第斜拾伍話《電脳世界の節分》
電脳世界。
全てが虚像の幻想だが、その感触は、本物そのもの。
極星院の技術のおかげでこの世界にある万物が、真に迫る程、完成度が高い。
彼らがたどり着いた電脳世界は、平安の夜の京の町をイメージした世界だ。
赤く巨大な月が地上を照らす。
鬼の口より放たれた赤く燃える炎が京の街に広がる
その世界には無数の醜悪な鬼が存在している。
NPCに襲い掛かり、襲われたNPCは血をまき散らし、消滅していく。
醜悪な鬼は、NPCが消滅するのを確認すると、すぐにNPCのいる場所へと向かって行く。
一方的な蹂躙だ。
NPC達の攻撃は一切通用しない。
圧倒的攻撃力と圧倒的防御力そして人ならざる速度で、NPCを蹂躙する。
この世界において鬼達の天敵は一つしかない。
そうその天敵とは、プレイヤーである。
プレイヤー達は鬼を倒していく。
倒された鬼は消滅する。
勿論、プレイヤーも鬼にとっての殲滅対象だ。
プレイヤーVS鬼の戦いが今始まろうとしていた。
これは、その戦いの少し前に遡る。
「なぁ、豆まきしようぜ。」
「あぁ、だが、何処でやるかだ…」
「電脳世界はどうだ?」
「そうだな。それなら炒り豆を無駄にせずに済む。設定はどうする?」
「京の街に現れた鬼を豆を投げて倒すというのはどうだ?」
「いいな。それ」
「よし、始めようか」
「あぁ、これだけなら一日で済みそうだ。テクスチャとか色々と流用すればいいだけだし」
「そうだな。」
二人は、屋敷を出て、本邸に入り、コンピューター室に入室し、作業を開始した。
数回のデバッグと半日間のプログラミング。
龍雅は、エンターキーを押し、肩を伸ばした。
VR機器の形状が、眼鏡型に変わっている。
最適化と軽量化を両立させるようにした結果このような形となった。
「さて、デバッグ再開だ。ゲームを開始してくれ。」
「了解…」
龍雅の意識は、電脳世界に向かって行く。
「さて、その間に私は、魔王の鎧の更新データを入れるか…」
紗里弥は、指輪を抜き、パソコンに接続し、インストールを開始した。
龍雅が目を覚ますと、そこは悪鬼の呻く声の聞こえる邪気漂う夜の京の街だ。
所持物は、百粒の炒り豆ただそれだけ。
炒り豆は、回復アイテムにも攻撃アイテムにもなる万能アイテムとして設定されている。
炒り豆の攻撃力は、自身の攻撃力の三倍となっており、能力を纏わせて使うとこの分だけ威力が跳ね上がる。
――さて、百粒の豆…弾薬の補充は、敵である鬼がドロップする…全く…鬼が鬼の弱点である豆を持っているとは何とも皮肉だな。
龍雅は、駆け出し、そう言い、鬼を倒していく。
――カウンターストップは、999に設定している。さて、カンストしないようにバランスよく投げなけばな…
龍雅は、十匹の鬼に向かって十発豆を投げつけると、当たった時は、爆散し、アイテムを落とした。
――正常だな…では、さっさとクリアするか…
龍雅は、その後、数十分間ゲームをやり続けラスボス到達点までクリアした。
――さて、現実世界に帰るか…ラスボスはまだ作ってないからな。
龍雅は、そう心の中で言い、ゲームをシャットダウンし、現実世界に戻った。
「戻って来たか…どうだ? 正常に動いていたか?」
「あぁ、問題ない…だが、ラスボスがいないという事だけが問題だな。」
「まぁ、そうだな。」
龍雅は、装置を外し、机の上に置いた。
「さて、ラスボスはどうしようか…」
「ラスボスは、宮弥、龍雅、私でいいじゃないか? 私達は十分にこのゲームの事を知っているし、宮弥は、すぐに理解できてしまうし、そして三人は、我らの中では最強だ。」
「そうだな…俺達が味方側だとゲームに面白みがない。バランスが崩壊する。…という分けで、宮弥を呼ぶか…」
龍雅は、スマートフォンのアプリを開き、そこに「来い」と声を吹き込むと、宮弥が、龍雅の膝の上に座るように現れた。
「呼ばれて飛び出て即参上☆龍雅の嫁、宮弥ここに降臨♪」
「あ゛? 誰が、龍雅の嫁だ? 私こそ龍雅の嫁に相応しいだろう。」
「貴方は『嫁』じゃなく『妻』なのでは? そも、龍雅さんは貴方の夫ではなく婿の方が正しい故に、私は嫁に相応しい。」
