第斜拾陸話《龍雅達のバレンタインデー》
バレンタインデー。
それは、勝者には、嬉しい日であり、敗者には、苦痛でしかない日である。
勝者は、同年代の異性からチョコを貰い、心の中で甘美なる勝利を謳う。
敗者は、誰からも貰えず、心の中で苦き敗北を嘆く。
甘き勝利と苦き敗北が存在する日。
天国であり地獄の日。
それと同時にある者達にとっては後に地獄と天国が逆転する引き金となる日でもある。
「お兄ちゃん!」
「兄さん♪」
二人の妹は、扉を開き、それぞれの兄の元へと向かった。
「お兄ちゃん! 起きて!」
制服姿の芽衣は、虎太郎のベットに飛びかかると、虎太郎はガハッ! と苦痛を叫び、腹を抑えながら起きた。
「んだよ…」
「はい! ハッピーバレンタイン!」
芽衣は、虎太郎に、チョコを渡した。
「これは…チョコか?」
「うん♪ 良かったら食べてね。」
芽衣は、そう言って「お兄ちゃんの為に本命を作ったんだから」と小さく呟いた。
「何か言ったか?」
「ううん。何でもなーい。さ、学校に行く準備しよ?」
「あぁ」
二人は、一緒に学校へと行く準備を始めた。
そして龍雅の家では…
「ん? 宮弥か…何か用かな?」
龍雅と宮弥は、すでに制服に着替えていた。
「はい♪ 何か用がありますよ。俺のオム・ファタールさん♡ サービス券。何でも願いを叶える事が十個だけ無償で叶える事が出来る無料券。お返しは、そう兄さんの笑顔、そして兄さんからの寵愛…それが俺へのお返しに相応しい。」
宮弥は、そう言うと、「いいや…違う」と小さく呟き、首を振り、下を向いた。
「…いや、そうではない…言いたいのは、そうじゃねえだろ…翔妃…」
宮弥は、小さく呟き、そして顔をあげ、覚悟を決めたような顔をする。
「宮弥? どうした?」
「龍雅、俺の愛する者、俺の運命の人よ…どうか聞いてくれ…これからも俺の為に、自分の為に、自身の欲望の為に生きてくれ。」
宮弥の口調は、変わり、前世の翔妃の声色、口調へと変わった。
「翔妃…」
「お前が前世で出来なかった事、俺の為に費やした時間、俺の為に身を削った事、俺は、お前から受け取った恩を俺は、俺の創造したこの世界でお前に返したい。お前からは借りっぱなしだ。だから、お返しなどいらない。これは俺からのお前への返済だ。だから気にせず使ってくれ。…」
宮弥…いや、翔妃は龍雅を抱きしめながらそう言う。
「何か湿っぽくなっちまったな。まぁ、使う時はいつでも使ってください。その時は、いつどこだろうと、例え宇宙の外、遥か未来、輪廻転生の果てであろうと貴方の元へ馳せ参じ、そしてどんな命令でも子供を抱きしめるように甘んじて受け入れましょう。例えこれが無くなったとしても…」
翔妃は、宮弥の口調へと戻り、落ち着いた声色でそう言った。
「あっ、10回使い切ったらまた言ってください♪ その時は、10回連続で体で払ってもらいますから♡ その夜は絶対に寝かせませんよ♪」
宮弥は、いつもの声色に戻り、そう言いながらグヘヘと言いながら、手をワキワキさせる。
「結局、そっちかよ。まぁ、いい…でも、それだと労働じゃなく俺に対するご褒美になっちまうけどいいのかな?」
龍雅は、宮弥に顎をクイッと上げ、耳や脳が溶けるような甘い声で言った。
宮弥から見たら今の龍雅の顔は、まるで乙女ゲームに出てくる攻略対象の男性キャラのようだ。
「ッ…!! は…はい…それでも…いいです…」
宮弥は、乙女の顔をして崩れ落ちようとした時、龍雅は宮弥の体を支えた。
「大丈夫か? なぁ、一回使ってもいいか?」
「いいですよ。」
龍雅は、宮弥を立たせた。
