表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

GP33 「混」

輸送機の中から見える水平線の向こうをぼんやりと眺める。この向こうのどこかに、ピボットテーブルがある。


一瞬、窓に微かに反射する俺と目が合う。綺麗にメイクした顔に、更に伸ばした髪は、女の子そのものだった。


確かに、俺の身体は女だ。でもこれが自分の顔だと言うことには、いつまで経っても慣れそうにない。


横に座ってる護衛のノエル伍長は、持ってきた端末で読み物をしている。


「…何を読まれてるんですか?」


「これかい?GP操縦の基礎本だけど…読んでみた所で分からないのは、他の兵器と変わらないね」


苦笑するノエルが端末を切って置く。


「メメは読んだことある?」


「いいえ、私はシミュレーションばかりやってました」


「その方が覚えやすいかもしれない。俺も意外と、身体で覚えるタイプだな」


「意外でも無いですが」


輸送機が止まったのは、海岸沿いの倉庫群だった。見渡す限りに広がる倉庫の周りに、整備服の人間や端末を構えた観客らしき姿が入り混じっていた。


ピボットゲーム用のGP集合倉庫。専属の土地やメカニックの居ない人達がゲームに参加するために使う公共施設だ。


軍にGPのメカニックは居ないし、軍人も何人か居るらしく、俺達もここを利用することになった。


輸送機から降りる。空を飛べるこの乗り物でも、到底あの天空都市には届かないだろう。ナハトが出迎えた良い服を着た人と挨拶をする。


横のノエルが伸びをしながら、俺の方を向く。


「どうだった?フライト経験は…って、そういえば空から来たんだったな」


「いえ…面白かったですよ」


「そう思ってる顔では無いが?」


「はい。嘘ですから」


輸送機の後ろから、2機のGPが出された。予定通り、これから搬入する。


「ノエル伍長、倉庫入れはもう1人で大丈夫ですよね?」


「あ、あぁ。もう君が同乗しなくても出来るさ」


輸送機に入れるのに、俺がわざわざ同乗したのに少し擦ったのだ。どうせそのうち捨てる装甲だが、ノエルの機体の肩部分に擦った跡がある。


機体名 Brother


「…実はな、年の離れた妹が居るんだ」


「そうなんですね」


「嘘だ」


見上げていた顔をノエルに向ける。


「普通に一人っ子さ。今妹ができた気分で、少し盛り上がってしまったようだな」


「盛り上がると嘘をつくタイプですか?」


「…面白くないかな?」


「どうでしょうね」


俺の新しい機体、Insaneに乗り込む。所々細かい所が前の機体と違うが、歩かせる分には困ることは無い。

案内の車について行く。道の隅に寄った人達が見上げてモニター越しに目が合う。


流石に年老いた人は居ないが、男も女も沢山居て、色んな服を着ていた。


指定された倉庫に入る。色んなGPが収まっていて、その中の空きのふたつのうちの一つに入る。もうひとつの空きにはBrotherが入る。


コックピットから降りてInsaneを見上げる。Insightよりも細身で、黒で統一した色合いは倉庫の中だと不気味にすら見える。


「ほら!やっぱり軍人だった」


横から声がした。女の子2人が寄ってくる。


「女の子じゃん!私は林檎、こっちが洋梨」


前に立ってる明るい方、林檎が自己紹介をいれて手を前に差し出す。

後ろにいる洋梨と呼ばれた方は、林檎の背中に隠れながら俺を見る。


「…なんの契約ですか?」


「は?契約じゃないよ!挨拶。軍人さんって硬いのはマジなんだ」


林檎が無理やり俺の手を掴んで上下に振る。ちょうどBrotherが入庫に入った。


「あんたの名前は?」


「メメ」


嘘だ。


「強いの?」


「いいえ、ゲームの参加経験はありません」


嘘だ。


「じゃ、私たちが先輩って訳だ!歳の近い女の子全然居なくてさ、分かんないことは何回でも聞いていいからね!」


後ろからノエルが慌てて走ってくる。何か言おうとしたのを制する。

