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GP32 「変身」

アシラが会議と呼んでいた話は、正直殆ど頭に入らなかった。


横にいたナハトが掻い摘んで話をしてくれる。


「要は世間にバレずにその天空都市を見つけ出して引きずり下ろそうやって話や」


あんな時間をかけてた話を、ナハトはたった一息でまとめた。


「さて…これ返すわ」


ナハトが俺に携帯を渡した。


「あのお喋りちゃんに必要やろ?」


「…ありがと」


「それと、こっからしばらくは監視を付けさせて貰うでな。外出は控えた方がええ」


「行く場所あるの?」


「無くはない」


基地から少し離れた砂漠の街。砂で汚れてるように見えるが、室内は案外綺麗で、俺の知ってるハンバーガー屋まであったが、足は向かなかった。


横に着いてきてる男は、先程ノエルと呼ばれていた人だ。怪訝な顔で俺を見下ろしている。


「…伍長殿、私はあそこに行きたいです」


「あ、あぁ…」


着慣れないノエルの着ているのと同じ服は、余計なトラブルを防ぐ為にとアシラが軍の服を出してきた。俺のサイズは女用らしい。


付けられた階級は二等兵。だが俺のは飾りで、あまり意味が無いそうだ。


「君…ここに?」


「はい」


入った店は、女性物の小物やメイクの店だ。レジに立っていた店員が少しギョッとした顔をする。


「二等兵、何故ここに?」


「嫌なら店の前で待っていて構いませんよ」


香水の匂いが鼻につく。目の前の色鮮やかな小さなカバンを持っている自分が全く想像できない。


『変装?』


『そうや。今のお前さんにシュリのまんまで出す訳にはあかんくなった。どう隠すかは好きにしたらええ。機体名も考えといてな』


メイクコーナーで立ち止まって、そういえばロギはメイクをしていたのだろうかと、今更気になってきた。

トゥエルブはしてないだろう。うん。


「プレゼントですか?」


横に立った店員が少し顔を下げて話しかけてきた。


「誰に?」


「恋人さん、とか?」


恋人。ココの事を思い出して、頭の中だけで頭を振るイメージをする。

自分が男として見られていることに、少しだけ嬉しかった。


それを今から辞める。


「私………女です」


ボソリと、そう呟いた。体の中で何かにヒビが入った気がした。それが大事なものかどうか、俺には分からない。


変装をすると言われた時、考えた結果だった。目立つサングラスなんかより、そっちの方がずっと普通だ。

それに、いつかそうしないといけないのではと、ずっと心の片隅にあった。


店員がオススメしてくれたメイク道具を、よく分からないまま眺めていると、笑顔で話しかけてくれる。


「良かったら、今私がメイクしましょうか?」


「…お願いします」


鏡の前に座った俺の顔に、店員が説明をしながら色々触っていく。少しこそばゆい。


「兵隊さんだと、やっぱり普段はメイク出来ないですよね」


「そう、ですね。今度人前に出る機会があるので、初めて買いに来ました」


「若く見えますが、お幾つなんですか?」


「分かりません。少し前まで孤児だったので」


「そうでしたか…最近色々ありますもんね。今の生活はどうですか?」


「どうでしょうか。まだ実感が湧きません」


鏡の中の俺がどんどん変わっていく。肌はより白くなり、目元はよりくっきりしてくる。

別人、とまでは言えないが、横にいたノエルの顔色の変化を察するに、効果は高そうだ。


少しだけ面白いと思ってしまう自分が嫌だった。


「髪の毛も触りますか?まだ短いですがいけますよ」


「…それは大丈夫です。ありがとうございます」


「素が良いから私もたのしくなっちゃった。また分からない事があったら聞きに来てくださいね」


今しがた顔に塗ったメイク道具を一通り買い店を出る。横を歩くノエルは変わらずチラチラ見てくるが、さっきよりも不快だ。


「…何か?」


「いや…本当に女の子みたいだ」


「女の子ですからね」


いちいち言わせないで欲しい。全く嫌な気分になる。

そうやってそっぽを向いて汚れた窓に映る自分と目が合った。


俺は可愛いんだろうか。そんな戯言が頭をよぎる。


自分の気持ちがどっちなのか、自分でもわからなくなってくる。


結局それ以外は特に見ず、そのまま基地に帰った。軍服のままなのは、せめてもの抵抗だ。周りの視線が痛い。


「おやおや…またえらい変わったな」


「…本当に変わってるか?」


「嘘や。ギリ面影がある」


どうするべきか悩んでいると、ナハトがサングラスをチラつかせる。無視する。


「そうや、お前さんの機体を決めんとな」


いつもより大きめの端末を受け取る。そこには各種フレームがパーツ単位でリスト化されていた。

タップすると詳細なデータが出てくる。


「…選んでいいんですか?」


「当たり前よ。今お前さんは、この基地の誰よりも資産があると思ってええで」


とは言われても、このデータや見た目がよく分からないので、今すぐには決められない。


「この端末、お借りしますね」


「構わへんで。それにしてもなんか、話しにくいわ」


「慣れてください」


「名前とか、決まっとるん?機体名とか、パイロット名とか」


「いいえ、これから決めます」


カタログを見ながら、ふと気になった事を聞いてみる。


「…この基地って、誰が何のために戦う用の基地なんですか?」


「ふむ」


ナハトは表情を変えず、声を一段下げる。


「端的に言えば、この土地を買いたい金持ちに対抗したいんや。砂以外なんも無い土地やけど」


「ここの人たちが協力して、軍として戦ってる、ってことですか?」


「まぁそうやな。きっかけは」


「…きっかけ?」


「考えてみ?ただの民間の端くれ共が、金持ちの持ってくる武器に勝てると思うか?」


「…貴方が?」


「武器をほぼ無償で渡すなんて、えらい聖人やろ?…冗談や。勝った時の条約にちっとばかし介入させてもらう条件や」


「それで、お金が稼げると?」


「分かってきたな?もちろん、アシラみたいな変人もおるが…お前さんもゲームで感じたろ?金の流れを」


責める気にはならない。俺だってゲームを続ける理由の一つに、生活費を考えたのは確かだ。


「…軍って、言葉の由来は何なんですか?」


「…さぁ?」


本で見た国と国との戦争も、今ここで起きてる争いも、きっとあまり違いは無いんだろう。

こんな服を着ている癖に、参加する気も無ければ、憎む程被ったものもない。


由来も廃れ、目的も変わったのに、同じ名前で続けているんだ。


「そうや…これ、参加証明書や。名前と拇印くれればええで、また持ってきてや」


紙を受け取る。以前書いた奴と同じだ。ペンを取って、思いついた名前を書く。


機体名 Insane

名前 メメ


そのまま渡す。ナハトが朱肉を出しながら紙を見る。


「またおもろい名前やな。お前さんのセンス、ワイは好きやで」


「そうですか」


受け取った朱肉で、紙に拇印を押した。

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