第捌拾肆話《消滅した春/訪れた梅雨》
入学式後、放課後、銀河丘高校。
「桜の咲く季節…またやって来たか」
制服姿の龍雅は、学校に植えられている桜を見ながら、そう言い、繰り返す前の春の事を思い出す。
――本来ならば、このまま体育大会へと向かう筈だが、世界が止まってしまっているからな…
龍雅は、食堂に行き、熱い緑茶を湯吞に入れ、窓際の席に座り、箱を取り出し、開けるとそこには複数個の桜餅が入っていた。
――桜を見ながら食うか…
龍雅は、舞い落ちる桜の花を見ながら一人で静かに桜餅を食べながら茶を飲む。
塩漬けにした桜の葉のしょっぱさが餅と餡子の甘さを引き立たせる。
そして餡子の甘さと緑茶の苦みと合う。
和菓子と緑茶、合うのは分かっているが、これを考え付いた昔の日本人は最高だと龍雅は思っている。
龍雅は、桜餅を食べ終わると、桜を見ながら茶を飲み余韻に浸る。
「さて、今年は、いや今回は花見は楽しむことはできなかったが、仕方ない…何せ、早くゲームをやりたくてうずうずしているからな。」
龍雅は、茶を飲み終わると立ち上がり、目を閉じた途端、強烈な湿気が襲い掛かってきた。
気が付くと、そこは朝の龍雅の部屋のベッドの上だった。
制服だった龍雅の姿は、パジャマ姿になっており、パジャマの中は汗でべた付いている。
外は雨が降っている。
そこまで強くはない雨だ。
――蒸し暑い…
龍雅は、パジャマの中の汗を発散させた。
――気温が一気に変わった…もしや…6月の日曜日…なるほど…大規模イベントが始まったか…
龍雅は、そう思い、VR装置をポーチから取り出す。
――取り敢えず75までレベルを上げておくか…
龍雅は、VR装置を着け、椅子に座り、起動すると、龍雅の意識は、電脳世界へと向かって行き、現実世界の龍雅は、気を失う。
龍雅は、電脳世界で、ゲームの敵キャラと戦っている。
既に数体の敵を倒しており、現在の龍雅のレベルは79、予定されていたレベルを4上回っている。
龍雅は、この電脳世界に残る最後の一体を標的に捉えると、龍雅は、最後の敵に向かって光弾を放ち、光弾は、最後の敵を超高速で追跡し、そして光弾は敵に直撃すると、大爆発を起こし、消滅した。
クリアが表示されると、龍雅のレベルは80へと上昇した。
「レベル80達成! 終わり!」
龍雅は、そう言って電脳世界からログアウトし、意識が現実世界へと戻り、眠っていた身体が目を覚まし、VR装置の電源を切り、そしてポーチへとしまう。
――さて、装備の調整でもするかな…
龍雅は、そう思い、鎧のデータが入ったメモリをパソコンに差し、システム改変を開始した。
――さて、何処を弄ろうか…防御力をアップさせようとしたら行動に支障が出る。爪の切れ味をもう少し鋭くしてみようかな…元より鎧の指は物を切り裂くためにあるんだし…よし、それがいい…
龍雅は、そう思いながら鎧を調整し始めると、宮弥は、龍雅の部屋の扉をノックしてから入ってきた。
「失礼します。例の装備が完成しました。」
「そうか、完成したか。」
「正確には、装備などではなく手錠のようなものなのですがね。自らの行動を縛る錠だ。しかし、それによって貴方の能力の自由性を再確認できるというものだ。これは俺の与える貴方への試練、いや修行と言った方がいいでしょう。まぁ、縛りプレイというのも悪くないでしょう?」
「そうだな。では、行くか。」
「はい。」
龍雅は、立ち上がり、宮弥に着いて行く。
宮弥は、自分の部屋の扉の前で、指を鳴らし、扉を開けると、そこは元あった宮弥の部屋だった。
「これが例の装備です。」
宮弥は、スーツケースを机の上に置き、そしてロックを外し、開けるとそこには真っ白な腕輪があった。
「これは封印の腕輪、力を抑える効力を持つ腕輪です。一度装備してしまえば、経験値は、大会が終わるまで入りませんので、悪しからず。そして俺の許可が出るまで外す事は出来ません。まぁ、許可が出るのは、決勝戦の大将戦ぐらいだと思いますがね。」
龍雅は、腕輪に少し触れると、力が大幅に抜け、跪いた。
「これが腕輪の力か…いいだろう…着けようじゃないか…」
「では、装着。」
宮弥が、そう言うと、腕輪は、四つに分かれ、龍雅の腕に装着されると、龍雅の体から力が抜け、再び跪き、腕輪にロックが掛かる音がし、龍雅は、立ち上がる。
――ステータスは…80だが、ステータスがやばい程に低下してやがる…
「ハァ…ハァ…完了か…」
「はい、これで今の兄さんの力は、改造兵十人分と同等になりました。」
「そうか…」
「改造兵の力は、軍隊所属の能力者と同等の戦闘力…まぁ、改造兵十人以上の存在が現れない限り苦戦はしないでしょう。さて、この腕輪の効力ですが、紅き闘士封印、ステータスとスキルの超弱体、影衣の効力封印、フォームチェンジ封印、クリティカルヒット封印、ガード封印、ジャストガード封印、弾速減速、弾幕濃度低下、追尾能力低下、消費MP増大、物質生成無効化、疑似時間停止を付与します…ですが条件付きで一部解放できます。」
