第8話 反撥
先程まで数人の生徒しか教室に居なかったが、東條と会話してる間に続々と生徒達が登校してきた。
その中には北村綾音の親友、西川風夏の姿があった。
「拓斗くん、おはよう」
「……」
「南くん、挨拶くらいはしたら?」
元グループメンバーに対しては完全無視を決めこむ覚悟だったが、一定の常識力はある東條に指摘されてしまった。
何でもかんでも、自分本位というわけでは無いらしい。
「おはよう、西川」
「っっ、もう名前では呼んでくれないんだね」
「……」
それ以上の会話は不要と判断し、俺は東條の方に視線を戻した。
ものの数分後に北原綾音がこちらの様子を窺ってきたが、琴葉にあれだけ釘を刺された昨日の今日では近づこうにも近づけないだろう。
その後、西川に声をかけられ、二人は教室から姿を消した。
中村は俺の姿を見るなり舌打ちをし、佐々木とは目が合うだけだった。
「なんというか、みんなバラバラだね」
東條がそんな事を言う。
「私のせいでもあるから責任感じちゃうなあ」
まったく責任を感じていなさそうな、声のトーンで東條はそう呟いた。
「本当に?」
「全然」
「なんだよ」
東條と話始めると、どこからか視線を感じたが、周囲に目を向ける事はしなかった。
昨日のことがあるし、誰が俺達を見ていても不思議じゃない。俺達以外のクラス全員がこちらを見ていても可笑しくないしな。
そんなことを考えていると、特進クラス担任の山田先生が来て朝のHRが始まった。
◇
三時間目は体育の授業だった。
体育館でバスケの授業をしていたが、試合になるとボールが俺に全然集まってこなかった。
陰湿だなあ。こういった小さなことから虐めは起きるんだぞ。なんて考えていると視界の端で、中村がニヤッと口角を上げているのが見えた。
あー、お前か……よし。
ボールが宙を飛び交う中、俺は突然走り出してボールをスティールした。
「あっ!」
クラスメイトの男子の情けない声が響く。
俺はそのままボールを掴み放り投げた。
中村皇輝に向かって……
「うぎゃっ」
多少距離はあったが、俺が投げたボールは、虚を突かれた中村の頭部に命中した。
そして、その場に蹲る中村に俺は言った。
「悪い。ゴール前にパスを出そうと思ったら、手が滑った」
「くっ……このぉ」
鬼の形相で俺を睨みつける中村。
「わざとじゃないから許してくれ。わざとじゃない」
俺は真顔で同じような言葉を繰り返す。
そして
「先生!中村の頭にボールが当たって大変です」
「なにぃ!おい大丈夫か、中村。とりあえず保健室行くぞ。お前らは各自シュート練習でもしておけ」
体育教師が指示を出し終えると同時に、中村はゆっくりと立ち上がり連れられていった……
「拓斗。お前あれは無いんじゃねえの?」
別コートで試合をしていた佐々木健也が俺に詰め寄る。
「なにが」
「お前が皇輝に向かってボールを故意に当てたのが見えた。さすがにダメだろ」
「故意かどうかなんてお前の位置からじゃ、分かるはずがない」
「分かる。丸わかりだ」
「……俺だけにボールを回さずに、授業を進めるのが悪い。先に仕掛けてきたのは中村だ」
「だとしても……もういい。お前には何を言っても聞かないんだろう?」
佐々木は諦めて俺から離れた場所でシュート練習を始めた。
一連の流れからして、クラスメイトを主導したのは中村で佐々木は無関係ということが判明した。
それだけが少し救いだった。敵意を向けてくるのは中村皇輝ただ一人か。
まあ、あいつに敵意を向けられる謂れもないが……
◇
教室に戻ったら、すぐに中村が詰め寄ってくると思ったがそうではなかった。行動を起こすなら昼休みか?
四時間目の授業が終わり昼休みの時間。
当然、中村が俺に詰め寄ってくる。
「てめえ、さっきはよくもやってくれたなあ」
「何度も説明したよな。あれは手が滑ったんだ、わざとじゃない」
「わざとだろ!また俺達と絡みたいからガキみたいな事してんだろ?」
思わず、フッと鼻で笑う。
「何笑ってんだよ、図星だろ」
「そんなわけないだろ、アホか」
「なんだと」
「何度でも言うが、お前らと今後絡む気は無い」
強い意志を持って言い放った。
そこに佐々木が割り込む。
「分かった分かった。皇輝も、もういいだろ。わざとじゃないって言ってんだ」
「絶対わざとっ」
「はいはい。行くぞ」
佐々木は中村を強引に教室から連れ出した。
食堂にでも行くのだろうか?
しばらく突っ立っていると、東條がお弁当箱を開きながら話しかけてくる。
「南くん。あなた何したの?」
「中村の頭に、バスケットボール当てた」
「何それ、詳しく聞かせて。返答によっては……」
「東條さん、言い訳をさせてください」
この流れ、既視感あるな。
そんなことを思いながら、東條に言い訳をすることにした。