護衛の立場上、俺1人で人と接触するのは避けたいのだ。


「…もしかして、あんたが上官?」


「違いますよ」


林檎がニヤニヤしながら俺の耳元に顔を近づける。


「…じゃあ、付き添い?偉い所の人なの?」


「いいえ、私の性格の問題ですね」


「何それ、面白そう」


目を細めて笑う林檎が、小さく手を振った。


「じゃ、またあとでね!行こ」


「う、うん」


「…ちょっと」


「なに?」


「まだ、洋梨さんと挨拶してません」


洋梨が小さく反応する。


「あー…別にいいよ。気にしないで」


先に動いた洋梨を追いかけるように、林檎も立ち去った。


後ろで突っ立ってるノエルは、少しばかり嫌そうな顔をする。


「…最近の若い子って、なんか分かんないな」


「私のことですか?」


「君のこともだよ。行こうか」


外に出て、ここのオーナーに挨拶に行く。さっきナハトと挨拶をしていた人だ。


本来ならばオーナーに軽く施設の説明を受けるのだが、代わりにナハトがやるらしい。


「ここは貸出倉庫やけど、ほぼ生活出来るくらいには充実してるで。お前さんらも不用意な外出は危ないやろ?」


「そうですね、助かります」


「仮眠室、シャワー、食堂、生活用品店、もちろんGPのメカニックも居るし、配信機材の取り扱いもしとる」


「凄いですね。ピボットゲーム参加者のための施設だ」


「そうですか?私はそう思いませんが…」


ノエルはウキウキで話すが、正直俺にはピンと来ない。

倉庫設備はロギの方が優れていたし、並んでいる店もショッピングモールの方が品揃えが良かった。


「お前さんの比較対象が上澄みなだけや。世の中こんなもんやで」


回っている最中、見覚えのある背中を見つけた。洋梨だ。ベンチで1人座って海を見ている。林檎は居ないようだ。


「…失礼」


ナハト達から離れて洋梨の方に向かう。真後ろまで来ても、洋梨は俺に気付かない。


横に座ると、驚いたように立ち上がる。


「…どうも」


「あ…その…」


「見かけたので、声をかけようかと」


「そんな…別にいらないです…」


なかなか難しい性格をしている。もしかしたら、あまり話しかけない方が彼女の為なのかもしれない。


洋梨は俯いて横に座る。少しだけ可愛らしいと思い、反射的に海を見た。


並んでベンチに座るこの状況が、あの時を思い出させて後悔する。

俺から座った手前、すぐに立ち上がるのも変な話だが、少し吐き気がする。


「…その、なんで軍人さんになったんですか?」


「たまたまですよ。そこにあったからって感じです」


「そっか…私と、あんまり変わりませんね」


「変わらない?」


「私も…他にやれる事がなくって…」


「ですが、GPはそんな安い金額では無いはずです。そのお金で他の事も出来たのでは?」


「GPはお下がりなんです…売れるほどキレイでもないですし…ご、ごめんなさい!こんな面白くないお話で…」


頭の中で、自分の過去がリフレインする。俺だって他の選択肢は頭になかった。

俺が彼女に何かしてやろうとするのは、果たして正解なのだろうか。

また、ココと同じ結末になるのでは無いだろうか。


「あれ?ふたりで何してんの?」


後ろから林檎の声がした。その時の洋梨の表情は、とても良い反応では無かった。


「なんの話?」


「べ、別に…」


「嘘つきー、面白い話してるんじゃないのー?」


林檎が洋梨の頬を指でつつく。


「そうだメメ!私、あなたの事知りたいからさ、ちょっと勝負しない?」


「勝負?」


「GPのデータ読み込んで、シミュレーションするの。もう1人のお兄さんと、タッグ戦ね」


ということは、林檎と洋梨のペアなのだろう。洋梨は目線を合わせようとしない。


「いいですよ。やりましょう」


嬉しそうな林檎と反対に、洋梨が少し悲しそうな顔で俺を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