「クッ…そうだな…私は、龍雅と婚約すれば、龍雅に極星院の一員としての地位を与える事になる…力関係はこの表舞台では、我ら極星院は、剣ヶ峰よりも上だ…それに、私の屋敷に住まう事を約束されている。それはつまり婿入りするようなもの。なるほどな…」
「そこまでにしてもらおうかな? お前ら…」
「はいはい…それで、何か御用かな?」
「あぁ、単刀直入に言う俺達とこのゲームのラスボスをやってくれないか?」
「委細承知、貴方達がこの行動を取る事は分かっていました。では、ラスボス設定に取り掛かりましょうか…」
「あぁ、そうだな。」
龍雅は、そう言ってプログラムを打ち始めた。
そして2月2日…
「虎太郎。」
龍雅は、そう言って、虎太郎の肩を叩いた
「ん? 龍雅か…なんだ?」
「今日、極星院邸で節分をやるから行かないか? 多種多様な巻きずしがあるから行こうぜ。何なら、お前のハーレムの奴らも連れてきてもいいぜ?」
「ハーレム? 何だ? 俺の彼女は香織だけだと思うが…俺にハーレムなんてあるのか?」
――香織の記憶改変か…或いは、ただいつものように鈍感なだけか? まぁ、いいさ…誘っとくだけ誘っとこう。
「お前の家は今日どうなんだ? 親いないだろう?」
「まぁ、そうだな。」
「なら、行こう。その前にお前の方の奴らにも連絡しないとな…二人だけ高級料理食べてるとか、ちょっとそれは悲しいと思うなー」
「仕方ない…誘うか…」
「その方がいい。」
龍雅は、そう言った後に「麗奈は嫉妬するかもしれんがな」と小さく龍雅は言った。
「何か言ったか?」
「いいや、何も? では、俺は先に極星院邸で待ってるよ…じゃ」
龍雅は、そう言って紗里弥と一緒に車に乗って車は、発進した。
一時間後…
「「龍雅君!」」
「おっ、香苗、奈々、来たか…」
二人の美少女、香苗と奈々は、エプロン姿の龍雅の肩を叩き、龍雅が振り向くと二人は笑い、龍雅は微笑み返した。
「おい、お前ら…手を洗ったか? 龍雅は、寿司を作ってるから邪魔するなよ。」
制服の上に割烹着を着た紗里弥は、巻き寿司を作りながらそう言う。
二人の作る巻き寿司は、美しく中身のご飯は輝いているように見え、魚の肉は、濃厚な脂が輝き、見るだけで食欲が湧き、腹が減ってくる。
一流の料理人並みの完成度だ。
「よし…これで出来た…」
龍雅が全ての寿司を巻き終わったちょうどその時、屋敷のインターホンが鳴った。
香織がインターホンのボタンを押すと、虎太郎の声が聞こえる。
「ん? 来たか…」
龍雅は、手を洗い、エプロンを脱ぎ、香織と変わった。
「そのまま入ってこい。」
龍雅が、そう言うと、一分後、虎太郎達は屋敷の居間に入ってきた。
虎太郎が連れて来たのは、香織、乃愛、芽衣、そして麗弥だ。
「ほう、姉上殿も来たか…」
「何ですの? 私が来てはダメだと仰って?」
「否、歓迎しよう。何、お前の狙いは、虎太郎だろう。」
「さて、揃ったな。では、豆撒きを始めようか…」
「ここでか?」
「まぁな…でも電脳世界だから意識的に考えればここではないがな。」
「炒り豆が勿体ないからか?」
「あぁ、食べ物を粗末してはいけないからな。電脳世界で行う…あぁ、行っておくが電脳世界でも能力は使えるように設定しておいた。更に言うと、痛覚はない。ダメージを受けても少しばかりの衝撃を受けるだけだ。コンティニュー回数は無限、まぁ、詳しい事は取扱説明書に書いてあるからな…」
龍雅は、全員に取扱説明書を渡した。
「各自読んでから参加するか参加しないかを決めてくれ。」
龍雅は、そう言って、パソコンを起動し、ゲーム開始の作業に取り掛かった。
―――鬼畜難易度で苦しむがいい。
龍雅は、そう言って龍雅、宮弥、紗里弥、香苗、奈々の装置に細工を仕掛け、エンターキーを押した。
「準備完了だ。参加する奴は?」
龍雅がそう言うと、全員が手を挙げた。
「そうか、ならこれを着けて横になってくれ。」
龍雅は全員に眼鏡型のVR機器を渡した。
香苗と奈々に渡すとき龍雅は、二人に何かを話した。
三人以外が装置を起動すると、全員気を失った。
「さて、俺達も行こうか…」
「えぇ…」
「あぁ…」
三人も装置を身に着け電脳世界へと入っていった。
「ここは何処だ?」
虎太郎が目を覚ますと、そこは禍々しい赤い月照らす京の街だ。