「じゃあ、一回使う。俺に最高のチョコ作ってくれ。」
「なるほど、わかりました。ですが、この世界で作るとなると時間がかかりますので、数秒程お待ちください。」
そう言って、宮弥は時空の歪みを発生させ、入り、そして数秒後、時空の歪みから宮弥が金銀財宝が飾り付けられた大きな箱を持って出てきた。
「お待たせしました。融合蜜酒フュージョンレジェンドを入れたチョコ…100個入りレジェンドボンボンです。フュージョンレジェンドは、詩の蜜酒と黄金の蜂蜜酒を混ぜて作ったものです。一見、蜜酒のみを混ぜただけのように感じられますが、重要なのは味ではなく、効力で、食べると詩の蜜酒の持つ知恵と得る能力と黄金の蜂蜜酒の持つ超感覚を発揮する能力と幽体離脱する能力を取得できます。アルコール度数は、普通の蜜酒より少し高いぐらいの度数ですね。チョコは、歴史上最高品質のカカオから作りました。では、どうぞ。夜に食べてくださいね。」
宮弥は、そう言って龍雅に箱を渡した。
豪邸一つ買えそうなほどに高価な箱だ。
龍雅は、箱を持ってポーチに入れた。
「さて、そろそろ行きましょうか…兄さん。」
「あぁ…」
龍雅兄妹は家を出て、学校へと向かっていく
――何だこれは…
教室についた龍雅は、驚愕の表情を浮かべている。
龍雅の机には収まりきらないチョコが入った箱や紙袋が無数に入っていた。
中には、クラス外や、違う学年のものも入っている
――美味そうだな…何々? なるほど…
龍雅は、机に詰まったチョコをしまう為、虚空に収納する。
――後で食べよう…家でゆっくりと茶でも飲みながらな。お前らのチョコに詰まった気持ちを噛みしめながらな。
龍雅は、フフフと嬉しそうに笑う。
(いいなぁ…龍雅は…あんなに貰えて…)
虎太郎は、そう思い、大量のチョコが詰まっていた龍雅の机の方を嫉妬の目で見る。
「何だよ。虎太郎。俺がチョコを沢山貰えているのを見て嫉妬しているのか?」
「嫉妬なんかしてねーし」
「ホントか?」
「そうだよ。俺、香織から貰えるし…」
「何よ。私から貰える事を当然だと思っているの?」
「いや、そういう訳じゃ…」
「ふーん…じゃあ虎太郎にチョコあげない。」
「そんなぁ…」
「嘘よ。はい! 虎太郎! 龍雅!」
香織は、虎太郎に、香織のキスマークの周りにピンク色のハートマークがラメ付きで描かれ、裏面にラメ付きのピンク色のペンで、本命と可愛らしい文字で書かれた水玉模様の可愛い紙袋を渡し、龍雅には、刀を咥えた龍の白い線で描かれ、裏面に白いインクで、勢いのある義理という文字が書かれた黒い紙袋を渡した。
「お前の奴かっこいいじゃん」
「まぁな…俺は、かっこいいのを好む。でも間違っているぜ。俺は、義理チョコじゃなく友チョコだぜ。」
龍雅は、そう言って何処からともなく漆塗りの箱と茶葉が入ったが入った透明な袋を取り出した。
「これはな。お前らが二人で食う為に作ったものだ。箱は捨てても構わんぞ。何せ、俺が能力で作った奴だからな」
箱の中には、美しく綺麗な饅頭や、羊羹などの様々な和菓子が入っており、箱の蓋には、美術品として飾れるほど美しい金色の龍が描かれ、箱には、幾何学模様が描かれている。
「まぁ、どっちの意味でも重い気がするけど気にするな! 味は保証する。」
龍雅は、そう言ってニッと笑い、グッドポーズをした。
――嫌がらせ成功だな。俺の重いプレゼントで苦しむがいい。全ての菓子が俺が厳選した素材で作った菓子だ。一切の妥協などない。その頬を俺の和菓子で削ぎ落としてくれる。
龍雅は、そう心の中でほくそ笑む。
