第6話 衝突
教室に重苦しい空気が流れる中、予鈴が鳴る。
昼飯を食べ損ねてしまったが仕方無い。
席に座り、授業の準備をしていると、トントンと背中を軽く叩かれ、俺は、ゆっくりと振り返った。
「これ、食べる?」
東條が、ラップに包まれ、小さくカットされた二切れのサンドウィッチを取り出す。
「いいのか?」
「これならすぐ食べられるでしょう」
「ありがとう。助かる」
東條とは、これが初めての会話だった。
初日に無視されたから、嫌な奴だと思っていたが……
こいつは、一体何を考えているのか?
その後、学校が終わるまで、東條と話をする事は無かった。
◇
帰りのHRが終わると、俺は逃げるように教室を出た。
「あ、拓斗くんっ」
西川が俺を呼ぶが、無視した。
「ほっとけよあんなヤツ。何言っても無駄だ」
中村が西川にそう諭す。
「でも、このままでいいのかな……」
「今は距離を置くべき何じゃねえか?あいつも冷静さを欠いていたし」
佐々木も中村に続き西川を諭す。
「綾音、どうする?」
「あとで、たっくんの家に行ってみる。二人で話せばきっと……」
「そうだね。それが、一番いいかもしれないね」
「俺はしばらく距離を置いた方がいいとは思うが、まあ何にしても頼んだぞ綾音」
「うん」
「そこまでする必要あるか〜?」
中村だけは、関係修復に否定的だった。
◇
「ただいま」
「お兄ちゃんおかえり。で、どうしたの?また何かあった?」
「お前はエスパーかよ」
琴葉が凄いのか、俺が顔に出過ぎてるだけなのか。
「だってあの時と同じで、暗い顔してるんだもん。すぐ分かったよ」
後者だったか。
「あの時?」
「あの人が嘘告してきた時」
北原も遂に琴葉から、あの人呼びか。随分、俺達に嫌われたみたいだ。
「てか、お兄ちゃん。そろそろお母さんにも嘘告の事、話した方がいいよ。こんな状況で、家族ぐるみで、仲良くなんて出来ないでしょ?」
「そうだな。母さんが、仕事から帰ってきたら話すよ」
「よかった。なんか気持ち悪かったからさ、私も」
知らないうちに、琴葉にも負担をかけていたんだな。
「琴葉、すまなかった」
「大丈夫。私達はお兄ちゃんの味方だからね」
優しい言葉を掛けられ、つい、目元が潤む。
情けない、妹の前で。
「早く、自分の部屋入りな。今日何があったのかは知らないけど、気持ちを一旦落ち着かせた方がいいよ」
琴葉に促され、俺は自室に入り、ベッドに身を投げた。
そして、いつの間にか眠っていた。
…………
今、何時だ?
暗闇の中、手元にあるスマホを見ると18時32分
二時間くらい寝ていたのか。
母さんはもう仕事から帰ってきたかな?
そんな事を考えていると、この家で聞いた事がない声が、俺の耳に響いた。
「会わせるわけないでしょ!!!綾音ちゃん、自分がどれだけ酷い事したか、本当に分かってる?分かってないよね」
琴葉は抑え込んでいた感情を爆発させる。
「こっちゃん、違うの…… あれは友達との遊びで仕方無く」
「仕方無くとか遊びなら何してもいいわけじゃないよねっっ、お兄ちゃんはずっと……」
「たっくんが私をそういう意味で、好きなんて本当に知らなかったの」
「仕方無く、遊び、知らなかった。全部言い訳じゃん。もう帰って!!」
「やだ、帰らない。たっくんと二人で話をさせて」
「無理。お母さんも、もうすぐ仕事から帰ってくるし。綾音ちゃん、お母さんにも責められたい?こんなもんじゃ済まないと思うよ」
「こっちゃん……分かった、今日は帰る」
「もう来ないで。学校でもお兄ちゃんに近づかないで」
そう言い放ち、玄関ドアを勢いよく閉めた。
「琴葉」
「…… お兄ちゃん、起きてたんだ」
北原に対し苛立ちを全面に出していた琴葉だが、俺を見るなり、いつもの穏やかな表情にすぐ戻った。
「情けないな。声聞こえてたのに、部屋から出れなかった」
「いいんだよ。学校以外で、顔合わす必要ないから」
琴葉は俺にそう優しく諭す。
10分後。
母さんが仕事から帰ってきて、俺は全てを話した。
北原綾音に嘘告をされた事
教室でグループと決別した事
母さんは静かに俺の話を聞いた後、そっと俺に寄り添い、優しく抱きしめた。
その安堵感に包まれ、俺はまた泣いた。
今まで押し殺していた感情を前面に押し出すように。




