第7話 東條聖奈
部屋に聞き慣れたアラームが鳴り響く。
一生このままで居たいが、そうもいかない。
スマホ画面を指で滑らせ、アラームを止めてリビングへ。
「おはよう、お兄ちゃん早いね〜」
「おはよう、拓斗」
今日はある理由から三十分早く起きていたが、琴葉と母さんは、俺よりもっと早い時間に起きていたようだ。
「ああ、おはよう」
「つらかったら、今日くらい休んでもいいのよ。昨日の今日……いえ、それより前から疲れも溜まってるでしょう?」
「大丈夫……と思いたい。まあ頑張るよ」
「お兄ちゃんは何だかんだ、強いから大丈夫だよ」
その根拠の無い自信はなんだ、妹よ。
「今日は少し早めに学校行くから、朝飯はいらない」
「なんで早めに?」
「時間をズラしたいんだ」
「あー」
この一言で察してくれるから助かる。
「じゃあ今すぐ、おにぎり握ってあげる。学校で食べなさい」
「ありがとう、母さん」
「気楽にね、お兄ちゃん。またすぐに新しい友達出来るよ」
「ああ」
学校に向かう準備を済ませ、母親と妹に見送られながら、俺は玄関ドアを開いた。
◇
学校の正門前まで辿り着くと、昨日の記憶が脳裏に浮かぶ。
大丈夫、落ち着け、大した事じゃない。
自分にそう言い聞かせ、なんとか教室の前まで来た。
軽く深呼吸をしてから、勢いよく教室の扉を開けた。
教室に居たのは、疎らに散らばっている数人の生徒と窓際の席にポツンと座っていたのは……
「おはよう、偉いじゃん。来たんだ」
「おはよう……って、お前、早くね?」
「南くんが一人だったら、耐えられないかなと思って。早めに来た」
始業式の日は転校初日だから仕方無いにしても、二日目もこんな早い時間には来ていなかったはずだ。
これは本心なのだろう。
ただ……
「東條。お前は一体、何を考えているんだ?」
「何って。昨日の事を言ってるなら、私はただ自分が思った事を、君達に言っただけだよ」
東條が言ってる事は、的を射ているようで射ていない。
「だとしてもお前、初日に俺の事を無視したよな?嫌ってる相手がどんな扱いをされてようが、どうでもいいはずだ。おかしいだろ」
「あー、あれね。あれは、どっかの誰かさんが、転校生が来る!女の子だ!まじか!よっしゃぁぁぁぁ!!!的な事を言ってるのが廊下まで聞こえてきてさあ」
あ……
「声掛けられた時に、あれ?この声、さっき、めちゃくちゃ喜んでた人だなあってなって、気持ち悪いから無視した」
……
「言い訳してもいいか?」
「どうぞ?」
東條にチャンスを貰い、俺は渾身の言い訳を述べる事にした。
「あれはそういうノリだったんだ。グループで浮かない為に、俺自身、キャラを演じていた部分もあった」
「でも、転校生が女子で嬉しかった?」
「ああ、めちゃくちゃ嬉しかった」
「素直か」
東條が微笑む、彼女の笑った姿を初めて見た。
その笑顔は、たまらなく魅力的だった。
「何にせよ誤解は解けたみたいだね。別に嫌ってるわけじゃないよ。というか、嫌ってる人にお昼ご飯あげないし……」
でも……東條は続きを話す。
「あの時あの状況で、君も私を責めたてるようなら、本気で軽蔑してた。今はよくやった!って逆に尊敬してる」
「それは……複雑な心境だな」
東條の本心を聞いて、俺は苦笑いを浮かべる。
「それでね、南くんが良かったらでいいんだけど、これから仲良くしよ?あんな事をみんなの前で言っちゃった、私もクラスに居場所無さそうだしさ〜」
あはは……と軽く笑いながら東條が提案してくる。
「俺で良ければ。友達大募集中だから」
「そこは東條なら大歓迎って言ってよ」
「まだそこまで仲良くないよな!?」
まさかの展開。
いや、必然だったのかもしれない。
お調子者キャラを演じていた俺と、正義感が強く自分を持っている東條。
俺が変わる、きっかけをくれた存在。
あいつらと教室で会う憂鬱さよりも、俺と彼女の今後はどうなっていくのか。
予想が全くつかないからこそ、本当に楽しみで仕方なかった。




