「じゃ、私が返しておくからさ。そこから降りて逃げたら?」
「それは…」
「OSだけ外してもいいよ」
「それはだめです」
「そう」
正直少し残念だった。私だって最近のゲームスピードには手こずっているのに、こんな面倒ごとまでついてきたらたまったもんじゃない。
大体これは自分のためじゃない。短い間でも一緒に過ごしたシュリを捨てられてないだけだ。
周りに他の機体は居ない。みんなAnomieの方へ消えた。
「誰か状況整理してくんね?」
「Panda落ちたぞ」
「Meltの動きやばない?」
「Meltのコメ欄に時折変な奴混じるな」
人間的な動きに加え、明らかにシュリより反応が良い。何よりうざいのは、Meltが攻撃をしてこないことだ。
ダーリンの装備している武装では、あいつに当てるのは無理かもしれない。
「クソが、あれじゃゲームにならねぇ」
「元々ゲームする気ないんじゃない?それこそあの時の人殺しみたいに」
「……」
Meltは何も言わない。
「そうかい。Insightは奇跡のバランスだった訳だ。下手くそだったのか。あいつ」
「どうかな」
むしろシュリは才能の塊だったと思う。もしまだ生きていて、サイトウ無しで腕を磨いたシュリはどうなるんだろう。
…これは少しだけ買い被りすぎかも。
「…彼は、危険人物だ」
Meltの声が入る。
「んな事みんな分かっとるわ」
「違う、そうじゃない。彼は火花です。それが世界を揺るがす爆弾になってしまう前に、私は止めなくてはならない」
「…あんた。何者なの?」
Meltはまた黙る。一機のGPが視界に入る。細身で軽装のGPだ。
「盛り上がっているようですが、内緒話でしたか?」
「だったら配信なんかしてない」
「そうですね。ごめんなさい、気になってしまったもので」
Meltの動きが一瞬止まった。構わずライフルを撃ち込む。頭を少し掠る。
アラート音がした瞬間、機体の横を高速で横切った何かが見えた。風圧で体勢が揺れる。
Anomieだとすぐに気付く。あの細身が連れて来たか。
UIをチラ見する。残り人数は既に半分を下回っている。どのみち沢山落ちたことに変わりない。
「ま、こいつ倒さん限りMeltが逃げれんのなら好都合やな」
「その前に落ちるかも」
赤い軌道を描いて、Anomieが突っ込んでくる。横にブーストを吹かし上手く躱すが、風圧を受けてよろめく。
再びこちらに突っ込んでくるAnomieにAeriallagが撃ち込む。着弾しても止まる気配が無い。
回避のタイミングをミスしたAeriallagがAnomieの突撃を受けて怯む。フレームが歪んでいるが、まだ動けそうだ。
「…死ぬぞ、これ」
「撃ってこないね」
「他の皆様のおかげで、あれは今弾切れですよ」
細身のGPの声が入る。Meltがビルの隙間に隠れたのを目で追う。
「どうする?」
舌打ちが漏れる。細身のGPが横に来た。攻撃してくる気配は無い。
「私がAnomieに行きます。おふたりはどうぞ、彼の所に行ってください」
「…名前は?」
「機体名Casketです。トゥエルブさんですよね?」
「話は後でいい?」
Casketの返事を待たず飛び出し、ビルの隙間を進む。上空をAeriallagが飛行する。
「Melt近いよ」
「Casketって新人だよな?行けるのか?」
「このまま真っ直ぐ行けばMelt居るよ」
「Meltの方、変な会話してる」
Aeriallagが撃った。間をおかず、ビルの間で派手な色のMeltを発見する。
接近戦を持ち込む為に一気に距離を詰める。
ここに来てMeltが発砲してきたが、当てる気の無い撃ち方だ。壁を蹴って上に行こうとするMeltに撃ち込む。
持っていた盾を捨てたMeltが機体をうねらせて躱す。暗がりの中、Meltから何かが外れた。
日光の下に出たMeltの形は人型では無かった。
Aeriallagの発砲をそれが避ける。落ちた装甲が地面に落ちる。
もう1枚。
真っ黒で前に長いMeltだったものが空に浮く。4基のスラスターがXに広がり光を反射した。
手が止まった。気味が悪いと思った。空を薄く覆っていたバリアが消える。
「なにあれ」
「どゆこと?」
「待て待て」
「CasketがAnomie倒したぞ!」
「変形?」
Meltを撃つ。空中で制止していたMeltが瞬時に下に避ける。
上からAeriallagもドローンで射撃するが、それも最小限の動きで躱された。
「何だよこいつ」
Meltが一気に上に行く。照準が追いつかない。
「…警告する。この世界の行く末を決定するのは君達の行動だ。僕は世界の平和を願っているよ」
上空で、真っ黒な槍のようなMeltが、一瞬で射程外に飛び、そして見えなくなった。
その瞬間、前半終了のアラームが響く。
「…負けたな。なんだあれは」
「…シュリを攫った時の奴と同じだった」
「俺にはそうは見えなかったけどな」
「あんたあの時出てなかったじゃん」
「最高の友人にボコボコにされたしな」
「あんたに友達とか居るんだ」
肩を落としてドリンクに手を伸ばす。なんだが疲れた。正直後半までやる気にならない。
心臓が痛い。身体の不調はいつぶりだろう。これはロギじゃ治せそうにないか。




