第斜拾弐話《偽りの三学期》
得大紐は、相も変わらず雪国の如き雪が降り積もっている。
息は凍り、雪は固まり氷となる。
山頂は、猛吹雪に覆われて火口が見えない。
冬の得大紐山に登る事は自殺行為に等しい。
故に、春先になると凍死体が山頂で発見される事が多々ある。
自殺の名所として挙げられてしまう。
それが得大紐の問題点である。
だが、世界を滅ぼす火山を抑える抑止力はそれしかない為、冷やさざるを得ないのだ。
龍雅は、体育館で新学期の挨拶を退屈そうに聞いている。
顔や態度は、キチンとしているが話が長いので龍雅の意識は、遠くに行ってしまっている。
いや、遠くに行っているより、心を閉ざして何かを考えているのほうが正しい。
――あのキャラの調整は…いや、あれであっているな。次は技をどうするべきかだな…
「龍雅…」
――あれでいいな。では次はあいつか…
「龍雅!」
――まぁ、あいつは後で調整するか…
「龍雅!!」
「何だ? 煩いぞ。虎太郎。」
「もう始業式は終わったぞ。」
「あぁ、悪い…」
「全く次から高校三年だというのに…しっかりしろよな。」
――否、俺達の高校三年は来ない…この世界の学生全員が留年だ。何も変わらない。歳をとることもない。卒業などない。この世界規模のバグが起こった時点で未来は閉ざされたのだ。閉鎖事象…あらゆる異世界で起こりゆる可能性のある時間の箱庭、世界にかけられた狂気と混乱の呪縛。それを解かない限り未来に進むことはない。
龍雅はそう思い、心の中で虎太郎の事を哀れに思う。
未来が来ると信じている虎太郎の事を。
季節が移り替わろうとも変わらない。
閉ざされた一年は技術以外変わらない。
もはや異界とかしたこの世界。
イベントが始まるまで何も変わらない。
故に、龍雅は、嗤い憐れむ。
この状況を。
「そうだったな…後一年で卒業か…」
「大学は何処に行くつもりだ?」
「俺は、まだ決めていないな。」
――この事は公言してはならない。してしまったら、やがてそいつは、世界から掛けられた記憶処理が解け時間の繰り返しを自覚して狂ってしまう。その事は絶対に避けねばならない。この事を知ってもいいのは元から狂っている悪人だけでいい。
龍雅は、そう思いながら、虎太郎と体育館を出た。
教室は、いつもよりも騒いでおり、クラスメイト同士、休みの間に何かあったのか等を話している。
龍雅はもちろん、いつもの場所で、宮弥達と話している。
「龍雅、大学卒業したら必ず極星院の企業に来いよ。」
「あぁ、わかっているさ。自分の力で入ってやる。コネなんか要らないぜ。」
「フッ、流石だな。だが、極星院の企業はどれも一流…その門は狭き門。最低でも名門大学にに入学し、上位成績を収めなければ入社出来ないが覚悟はいいか?」
「わかっているとも」
「何処にそんな自信がわいてくるんだ?」
「さぁな? まぁ、俺ならいける気がするんだ。何故かな」
「思い込みでこの世は上手くいかないぞ。龍雅…」
「まぁ、そうだがな…俺の力を持ってすれば、この世の事は大抵クリア出来ると思っているんだ。」
「貴方は、世界最高クラスの才能を持っていますからね。確かに大抵の事は出来ましょう…しかしながら油断は禁物です。怠惰な兔より勤勉な亀の方が強いという事が多々ありますから…と言っても貴方は勤勉な兔でしたね。」
「そうとも、俺は常に動く兔…物語の運命に逆らい動く兔である。鍛錬は怠らないさ」
「そうか、ならば心配はない。せいぜい勉強でもしておくんだな。」
「あぁ…その頃になるには、世界を何回繰り返すかわからないがな…」
龍雅は、そう小さくつぶやいた
「何か言ったか?」
「いいや、何も聞き間違いだろう。」
「そうか…」