(龍雅は、プレゼントの重さで苦しめと思っているのね。でも、何も考えずに渡していたらそうなっていたかもしれないけどわざとだったら…ね? 虎太郎。)
(俺に振るのかよ。まぁ、そうだな。心の中で大にして言っていたら嫌がらせも無駄になるってもんだ。俺達の目の前でそんな事考えるなよって話だ)
(そうね。)
「なぁ、お前ら俺を心の中で馬鹿にしてねえか?」
龍雅は、そうジト目で二人を見つめる。
「いや、何もなぁ、香織」
「えぇ、そうね。」
二人は、そう言って誤魔化す。
「まぁ、いいさ。食い終わったら味を聞かせてくれよ。安心しろ人工調味料や着色料などは入れてない。まぁ、そろそろ授業が始まるからそれどっかに入れとくか…今から家に瞬間移動して家に置いてくるか…俺に預けるかにしろよ。」
「じゃあ、お前に預けるよ。放課後渡してくれ。」
「了解。」
虎太郎は、龍雅のポーチの中に入れた。
「じゃあ、俺は、体育の準備始めるから、お前らも準備しろよ。」
龍雅は、そう言って体操服を何処からともなく出現させた。
数時間後…
龍雅は、学校の薄暗く誰もいない場所に行き、「はぁー」とため息をつく
「コソコソと隠れてついて来てないで出てきたらどうだ? 俺を誤魔化せると思うなよ。」
龍雅は、そう言うと、後ろから何かが近づいて来る。
ゆっくりとゆっくりと、ハンターが獲物を見つけたかのように。
「龍・雅・君♡」
後ろから抱き着いてくる。
豊満な胸が龍雅の背中に当たる。
甘く妖しく怖い声が脳に染み渡り、溶かすように耳元で自分の名を呼ぶ。
マーキングするように、体を擦り付ける。
他の女性の匂いを打ち消すように奈々の匂いで上書きしようとする。
「奈々か…ははッ…相変わらずヤンデレか…いいね…かく言う俺も、ヤンデレな感じなんだがな…で? 何か用かい?」
「またこんなに他の女の匂いを付けて…私嫉妬しちゃう。」
「だったら、もうちょっと俺にアタックしたらどうかな? 前みたいにさ」
「あの時の私はその…んもう…! そんな事よりこれ受け取って!」
奈々は、龍雅にリボン付きのハートマークの箱を渡した。
「そんな事ってなんだ? お前の気持ちはその程度なのかな?」
龍雅は、奈々を壁へと追いやって壁に手をつき、奈々を見下ろす。
「違うの…」
「じゃあ、どういう事かな? 説明しないとここでチョコごとお前を食べてしまうぜ?」
龍雅は、耳元でそう甘く囁く。
「うぅ…」
「ハハッ! 冗談だ。だが、お前ごと食べたいって事は変わらねえぜ?」
龍雅は、そう言い、クククと笑った。
「さ、行くぜ。」
「あの…動けない…」
「あぁ、怖がっちまったか…すまんすまん。」
龍雅は、そう言って奈々を撫で、そしてお姫様抱っこをした。
「じゃあ、これ頂くぜ。」
龍雅は、奈々からチョコレートを取ろうとすると、龍雅の腕を掴んだ。
「待って! そして降ろして」
龍雅は、奈々を降ろすと奈々は、立ち上がった。
「ん?」
「龍雅君、不器用だけど…私頑張って作ったんだ。正直引くかもしれないけど、どうやらあの時の私が残っていたようで、作ってある間に貴方への愛が暴走して血とか混ぜてしまったの…それでも…食べてくれる?」
「いいだろう。お前の愛と共にお前の血肉を我がモノとしてくれる。」
「よかった。これで安心できる…これでずっとずっと龍雅君と一緒だね。ウフフフ…」
奈々は、そう怖い声で、笑った。
一方その頃…
「はい。虎太郎」
「あれ? 俺だけ、他の奴と違うな」
「別に深い意味はないぞ。君だけが、中身が別というわけでもないんだからな。」