「条件?」
「そう、その条件とは、腕輪のダイヤルを回す事です。」
よく見ると、腕輪には小さなダイヤルが付いているのがわかった。
ダイヤルを回すと赤に変わった途端、力が湧いてきた。
正確に言うと力が少しばかり戻ってきたのほうが正しい。
「それはレッドウォーリアー、ステータスがある程度解放される腕輪解放時に最も近いステータスを持つ形態です。攻撃を続けると、一時的に元の攻撃力の半分を解放する事が出来ます。更にクリティカルヒットとガードが解放されます。そしてこの状態になると常時格闘フォームになります。」
――格闘フォーム、常時ハイパーアーマー付与、あらゆる攻撃に怯み効果のある形態か…そして攻撃力、速力がスタイリッシュアクションを超えるが、遠距離攻撃、範囲攻撃は使用できず、個人に対してでしか効力を発揮しない形態…遠距離攻撃をしようとしても有効範囲内10mを超えると途中で消えてしまう…だが、贅沢も言ってはいられない…格闘ゲームにおいて10mも距離のある攻撃は貴重だからな…
「ブルーウィザード、スキル効果をある程度解放、ガードが解放されます。そしてこの形態では、形態変化しません。」
「グリーンアサシン、腕輪解放時に最も近い速度を誇る形態、この形態では、常時ステルスアクションフォーム&レースフォームの複合フォームとなり、クリティカルヒット、疑似時間停止が解放されます。」
「イエローガンナー、グリーンアサシンの次に速さを持つ形態、弾速速度制限解除、弾幕濃度制限解除、追尾能力制限解除、常時シューティングフォームになります。」
――シューティングフォーム…遠距離攻撃、中距離攻撃が強力になり、追尾能力向上し、千里眼の如き視力を得る代わりに、近距離攻撃の手数が少なくなる形態…そしてステルスアクションと兼ね合わせる事で、スナイパーとして最高の能力を得る…
「さすが宮弥だな。」
「では、実験を始めましょう。先ほど話したのは、理論上の話、ちゃんと作動するかどうかは戦ってからわかります。まぁ、数回改造兵を使ってテストしたんですがね。それに設計も作りも完璧だ。俺も実際に使って体験し、戦った…現に発動している…ですが、不安要素は全て取り除く…ちゃんとフォームチェンジ機能は作動しているかどうかをね。」
「要するに、腕輪を使って演習しろって事か?」
「そういう事です。」
宮弥は、そう言って、龍雅を宮弥の部屋に連れ出し、古ぼけた扉を開けると、そこは何処かの荒野の真ん中だった。
扉は、荒野の真ん中にポツンと佇んでいる。
「さて、ここで実験、もといチュートリアルを開始しましょう。ここは、兵器実験が良く行われていた荒野…有害物質は取り除いてあります。安心して戦ってください。」
宮弥は、そう言って端末を取り出す。
「まずは自由に戦ってみてください。」
「わかった。」
龍雅は、腕輪の状態を変えずに構える。
宮弥は、端末のボタンを押すと、横10mほどの巨大無人攻性ドローンが空を割って上空に数十機現れた。
「では、始め。」
ドローンは、龍雅に向かって、無数の砲台を向け、対空砲弾や超小型化された対艦ミサイルなどたった一人の人間に対して使わぬ弾を電磁加速させ、連続して放つ。
さらに、エネルギー弾攻撃、極超高出力のレーザー攻撃、反物質兵器も含まれている。
ドローンの速度は、異常に速く音速を超えた速度で移動している。
あらゆる攻撃が既存の兵器を超えている。
龍雅は、攻撃を回避しながらドローンに狙いを定め、イエローガンナーモードへと切り替え、ドローンに向かって銃を向けるように、指鉄砲の形を取り、指先にエネルギーを集め、様々な属性の弾丸を放っていく。
炎、氷、雷などの属性の弾を放つ。
弾丸は、ドローンを高速で追いかける。
弾丸が、ドローンに当たりそうになると、ドローンは空間転移し、ドローンがいた真反対の場所に現れる。
――追いつけなかったか…仕方ない…あれでも距離があった…もっと近づいてからやるしかない。グリーンアサシンモードに変化するか…
龍雅は、腕輪を回し、グリーンアサシンモードへと切り替え、高速化バフを付け、ドローンへと高速で迫り、そしてエネルギー弾を投げつけるが、ドローンの装甲がエネルギー弾を跳ね返す。
――リフレクターを持っているのか? その場合…よし…
龍雅は、魔王の鎧の乱数調整機能だけを起動し、クリティカルヒットが必ず発生するように調整した後、疑似時間停止をし、超高速で動き、ドローンを全て破壊する。
「では、次はこれを…」
宮弥は、手を挙げると異空間の穴が開き、グロテスクファントム一体がこの世界へと落ちる。
「この個体は分身機能を封じた個体です。ですからご安心して戦ってくださいませ。」
「あぁ、では第二ラウンド始めるか…」
龍雅は、そう言ってレッドファイターモードに切り替えた。