(繰り返す? 何の事だ? またあの事件が起こったのか? まぁ、いい…その時になったら私は龍雅の力になるだけだ。妻として、龍雅の女としてな。)
数時間後…
始業式は、昼頃に終わり、龍雅と紗里弥は、得大紐にある巨大商業施設の中で食事をしている。
服装は、学校の制服で、テーブルの上には、フードコートの中で高い食事が並べられている。
「偶には、こういう場所で食事を摂るのも悪くないな。龍雅」
「あぁ、というか珍しいな。お嬢様のお前がこんな場所に足を運ぶとはな」
「こんな処とは何だ…ここは、極星院グループの商業施設なんだぞ。私が足を運んで何が悪い?」
「まさか商業施設まで抑えてあるとはな…」
「フフッ…私達がほとんど手を付けていないのがマンション経営だが、生憎何処かの誰かさんの母が高級マンションやタワーマンションを全部かっさらっていったおかげで、手を出しにくい状態なんだ。」
紗里弥は、龍雅の母涼美に嫌味を込めてそう言った。
「別にいいだろ。こちとら庶民でな。毎日豪遊出来る程の金を持っていない。」
「ククッ…よく言うな。毎日毎回お前の母と父が大勝を収めて大量の金を得ている癖に、お前の妹が31億という大金を家に送り付けている癖に、よく庶民と名乗れるな…お前は庶民じゃない」
「庶民です~俺は、ただの一般市民です~」
「嘘付け主人公…そもそも私と付き合っている時点で一般人という枠ではない。誤魔化せないぞ。龍雅…お前が一般人を名乗るとするならば、私も一般人になってしまうだろう。」
「わかった。俺は一般人じゃないな。」
「わかればいい。では、食事を済ませた後に映画でも見ようか。」
「あぁ…」
龍雅と宮弥は食事を済ませ、映画館へと向かった。
「は? ホラー映画?」
「何だ? 怖いのか?」
「い…いや、行きたくねえ…俺ホラー苦手なんだ。それにこの映画ってあれだろ? 史上最恐のホラー映画なんだろ? なぁ、引き返そうぜ…」
龍雅は、本気で震えている。
情けなく震えている。
あの試練を勝ち抜いた男とは思えない情けなさだ。
(怖いのだな…これは恐らく本気で行きたくないらしい…よし、最大の媚びを売ってから行くか…)
「ねえねえお兄ちゃん…紗里弥は、この映画、前から見たいと思ってたんだ~だから行こ?」
紗里弥は、いつもの紗里弥らしからぬ幼い声と言葉使いで、龍雅の服を掴み龍雅に上目遣いでそう言った。
「うっ…」
もちろん、ロリコンである龍雅には刺さり、更に妹属性も加算され、龍雅は、心を奪われた。
「仕方ないな…でも、今日おれが寝られなくなったら責任取れよ。」
「うん! お兄ちゃんが眠れなくなったら、私がいい子いい子してあげるから! 行こ!」
(チョロいな…やはりロリコンなお前は私には逆らえない。しかし私の最強の切り札を使う羽目になったとは…ふむ、やはり恥ずかしいな…このキャラは…)
数時間後…
「そこまで怖くなかったな…なぁ、龍雅…龍雅?」
紗里弥が横を見ると泡を吹いて倒れている龍雅がいた。
「え? 待て、マジでかよ…ビビりかよ…取り敢えず起こすか…」
紗里弥は、手に氷を纏わせ始めると、龍雅は冷気を感じ取り、飛び起きた。
「何だ? いきなり身の毛がよだつ冷気が全身を走ったんだが…」
「私の冷気だ。全くこの程度のホラー映画で倒れるとは情けない…」
「だって怖いし、俺ホラー番組見ると夜眠れなくなるんだよ。」
「空想の恐怖よりお前の体験した現実の恐怖の方が怖い筈なのに…何故、気絶するのか…わからないな」
「そういうもんなのさ俺は、さて…紗里弥…次は何処へ行く?」
「そうだな…次はお前の家に行こう…」
「あぁ、いいよ。早速行くか…」
二人は商業施設から出て、龍雅の家へと向かって行った。




