GP30 「竜宮」
落ちていく機体の画面を眺める。ペクトゥスが姿勢制御をしてくれているから、俺が触ることはほとんど無い。
[指、大丈夫ですか?]
「…うん、大丈夫。血は収まった」
[そう、ですか。操縦、難しくなりそうですね]
「そうだね。まぁ、何とかするよ」
[はい!私も全力でサポートしますからね!]
「ありがとう、ペクトゥス」
上を見上げる。そこには空はなく、ただ真っ黒なコックピットの天井があるだけだ。
画面に映る青空と、全天音声から聴こえる風の音は、何だか現実感が無かった。
サイトウの事が頭に引っかかり続けている。仕方ない事だ。俺が出来ることはあまり残されていなかった。
ココの時も、サイトウの時も、どれだけ名前が広がっても、どれだけ身体を張っても、無理なものは無理なのだ。
それでも少し、分かった気がする。ヨシダの言う通り俺は、人付き合いの不完全燃焼に心を持っていかれているんだ。
では、その不完全とはなんだ。何をすれば正解だったのだろう。リーダーを殺した時のような、あの何も感じなかった状態はどうすればいいのだろう。
「ペクトゥス?」
[はい!何でしょうか!?]
「人間との関係性って、何を持って完了だと思う?」
少しだけ、ペクトゥスは沈黙した。
[何をもって完了とするかは、その人との関係性によって変化すると思いますよ!]
何だか思っていた答えとは違うなと思ったら、少し間を置いてペクトゥスは続ける。
[ですが基本的に、人との繋がりにおいては約束があります。それの未完了がある場合は、その人との関係性は未完成と言えますね!]
思わず小さく笑いが出た。なんだ、そんなことか。
ココとは、美味しいハンバーガーを食べるって約束したな。ロギやトゥエルブとは、ゲームで活躍するて、そういう契約じみた約束があった。
サイトウとはどうだろう?特に結んだ記憶はないけど、それでも一緒にいると信じていた。
そういえば俺は、リーダーと約束なんて、したこと無かったな。
[…満足の行く解答でしたか?]
「…どうかな?それを確かめてから、また話そうか」
[はい!約束ですね!]
「…あぁ、約束だ」
メインモニターに地上が見えた。落下地点は砂原になりそうだ。よく見たら、小さく動くものがある。
「ペクトゥス。動いてる物拡大してくれる?」
[了解です!]
拡大された四角い物体は見た事がなかった。何台かが向き合って、どうやら撃ち合っている。
「なにあれ」
[戦車ですね!紛争地域のみ使用されている軍事兵器です!]
地上が迫ってきて、ブーストを吹かしながら降りた。
さっきまで何やら撃ち合っていた戦車の音が止まる。その代わりに、両方向から音声通信が飛んできた。その内容は、どちらも同じだった。
「所属不明機に通達する。ここは戦闘区域になっている。君が戦闘パイロットならば、速やかに戦闘区域を離脱しなさい」
それぞれの戦車は形が違う。これが聞いていた戦争か。
でもたしか、ヨシダは国はもう無いと言っていたはずだ。ならば争っているのは何と何だ?
「…ペクトゥス、この機体の情報出せる?」
[はい!お出ししますね!]
マイクを取り出して、通信ではなく周囲発声に変更する。
サブモニターには、名前が出されていた。
Turtle:D21
「両方とも聞いてくれ。俺は今、金と場所に困っている。君たちの争いにあまり興味は無いが、ひとつ取引をしよう」
サブモニターには、特殊なコマンドが入っていたが、よく分からないので無視する。
「俺とこの機体を保護してくれ。この機体は売ろう。より高値で買い取ってくれる方に付き、今ここでもう片方を倒すよ」
しばしの沈黙の後、右から声がする。
「残念だがその取引には応じられない。撤退しないのならば、君を攻撃対象とする」
小さく舌打ちをしたと同じく、今度は左から声がした。
「…こちら北枢軸軍のノエル伍長だ。上に掛け合ってみよう。まだ確実な返事は出来ないが、それで良いならこちらに付いてはくれないか?」
もう一度マイクを起動する。
「…分かった、仮契約としよう」
マイクを切って、右を向いた。足元サイズの戦車がこっちに寄ってくる。
「ペクトゥス。1度切るよ」
[わ、分かりました…約束、忘れないでくださいね]
「…あぁ」
相手の戦車がロックオン対象になった。躊躇うことなく、グレネードを撃ち込んだ。
強烈な爆発と共に、目の前の戦車が吹き飛んだ。破片が宙に舞って砂に落ちた。
たった一発で、相手の戦車は壊滅した。
衝撃が来た。後ろだ。今しがた仮契約を結んだ相手が撃ってきた。
「…その火力は、ゲームの規定を超えている!硬さもおかしい!我々を騙したのか?」
「…言ったはずだ。俺はこの機体を売る。これはゲーム用の機体じゃない」
「そんな物があるはずない!紛争地域でのGPの使用は」
「聞こえなかったか!?これはゲームの機体じゃない!!お前らは戦争してるんだろ!?」
小さな声を漏らした相手の通信から、細々と声がした。
「…出来ない。そんな残酷な」
「よし、買い取ろう」
別の通信が入った。
「大尉!独断で判断したら」
「基地には既に伝えてある。それに、これを放置して逃がす方が、よっっぽど大事だとは思わんかね。伍長」
何も言えない伍長と呼ばれたノエルの通信が切れた。
「さて…私は北部枢軸軍第12番隊のアシラ大尉だ。君を歓迎しよう」
―――
案内された砂に埋もれた廃墟の街の中の、一際大きな建物に入る。
既に広いスペースが取られていて、そこにGPを止めた。ペクトゥスを抜いてハッチを開けると、何人かの兵士が銃を構えて待っている。
その後ろから、中年のおっさんが歩いてきた。
「おぉ!クソガキじゃないか!!」
さっきアシラと名乗った声だ。
「…おっさんも随分老けてるな」
「もちろんだとも!こんな愉快な紛争、死ぬまで現役よ!」
「ピボットゲームの方が稼げるんじゃないか?」
「あのルールはちと、私には向いてない。まぁ観ている分には最高に盛り上がるがな」
顎の髭を触りながら、アシラがゲラゲラ笑う。周りに居た兵士が散っていく。
「さて、君を保護し、その機体を買い取るんだったな。とはいえ、この紛争にも少なからずルールはある。そんな兵器はもちろん使えない」
「なんで?勝てればいいんじゃないの?」
「そんな面白くない事するか!…と、言いたいところだが、そういう決まりだ。ゲームと同じだろ?」
「…どうかな?」
「本来ならば問答無用で破壊だが、ちょうどGPの売買も行っている武器商人が来ていてな。折角なので取引に応じる事にした」
後ろから足音がしてくる。聞き覚えのある声がした。
「…ほんまかいな。こんな所で会うとは思っとらんかったわ」
身に覚えのないグラサンをしていたが、前髪を上で結んでいるその頭と服。
「お前さん。シュリやな?」
「シュリ!!?」
アシラがデカイ声で怒鳴る。そのまま無表情で黙りだした。
「…ナハトさん」
グラサンを外したナハトの目が見開いて、俺とGPを交互に見る。
「何しとったん今まで」
白都市と、置いてきたサイトウが頭によぎる。
「…俺なりに、洞察を終わらせてきた」
「はぁ…2ヶ月もどっか行って、オンラインの英雄は死んだ思っとったが。InsightからこんなキテレツなGPに…こりゃ驚いた」
「…2ヶ月?」