乃愛は、そう言いながら、顔を赤らめながらチラチラと虎太郎の顔を見る。
「何だ? 何か言いたいのか?」
「いいや、ありがとう。委員長。」
(名前で呼んでほしかったな…)
虎太郎は、この時に限って能力を使っておらず、乃愛の心情を読んでいない。
「じゃあ、私はこのへんで…私のは、家に帰って食べる事!」
乃愛は、そう言いながら、安堵した表情で立ち去って行った。
(よかった…渡せた…)
放課後…
「貴様らをここに呼んだ理由分かるか?」
紗里弥は、無数のダンボール箱を持って男子生徒の前に現れた。
「もしかして俺達に…」
男子生徒一人がそう言うと、紗里弥にやりと笑った。
「そう、喜べ、貴様らに私が手ずから作ったチョコをくれてやろう! 貴様らに救済措置を与えよう!」
紗里弥がそう言うと、男子生徒達は、狂ったように喜び、勝鬨をあげた。
この日、この学校に敗者はいなくなった。
美少女からの手作りチョコレート。
名家のお嬢様からの手作りチョコレート。
JKからの手作りチョコレート
そして素材が高価なチョコレート
四つの付加価値のある手作りチョコレートとなると、学園内では究極の価値となるチョコとならん。
「フッ、そう慌てるな…チョコは逃げはしない。貴様らが何も問題なく学生生活を過ごし、そして学校を卒業し、良き人生を送る事…それが私に対する返礼である。貴様らが良き人生を送る事、それは100倍返しを遥かに超えるほどに価値がある…私もまだ未熟な身である為、人に言える立場ではないがな…まぁ、貴様ら、これからも良き人学校生活を送るが良い! さぁ、列に並べ! 有り難く受け取るが良い!」
紗里弥が、そう言うと、男子生徒達は、はいと大声で言い、列を作り始めた。
紗里弥は、男子生徒に渡す時、一人一人に激励の言葉を言い、握手をし、天使のように微笑む。
男子生徒達は紗里弥からのチョコを受け取って喜び、チョコを持って、笑顔を浮かべながら帰って行く。
紗里弥は、チョコを持って帰って行く男子生徒を見て、安堵した表情をする。
「ん? 最後は、お前か…虎太郎。何だ? 貰えなかったのか?」
「貰ったぞ。香織、龍雅、芽衣そして乃愛からな。」
「そうか、それは良かったな。ラストワン最後のチョコだ。おめでとう。貴様は、つくづく運がいい…お前の家の住所は? 教えてくれたら特別な奴を渡そう。」
「わかった。」
虎太郎は、紗里弥に盾ヶ原の家の住所を教えた。
「よし、お前の家に、特製チョコケーキを送る。手掴みで食える程の大きさだから残さず食えよ。……これからも龍雅事を頼むぞ。龍雅の幼馴染のお前に言うのもなんだけどな。お前は、龍雅には劣るかもしれんが、それでもあらゆる面で世界最高レベルの才能を持っていると思っている。だが、その才能を殺すも生かすもお前自身の意思だ。その点を注意して生きるがいい。」
「あぁ、わかった…紗里弥こそ龍雅の事よろしく頼むぜ。あいつが欲張りなのは、自分の中の空虚を埋める為で、そんでハーレムとか言っているのは、寂しがり屋で、孤独対して怖がっているだからだと思っている。お前が怒るかもしれないが、どうか龍雅の心の空虚を埋めてやってくれ。」
虎太郎はそう言って、紗里弥に頭を下げると、紗里弥は、虎太郎の頭を優しく撫で、肩を叩いた。
「顔をあげろ。フッ、その覚悟はすでに出来ているさ。私は、必ず龍雅の心を満たそう。だからお前にはお前にしか出来ない事或いは、お前が出来る事をやれ。それが私に対する返礼だ。じゃ、また明日。」
「おう」
「気をつけて帰れよ。」
虎太郎は、そう言って帰って行った。
(良い散財をした…少しの間節制しなくてはな…何せ高い奴使っちまったからな。)
