第4話 瓦解
「たっくん、おは〜。って、クマ凄いよ。大丈夫?」
「おはよう。昨日は眠れなくて」
「今日から授業あるのに」
綾音が心配そうな表情を俺に向けてくるので、
とっておきを、通学バッグからゴソゴソと取りだした。
「心配ない。これ持ってきた」
「あー!甘いやつだ!」
「エナドリな」
「美味しいやつじゃん。いいなあ」
「まあこんなんで、眠気が覚めるか分からんけど、気休めだな」
いつものように綾音と通学路で合流し、世間話をしながら学校へ向かう。
別に約束をしているわけではないが、今の俺にとっては悪い事に、これが習慣となっていた。
◇
教室の扉を開けると、目線の先に、皇輝が居た。
すると、揶揄うような口調で話しかけてきた。
「また一緒に登校してんじゃーん。さてはお前ら、付き合ってんの〜〜」
「なわけ」
ほんと、面倒くさいな。
「たっくんとはそんなんじゃないから」
こんなの、俺が傷つくだけの質問じゃん。
「嘘告したくらいだもんな。本当に付き合いたいなら、そんな事しないだろ」
近くで耳をすましていた健也もそんな事を言う。
「そういうもん?てかあの時の拓斗さあ、ガチで受け取ってて笑ったわ〜。やっぱ、流行りって面白いよなあ」
ヘラヘラとしている皇輝を見ていると、無性に腹ただしいが、歯を食いしばり堪える。
そんな事をしていると、俺の席の方から声が聞こえてきた。
『なにそれ、最低な人達』
このクラスではまだ馴染みが薄い声音が、教室に響いた。
「あ?誰だ、今の」
俺自身も誰がそんな事を言ったのか分からず、
キョロキョロと視線を巡らせる。
「どうして、そんな事が出来るの?人の気持ちを考えられないの?」
昨日、この学校に転校してきた東條聖奈が、苛立った様子で俺達に向かって言葉をぶつけてくる。
いや、俺は含まれていないか。
「は?なにお前。昨日来たばかりの奴が調子乗って」
転校生は可愛いと言っていた皇輝だが、
こんな事を言われては黙っていない。
だが、すかさず、東條も口を開く。
「あなたもあなたよ。どうしてこんな人達と、何事も無かったように話せるの?可笑しいでしょ」
俺も含まれていた。
「東條さんには関係無いよね」
綾音も語気を強めて反応する。
元々、転校生には悪い印象しか持っていなかったからな。
「関係無いけど、見ていて気分が悪くなったから、私が居るところではやめてもらってもいい?」
「なにそれ。教室で、たっくんと話すなって言うつもり?頭おかしいんじゃないの?」
……この一連の流れを傍で見ていた、俺はこう思ってしまった。
もうそれでよくないか?我慢しないでいいんじゃないか。これを機に俺は――
「たっくんも、なんとか言いなよ!あの女、とんでもない事言って――」
俺は………………
『嘘告なんて最低な行為をする輩と付き合う必要はないでしょう?』
東條のこの言葉で俺は舵を切った
「綾音、東條の言ってる事は間違ってないよ」
「え……」
「は?拓斗、お前」
これでいい。自分の気持ちを押し殺して、何が平穏だ。
「俺は綾音が好きだった。だから、あの一件があってから、お前らには複雑な感情を持っていた」
この瞬間、俺の平穏は音を立てて崩れ去っていく。




