第斜拾捌話《巻き戻りの序章/偽りの卒業式》
卒業おめでとう。
卒業生の諸君、君たちの未来は明るい。
だが、そんな事を言っていられたのは、去年まで…
創造主が起こした大異変。
閉ざされた世界。
宇宙の外で起きた異世界をも巻き込むたった二人による子の世界の所有者同士の大戦が引き起こした永久牢獄の災厄
永久牢獄は、世界の在り方として間違っていないのかもしれない。
だが、この世界はそのように設計されてはいない。
人類、いやあらゆる物質が役割を繰り返す。
喰らわれるべき運命を負った生物は、三月、あるいは四月が来た時、復活し、一年以内に喰い殺される。
殺されるべき運命を負った人間は、三月、あるいは四月が来た時、復活し、一年以内に殺される。
誰も復活したことさえ知らずに役割を繰り返される。
停止した世界のまま技術や力が伸びていく。
矛盾と混沌の牢獄。
誰も気付くものはいない。
ただ二人を除いては…
一時的な卒業生であった者たちの消失…卒業式。
その日の話である
卒業式の日、龍雅は、姿を隠して卒業式の様子を見ている。
――卒業式…これから何度も繰り返される事か…
龍雅は、偽りの卒業式を見てそう思う。
卒業生たちは、涙を流しており、学校生活がいかに楽しかったのか目に見てわかる。
――可哀想だが、先輩方には、何回か高校生活を何度もやり直してもらう。その涙も一か月後には、無意味になってしまう。悲しきかな…俺の妹、いや俺の前世と現世の恋人である宮弥をこの世界から追い出せば、世界は元に戻るんだろうがもうあいつとは別れたくはない。俺は、俺の身勝手で世界を巻き込むこととなった。…どうしようもできない…悪魔と罵られようと避けられない事実。
龍雅は、そう思いながら屋上に降り立つ。
――いつか辿るのだろうか? 高校卒業を…それまで体感時間で何年かかるのだろうか? そもそも大規模イベントの発動方法とはなんだ? 俺の知る由もない。永遠に繰り返されるのだろうか?
龍雅は、そう思いながら屋上で、しばらくの間風を感じていると、屋上に誰かが来た。
「G組の先輩ですか…卒業式は終わったんですか?」
龍雅は、優しい声でそう言う。
今の龍雅は、まるで何処にもいないような朧気なオーラを放っている。
「あぁ…」
筋肉隆々の大男はそう言う。
その声には、表は冷たくも内に熱いものを秘めているような声だ。
その男は、龍雅に対して宿命のライバルを見つけたような目を向けている。
「そうですか…何か屋上に用でもありますか?」
「…単刀直入に言う。お前と戦いたい。」
「理由を聞かせていただきましょうか?」
「俺は、強い奴を求めてここに入学した。ある日耳にしたんだ。最強の能力者が学校にいると…俺は、それは俺の事だろうと勘違いしていた…だが、真実は剣ヶ峰龍雅…お前の事だった…俺は、これまで能力者各党大会で何度も参加した。どいつも弱かった…俺の欲望を満たす奴などいなかった……お前は、俺の欲望を…渇きを満たす存在となり得るのか? いや、お前こそ俺を満たす事が出来る。あの日見たお前の記録、電脳世界を破壊する一撃…その力を持つお前こそが俺の高校生活最後の戦いに相応しい。」
「なるほど、では先輩の為に応えましょう。そう、俺が噂の人…貴方への高校卒業の手向けとしてお相手致しましょう。」
そう言って、龍雅は、拳を構えた。
「感謝する。」
「改めて名乗らせてもらおう…俺の名は、剣ヶ峰龍雅…」
「俺の名は、大和剛司…いざ参る。」
二人の拳は衝突すると、得大紐を覆っていた雲が全て吹き飛び、大気は揺れる。
「…誰もかれもが俺の一撃で倒れるというのに、お前は倒れないのか。」
「俺がそんなやわな人間と思いで?」
龍雅は、そう言って、剛司の拳を蹴ると、剛司は、龍雅の腹を殴り吹き飛ばすと、龍雅は、爪を地面に突き立て、勢いを抑えた。
爪は、抉れておらず傷もついてない。
「中々の威力だ…」
剛司は、腕を抑え腕の痺れを抑えている。
「喰らえ!」
龍雅は、拳に力を籠め、剛司に殴りかかると、剛司は、龍雅の拳を受け流し、そして蹴り飛ばそうとすると、龍雅は、体勢を整え、剛司の足を蹴り、そして剛司の後ろに一瞬で移動し、殴り飛ばす。
「ふぅ…」
――数日前に、あの異世界で鍛えていて良かったな。経験値効率は前とは変わらなかったが、体感時間一週間でレベルがバラの香りのする浅瀬の異世界に入る前までに戻った…VRトレーニングとあの異世界の経験値効率は、異世界の方が上だった。あの時は、レベルが上がってレベルが上がりにくくなったと考えるべきだな。
龍雅がそう思いながら剛司に攻撃を続ける。
(強い…だが、まだまだだ…)
剛司は、龍雅を蹴り上げると、龍雅は、すぐさま落下を利用するように、踏み潰そうとするが、剛司は、回避した所を龍雅は、すぐさま地面を蹴り、剛司に突撃し、殴り合い蹴り合いを開始する。
「そろそろ手の内を隠すのもいい加減にしろ。これだと人間同士の戦いだ。俺達は能力者だ。能力者らしい戦いをするぞ」
「…わかりました…では、お見せしましょう。本当の力を…その代わり、貴方もその力を見せてもらいますよ?」
「わかっている。」
龍雅と剛司は、両者離れた後、静かに空中に浮き、高度1000m辺りからオーラを纏い、高速戦闘を開始する。
空気が揺れ、空震が発生する。
一撃一撃が非常に重い高速戦闘で、日本列島を覆っていた雲が吹き飛んでいく。
高速戦闘が続き、数分後、二人は、上空へと昇りながら戦闘を続け、大気圏へと突入する。
「ここでなら存分に戦えるでしょう…さぁ、来てください。」
「あぁ、存分にやらせてもらう。」
剛司は、気合を入れ、天に向かって手を挙げると、無数の隕石が龍雅に向かって襲い掛かる。
無数の隕石を衝突させようとすると、龍雅が避けた瞬間、隕石は無数の光条と化し、龍雅の体貫こうとする。
――これは俺の技か?