「まるで母親が自分の息子にチョコをあげているように見えるな。」
「誰が、母親だ…傲慢ではあるが、私はただ奴らに慈悲を与えたまでだ。」
紗里弥が振り向くと、そこに龍雅がいた。
「さて、配り終わった所で、龍雅…今日、家に来ないか?」
「何でだ?」
「お前の分は、持ってきてないからな。渡すのには大きすぎる。配達で運ぶ事もできない。時間が経つと不味くなるのが多い、それに私のチョコを食すには良い茶や飲み物が必要だ。何にしても出来立てというのは美味いからな! デザートをチョコとして振舞おう。」
「あぁ、行くぜ。」
「そうか、ならば私は家で待とう。私はあいつらにもやったが、所詮は、単なる義理チョコ…まぁ、お返しはいらんがね。お前に渡すものは勿論本命…お返しは接吻か、こっちでもいいぞ。」
そう言って紗里弥は、龍雅の尻をいやらしく触る。
「あの日以来から俺に対してのスキンシップが増えて来てるな。」
「ハハハ…よいではないか…」
「まぁ、後で後悔するのはお前だけどな…俺をそっちの方で返させようとした罪をどう償ってもらおうかな? お嬢様?」
龍雅はそう言って膝をついて紗里弥の手に口付けをし、ニヤリと笑うと、紗里弥は顔を赤らめた。
「…馬鹿! ン"ン"ッ!…私は家で待っている。お前は、奴、香苗の所に行ってこい…待っていると思うぞ。」
「香苗が?」
「あぁ、場所は指定した。指定した場所はソラマチだ。さぁ、行くがいい。お前の側室が待つ場所へと私はその間、家に帰って準備をしておく。その間制服デートでも楽しむがいい…何なら連れてきてもよいぞ? 門番共には事情を伝えておく…では二時間後また会おう。あぁ、後晩飯の事家に伝えなくていいのか?」
「あぁ、母に今伝えた。どうやら未来予知で既に知っていたらしい。」
「そうだったな。お前の母は、未来予知が使えたもんな。…そろそろ来るんじゃないか? 香苗からのメールが」
紗里弥が、そう言った直後、龍雅のスマホに一通のメールが入った。
「ホントだ…何々…よし、今すぐ行くっと…よし、じゃあ二時間後な」
「あぁ、緋香里…来い。」
紗里弥が、指を鳴らすと緋香里が現れ、「じゃ、また」と言うと緋香里と共に紗里弥は、一瞬で消えた。
紗里弥がいた所には一つの箱が置かれていた。
――これは…
『龍雅さんへ、これは私が初めて職場の仲間やお嬢様以外の方に送るチョコです。10回ほどの試行錯誤を持って完成しました。別に勘違いなさらないでください。私は、貴方に好まれる為に作った訳ではありません。これはお嬢様といつも傍にいてくれている貴方への感謝の気持ちを込めたものです。 psお嬢様の事をこれからもよろしくお願い致します。』
――なるほどな…わかった…だが、いずれ貴様も俺のモノにしてやるよ…覚悟しろ…緋香里…
龍雅は、そう言って緋香里から貰ったチョコを虚空に収納する。
「さて、行くとするか…」
龍雅は、空を飛び、スカイツリーの方面へと向かって行く。
龍雅は、香苗にしか気付かれないようにソラマチに降り、香苗の元に行く。
「よう、香苗」
「龍雅君…フフ、やっぱり来ると思った。」
「待たせてる女の元に一秒でも早く行くってもんがいい男ってもんだろう? 香苗の期待も裏切るわけにもいかないからな。まぁ、お前が待っている事を知らなかったというのは、悪かったと思う。今度何かをやろう」
「じゃあ、ホワイトデーのお返し5倍で返してね。」
「あぁ、約束する。もしかしたら10倍かもしれないけどな…まぁ、その時は驚くがいいさ」
「うん!」
