第3話 葛藤
今日は始業式で、学校が早く終わったので、いつものメンバーと一緒に、カラオケに来ていた。
歌い過ぎて疲れたのか、段々とお喋りする時間が増えていった。
「今日来た、転校生さあ、ちょっと感じ悪くなかった?」
綾音が誰に向けたでもなく、そんな事を言い始める。
「そうか〜?緊張してただけだろ」
皇輝が、軽いトーンで返す。
「だってさあ、無理に仲良くする必要ないって、酷い言い方だと思わない?」
「まあなあ。でも可愛いからいいじゃん!」
「それは同意」
「同じく」
健也も俺も首をコクコクと動かす。
「可愛いからって、あの態度は、私もどうかとは思ったよ」
風夏は綾音側につく。
こう見るとやはり、男女それぞれの目から見える印象は、まったく違うようだ。
「だよねだよね。さっすが私の親友!それに比べて……」
ジトーッとした視線で綾音が男性陣の方を見つめる。
そのタイミングで俺は口を開く。
「まあ俺、無視されたし、良いイメージ無いけどな」
「たっくん、それほんと!?ひどっ」
「とにかく、関わらない方がいいかもしれないな」
「えーー、可愛いから話しかけるよ俺は」
皇輝が駄々をこねるようにそう言うと、すかさず健也も口を出す。
「俺も、お近付きになりたいかも」
「知らねえぞ俺は」
こいつらは言い出したら、聞く耳を持たないからな。ほっとけばいいか。
「ほんと、すぐこれなんだから。たっくんとは大違い」
呆れた様子で綾音は、オレンジジュースが入ったグラスを口に含む。
「男なんてそういうもんだろ」
「じゃあ、たっくんは男じゃない!?」
「なんでそうなる」
「だって話しやすいからね〜、なんか落ち着くし」
溜息をつきながら、俺も烏龍茶が入ったグラスを煽る。
綾音から男扱いされていないのも、グサグサと刺さるものがあるな。顔には出さないが。
「でも、拓斗くんはガツガツしてないから、話しやすいのはあるかもね〜。そこは好感持てるし、女の子からのイメージもいいかも?」
風夏が俺に対して、そんなことを思っていたとは、知らなかった。
そういえば健也や皇輝と違って、俺の事だけは、くん付けなのもイメージが良いからなんだろうか?俺の考えすぎか?
「モテる?ありがとう」
「あ、そこまでは言ってないです」
きっぱりと言われてしまった。
◇
カラオケを終えて綾音以外とは別れ、家までの帰り道を、綾音と二人で歩く。
今日の出来事を振り返り、二人笑い合う。
だが、俺は上手く笑えているのだろうか?
それだけが不安だった。
「たっくん、今日も漫画読みに行っていい?」
「ああ、悪い。今日は……」
1人にさせてくれ。そんな事は当然、言えるはずもなく。
「琴葉の塾の宿題見てあげる約束があるからさ、また今度な」
「たっくん相変わらず優しいね。それなら仕方ないか」
嘘をつくのは気が引けたが、先に嘘をついたのは綾音だからな。これくらいは許されるはず。
「じゃあ、また明日」
「ああ」
思えば、綾音に嘘をついたのはこれが初めてだ。
今までは綾音の事が好きだったから、出来る限り断らないようにしていた。
でも今は……ただ、複雑な感情だった。
綾音と話す時間が、楽しいのか苦しいのか曖昧で、自分でもよく分からなくなっていた。
「また明日……か」
また明日も別の何かを演じなければいけない。
その事実を突きつけられた気がした。