龍雅は、光条から逃げ、そしてしばらく経つと、光条を月へと着弾させ、月に新たなクレーターが発生した。
――月の僅かに位置がずれたな。
龍雅は、剛司の攻撃を回避しながらサイコキネシスで月を動かし、元の位置へと戻した。
「さて、改めて始めようか…」
龍雅は、青紫の闘気を纏うと、剛司も深紅の闘気を纏った。
「なるほど、貴方も覚醒していましたか…その力に…」
「お喋りがすぎる…戦いの中で語れ」
「了解…」
龍雅は、刀を生成すると、剛司は、大剣を生成した。
二人は火花散る剣戟を張り続け、そして十分ほど剣戟を続けると、二人は後方へと下がり、剣と光弾の弾幕を張り、そして弾幕の中、戦闘を開始する。
二人の戦闘速度は、速くなっていき、疑似時間停止の領域までに達した。
(衝撃は、地上に伝わることはない。何故なら、お前と俺の力にエネルギーを収束させる能力があるからな…すでにお前の能力は知っているんだ。俺と同じ様な力を持つ人間だとな。)
二人の戦闘で生じるエネルギーは、地球には影響はない。
だが、エネルギーが一点に集中されているため、その威力は最大クラスの核兵器さえも小さく見える。
一撃一撃がまるで超新星爆発だ。
「貴方の能力は、肉体を強化させる能力とエネルギーを操る能力か。俺と同じ能力ですね。」
「ご名答だ。」
それから一時間大気圏で戦闘を続ける。
互いの服がボロボロになっていく。
人間の視覚では捉えきることのできない戦闘だ。
(あぁ、楽しい…こんな戦闘…久しぶりだ…!! まさに、最後の戦いに相応しい!)
剛司は、笑みを浮かべながら戦闘を楽しむ。
龍雅もまた戦いを楽しんでいる。
剛司は、龍雅に大ダメージを与えると、龍雅は「お前には見せてもいいな」と小さく呟き、後方へと下がった。
「さて、そろそろ力を解放しますかね…お覚悟宜しいですか?」
「まだ本気を出していなかったのか?」
「えぇ…さて行きますよ…」
龍雅は、力を解放すると青紫の闘気が、激しくなり更に、その上に黒い闘気を纏うと、剛司の闘気が無効化され、そして剛司に対し、軽い一撃を加えると、剛司は強い衝撃に打たれ、血を吐いた。
「ガハッ!」
「終わりです。」
龍雅は優しくとどめを刺し、剛司を気絶させた。
(俺の負けか…フフフ…満足だ…)
気絶した剛司は、地上に落ちていく。
龍雅は、落ちていく剛司を優しく受け止め、地上に戻っていき、屋上に寝かせ、体の温度を保てるようにしながら回復させる。
「俺は…負けたのか…」
「そうですね。貴方の負けだ…」
「俺の本気をもってしても勝てなかったか…だが、満足だ。ここまで長く戦えた事、俺の乗り越えるべき壁が出来た事に感謝している。これでようやく未練がなく高校を立ち去る事が出来る。今度は、本気のお前と戦いたいものだ」
「そうですか…ならば、乗り越えて見せてください。俺は、何年でも待ちましょう。貴方が俺を超えるその日まで」
「そうか…」
剛司は立ち上がり、背を向け、帰って行く。
「俺はいつでもこの町に居ますから、また時間があれば仕合ましょう。先輩」
「あぁ、そうだな」
剛司が振り向くと、そこには誰もいなかった。
(満ち足りた気分だ。あぁ、実に充実した――)
剛司はそう思いながら去って行った。
未来へと生きる希望を得たような表情をして―――
――この日の戦いは、お前の記憶から消えるだろう。だが、肉体と魂は覚えているだろう。俺と戦った記憶を…終わらぬ一年の始まりの前日談が終幕した。さぁ、強くなり俺を超えて見せろ。
龍雅は、剛司に期待の目を向けながら去って行く。
これにて銀河丘高校からしばらく間、今いる三年の学籍の消失は確定した。
二年になるはずだった一年生は、入学式にまで遡る事となり、三年になるはずだった二年は、二年をもう一度やり直す事となり、卒業するはずだった三年生もまたやり直すこととなる。
この一年で起こった記録が物、技術、力、人間関係、約束を残して抹消される。
誰が、入学式や卒業式に出席していたのさえもわからなくなる。
誰も抗う事の出来ない運命。