ホワイトデーのお返しの3倍返しは、男の財布を苦しめる古き風習…だが、龍雅は敢えて倍返しを行おうとしている。
勿論、貰った相手全員にだ。
「はい! チョコレート♪」
香苗は、龍雅に可愛らしい紙袋を渡した。
「ほう、これは…」
「他の人とは比べ物にはならないと思うけど、私も精一杯の気持ちで作ったんだ。貴方への愛は誰にも負けていないと私の中では思っているわ。」
「そう、ならば…」
龍雅は、耳元に近付き「なら、その愛をどうやって証明して見せるんだ? お前には、何処にでも行ける能力があるから、何処へなりと連れ去って俺を好きにしてもいいからさ」と囁いた。
「え? いいの?」
「あぁ、いいとも…けど二時間だけな。お前の本気を見せてみな。」
「わかった。」
龍雅と香苗は、その場から消え、二時間の間デートを楽しんだ。
(えへへ…龍雅君とデート…楽しいな…)
虎太郎は…
「さて、虎太郎の分は完成だな。」
紗里弥は、ホワイトチョコの板チョコに、チョコペンで、「我が友へ。ラストワンおめでとう。至高の義理チョコをお前に。紗里弥より」と書き、四角いチョコケーキに乗せ、ケーキを箱の中に入れた。
「これをここに送れ。慎重にな…二千円は前金だ。くれてやる。我が友への贈り物だ。慎重にな。」
紗里弥は、執事に盾ヶ原の家の住所の書かれたメモと二千円と手作りチョコを渡し、執事が受け取り、チョコと二千円と住所の掛かれたメモをしまうのを確認すると、ケーキの入った箱を渡した。
「はい。承知いたしました。」
「気を付けて行ってこい」
「御意」
執事は、そう言って、箱を持って部屋を出た。
「さて、龍雅の為に食材と調理器具の確認と整理するとしよう。」
紗里弥は、調理器具と食材を並べ、確認を行い始めた。
「盾ヶ原…つまり虎太郎君か…ここに届ければいいんだな…それにしても紗里弥お嬢様からのチョコか…これは実に美味そうだな…」
一人の執事は、極星院の庭、雪原の中そう言って箱を運びながら懐に入っているチョコの味を楽しみにする。
「もし、そこの貴方。」
「はいなんでしょうか? 麗弥様」
「これを盾ヶ原の家に届けてくださらないかしら?」
「承知いたしました。ちょうどよかった。紗里弥様のケーキも虎太郎さんの家に届けに行く所なんです。」
「それどういう事なのか、説明してくださるかしら?」
「いえ、私からは何も聞かされていませんので…」
「そう、なら…紗里弥に直接聞くしかなさそうね。じゃ、任せましたよ。」
「ん? 姉上殿か? 何用だ?」
紗里弥は、そう言いながら台所で野菜を切りながらそう言う
「執事から聞きましたわよ。紗里弥、貴方虎太郎にケーキを送ったそうじゃないの!」
「ふむ、それが何か問題でもあるというのか? 私は、ただ我が友に義理チョコをやったまでの事、何故私の行動に口出しされなければならんのだ? ん? もしや貴様、私に嫉妬しているな?」
「なっ!」
「良い良い。私は、赦す。嫉妬は人の業。時にして他者を殺め、憎む憤怒と強欲に似た感情…ふむ、貴様とて我らと同じ強欲なものであったか…だが是非も無き事、我らは強欲の宿業を背負いし罪深き生物、人ならざる者共よ。故に、その欲、その妬み、決して悪い事ではない。恋焦がれる者に対して他の女がチョコを捧げる。ふむ、私に対して憤るのも致し方無い。非礼を詫びよう。」
紗里弥が、そう言うと、火を止め、包丁を置き、麗奈に向かって頭を下げた。
「虎太郎に対して先にチョコをあげてすまぬ。私は決して貴様の恋焦がれる者を取りはせぬ。我が魂は、龍雅の元にある故な」
「何を…恋焦がれたりなど…」