「ここは、ゲームの世界でしょうね…持ち物は豆100粒だけね…」
香苗は、そう言って持ち物を確認した。
「よそ見している場合ではありませんわ。」
麗弥がそう言い、後ろを振り向くと巨大な鬼が虎太郎達に向かって棍棒を振るってくるのを目視すると、鬼から離れ、地面に叩きつけられた棍棒から炎が噴き出し、衝撃と炎が一面に広がる。
「こいつらが説明書に書いてあった敵か…」
虎太郎は、そう言い、鬼に向かって豆を投げると鬼は、豆に当たり、苦しみ倒れ消滅すると、鬼がいた場所にアイテムが出現した。
虎太郎は、アイテムを取ると、豆の残弾が増えた。
「なるほど…」
「じゃっ、貴方達は、私を守りなさい。」
「お前も戦えよ…そもそも全員協力しないと無理だと思うけど」
「わかったわ。少しだけ協力して差し上げますわ。」
「行くわよ。」
乃愛は、委員長らしく虎太郎達を引っ張っていく。
「ねぇ、奈々、龍雅君は何処だと思う? 早く実行したいんだけど」
香苗は、そう奈々に尋ねる。
「さぁ? 外界であの準備でもしてるんじゃない?」
「なるほど…」
虎太郎達と奈々香苗コンビは、別々に別れ、攻略を開始した
それから七人は、ゲームを淡々とクリアしていき、ラスボス前にたどり着いた。
ラスボス部屋の前は禍々しい巨大な扉が設置されており、
「辿り着いたわね。」
「えぇ、重々しい雰囲気…この先にラスボスがいるって訳ね。」
「開けるぞ。」
虎太郎は、扉を開けると、ラスボスの間にいたのは、龍雅、宮弥、紗里弥の三人だ。
「よぉ、よくここまで辿り着いたな…俺達がラスボスだ。」
龍雅と紗里弥と宮弥は、鬼の角を生やし、炎の纏った刺々しい馬上槍を虎太郎たちに向ける。
「そんな! どうして龍雅が!?」
「俺達が鬼を狩れば、一瞬で終わるだろう…だが、それでは面白みがない…だから俺達はラスボスとして登場したってわけだ…」
「さて、行くぞ…」
龍雅は、消えると、虎太郎の目の前に現れ、そして槍で突き、建物の外へと壁ごと吹き飛ばす。
(クッ…いきなりHPが半分削られたか…)
続けて宮弥と紗里弥の攻撃が襲い掛かってくる。
異次元から放たれる無数の剣の弾幕。
全てを燃やし尽くすような炎と全てを凍えさせるような冷気の嵐。
虎太郎達は成すすべなく倒されていく。
「本気で行かねえとやべえな…」
虎太郎がそう言って立ち上がると、香苗と奈々が虎太郎の体を刺した。
「ごめんね。でも最初からこうなる事は決まっていたの。」
香苗と奈々は、鬼の角を生やし、龍雅側についた。
「さて、敵は増えた。この状況どう乗り切る? 虎太郎…」
「どうにかなりませんの!?」
「クソッ…いや…勝つ方法を思いついたぞ!」
「それは何!? お兄ちゃん!」
「いったん逃げるぞ!」
虎太郎達は、そう言って戦場から立ち去って行った。
「なるほど…あれを思い出したようだな。さすが虎太郎だ…だが、俺は負けてはいられない。ただで行かせると思うな!」
龍雅達は、虎太郎達を追いかけ始める。
瞬間移動で追跡を始める。
また虎太郎達も瞬間移動と時間停止で逃げる。
「行かせませんよ。」
宮弥は、指を鳴らすと、無数の弾幕が虎太郎達に襲い掛かるが、虎太郎達は、回避していく。
「よし、着いたぞ!」
虎太郎の目の前には燃え盛る寿司屋があった。
虎太郎は、寿司屋の中に入り、恵方巻を取り、一口サイズに切り分けた。
「よし、お前ら! 南南東を向いてこれを食え!」
虎太郎は、全員に切り分けた恵方巻を渡し、全員が南南東を向いて恵方巻を食べた。
「これは…」
虎太郎が恵方巻を食うと龍雅達に、能力無効、ステータス超弱体化、スタンが付与され、虎太郎達に味方ステータス超強化が付与された。
「ここから逆転開始だ!」
虎太郎達は、龍雅達に渾身の一撃を放つと、ゲームクリアが表示され、意識が現実世界に戻された。
「おめでとう。よく気が付いたな。恵方巻が勝利のアイテムって…」
「あぁ、恵方巻は、節分における鬼払いの象徴だからな。それに攻略するときに寿司屋って場所があったし。」
「フフッ、そうか…なら、節分パーティーを始めるとするか!」
その日、紗里弥の屋敷は、節分パーティーで大盛りになった。




