第20話 軋轢
風夏フィーバーの熱も冷めた頃の昼休み
「私も一緒に食べていいかな?」
東條といつものように机を向き合わせて昼飯を食べようとしているところに、風夏がやって来た。
「大歓迎だよ。ね?」
東條が俺に一応だが確認を取る。
「ああ。四宮さん机借りてもいい?」
「いいよ〜」
右隣の席の四宮さんに許可を取り、風夏が席につく。
「また拓斗くんと、こうやって一緒に話せる日が来るだけで嬉しい」
「そ、そうか」
こういう事を自分に好意があると分かっている女子に言われると、その気が無くても照れるな。
「顔、顔。緩んでる」
東條がジトーっとした目で俺を見る。
「は?何ともないだろ」
「うっそ〜、ちょっと焦った?」
東條がいつものように俺を笑いながら揶揄う。
「本当に二人仲良いね。ちょっと嫉妬しちゃうかも」
「小さな日常で作り上げた仲ですから」
「まだ一週間も経ってないけどな」
「凄いなあ。運命だったのかもしれないね」
風夏がそんな事を言う。
「女子ってすぐそういう事言うよな…… 東條?どうした、箸止まってるぞ」
急に東條が固まる。
「…… あ。ねぇ最近、食堂の自販機に新しく出たヨーグルトの紙パックのシリーズ美味しいから、後で買いに行かない?」
なんだ、新発売のジュースの事考えてたのか。
「弁当食い終わったら買いに行くか」
俺がそう言うと東條と風夏は頷いた。
◇
「おい、拓斗」
俺たちが新発売のジュースを買いに行こうとすると教室から出て、すぐに声を掛けられた。
「話しかけないでって言ったでしょ!!」
風夏が声を荒らげる。当然だ。その相手は……
「おいおい風夏、俺はお前に声は掛けてない。拓斗に話があるんだよ」
中村皇輝
元グループメンバー。俺が一番嫌いなタイプの人間だ。
「このまま付いて来られても、うるさいだけだし、お前らは先に行っててくれ。てか、俺の分も買ってきてくれたら助かる」
俺はそう言って二人をここから離れるように促す。
「パシリすか、そうすかそうすか」
東條のふとした時の口調が面白いので、つい吹き出しそうになるが堪える。今は、そういう状況ではない。
「拓斗くんにまた酷い事言ったら許さないから」
「何も言わねえって。さっさと行けよ」
中村がウザそうにシッシッと手を振る。
東條と風夏はその場から離れた。
風夏は歩きながらも心配そうに俺たちの方を何度も振り返っていた。
◇
空き教室。この教室はよく内緒話に使われたりするイメージがあるな。俺の中でだけかもしれないが。
「ハーレム気取りか拓斗。俺らから何もかも、奪って楽しいか」
中村は意味不明な事を言い始める。
「お前は一体何を言っているんだ?奪ったも何も俺は何もしていない」
「何もしていないなら何故、風夏は変わった?そしてお前なんかとなんで話してるんだよ。おかしいだろ」
(お前なんか…… ねぇ)
「お前なんかと言うが、俺と風夏は中学からの付き合いがある。だから謝られて許した。それだけの事だ」
「だったら綾音も許さなきゃおかしい。幼馴染だろお前ら」
「はぁ…… なんだそれ。前にも言ったよな?俺は北原綾音が好きだった。だからこそ、あいつの事は許せないんだって」
何度も説明してるのに何故それが分からないのか、アホだからか。
「いつまでもガキみたいな事言ってんじゃねえよ、頼むから俺らを苦しませないでくれ。クラスに居場所が無くなっちまったじゃねえか」
「なんだそれ、結局自分たちの事か」
「お前が好きだった綾音も苦しんでるぞ。たっくんや風夏と話したいってよ」
「自業自得だな。嫌われるようなことをする方が悪い。もういいか?話が長すぎる。面倒な女みたいな奴だよなお前って」
「くっ、どこまでも俺を馬鹿にしやがって」
中村の拳が真っ直ぐに、俺の顔面に向かって飛んでくる。
「先に馬鹿にしたのはどっちだ」
俺は顔の前に右腕を出して、なんとかギリギリ受け止めて事なきを得た。
「今日だけは忘れてやる。ただ、次、手を出したら分かってるよな?お前、学校に居られなくなるぞ」
忠告はしておこう。
アホに理解出来るかは分からないが。
「くっ…… 」
「一つ言っておく。お前みたいな利己的な人間、風夏は絶対好きにならないぞ」
「今、風夏は関係無いだろ!!」
「お前が考えている事なんて、見え見えなんだよ。バーカ」
最後くらいは煽っておくか。と取っておいたが結構効いたみたいだな。
(イテテテ…… ったく。いい歳して殴るなよな、もう。東條に癒してもらおう)
その後、教室に戻ると東條と風夏が新発売のジュースを俺の机に置いて待っていた。
「拓斗くん、大丈夫だった?」
風夏が心配そうに俺の方へ向かってくる。
「ああ大丈夫だ。東條。今、ちょっといいか」
「いいけど。なに、ここじゃ言えない?もしかして告白?」
「こ、告白!?」
風夏が驚いたように叫ぶ。
その声に教室に居る生徒たちが何事かと反応する。
「なわけ。風夏、真に受けるなよ。東條は、いつもこんな感じだから」
いつもの冗談をサラッと流し、東條の腕を引き、廊下に出てすぐに俺は口を開いた。
「中村に殴られた」
俺は、赤くなった右腕を他の生徒には見えないよう東條にチラッと見せる。
周りの生徒もだが、風夏にあの場で見せたらとんでもない事になるからな。
「え、先生に言わないと…… 」
「言わなくていい、面倒な事になる。それより一緒に付いて来てくれないか。今の時間なら、保健室に先生も居ないだろうし」
「なに、誘ってるの?彼氏気取り?」
東條が怪訝そうな顔をしながら、胸の前で腕を組む。
「違うって。俺がただ、癒されたいだけ」
「…… 何が違うのかよく分からないけど、要は手当てしてって事ね。仕方ないなあ。意外と弱いんだ、南くんって」
「俺がそこまで弱いわけじゃないと思う。中村は中学時代に空手をやってたらしいからな」
「彼、野蛮すぎじゃない?」
「それはそう」
いつものように軽口を叩きながら、俺たちは保健室まで一緒に向かった。