「では、この発言は何かな?」
紗里弥は、この前の休日に麗弥が虎太郎の事が好きという発言が紗里弥のスマートフォンから流された。
「記録していたのねッ!」
「あぁ、面白そうだったからな。」
「人でなしめ…」
「そうだが? 私は、人ならざるものだ。故に人でなしな事をするのだよ。」
麗弥は、涙目ながらそう言う。
「が…この音声データは消させてもらお。これ以上貶めてはいけぬ。」
紗里弥は、そう言いながら、音声データを消す所を見せる。
「恋をせよ。姉上殿。貴様には花が多い。お前の周りに咲く花はどれも綺麗に整った花だろう。授けられる花はどれも品が高いだろう。だが、自分の花を見つけるのは、自分自身だ。私は、もう自分の花を選んだ…けど、その花は、大きすぎる故、複数人必要なのだが、まぁ、それも致し方なし。そなたの見つけた花も私と同類だろう。大切にするがいい。」
紗里弥は、そう言って台所へと戻った。
「言われなくてもそうしますわ!」
麗弥は、そう言って紗里弥の屋敷から去って行った。
数分後
「紗里弥、来たぞー」
「お邪魔します。」
紗里弥の家の居間の扉が開き、龍雅と香苗が居間に入った。
「おぉ、来たか、ん? 香苗も一緒か…良い。ちょうど作ったいた所だ。腹の調度や、お前の家の方の晩飯は大丈夫か? 空いてるか? 香苗?」
「大丈夫、伝えておいた」
「そうか、私にとっては香苗、お前も私の愛する人の一人だ。歓迎しよう。フフッ、私は実はというと両性愛者でな。龍雅の妻であり、お前達の第二の婚約者になりたいと思っているのだ。どうかしてると思ってもいい。差別が無くなったとはいえ、まだ人間の中にはそれに対する嫌悪というものはあるものだ。」
「そんな事ないよ。素敵だと思うよ? 両方の性別を愛する。それは素晴らしい事だと思う。男の子同士付き合うのも悪くないと思うし、女の子同士付き合うってもの悪くはない。それに、関係ないけど龍雅って見た目も声もスポーツやってそうな大人の女性っぽいしね。」
「何だよそれ。俺そんなに男らしくないかな? 男性ホルモン増やしてるつもりなんだけど…」
「内面は男らしいと思うよ?」
「そうだな。肉食の肉食だ。ロールキャベツ系男子だな。さて、話はここまでにして飯にするか。」
「うん」
「あぁ」
三人は、食卓に向かって行った。
紗里弥が作った夕食は、どれも美味そうだ。
握り寿司、ピザ、ステーキなどの龍雅好みの料理。
瑞々しく美しく野菜嫌いでもモリモリ食べられるサラダ。
そして何杯でもおかわりしたくなるようなスープ。
一品一品の量はさほど多くはな食少ない方だが、料理の種類が多くどれも美味い。
今日は戦ってないため、あまり作ってはいないが、それでも満足できる味だ。
紗里弥の料理の才能は天才的だった。
三人は、料理に舌鼓を打ち、食事を大いに楽しんだ。
「さて、デザートの時間、お前らへのバレンタインだ。全て手作りだ。」
紗里弥は、台所から三つのパフェを持ってきた。
パフェの大きさは、通常より少し大きいぐらいサイズだ。
だが、乗せられている一品一品の果実やチョコが美しく美味そうだ。
アイスクリーム、プリン、炭酸入りフルーツ、甘いパン生地、チョコレート…全て手作りだ。
更に、多種多様なパフェ似合う手作りの菓子が乗せられている。
パフェの中には、クリームでハッピーバレンタインと書かれている。
「さて、お前らハッピーバレンタインだ。私のお前らに対する愛は、これほどは軽くはないが、受け取ってくれ。これからもよろしくな。香苗、龍雅。」
紗里弥は、そう言ってニコリとほほ笑んだ。




