第21話 自覚
トントンとノックをしてから保健室に入る。
この時間に誰も居ないのは分かっているが、一応の礼儀だ。
(保健室に女子と二人……)
自分で連れて来ておいて今更ながらドキドキしてきた。アホか俺は!中村か?
「今考えてる事、当ててあげようか」
東條にそう言われ、ギクッとした。
「当てられるもんなら当ててみ――」
「保健室に女の子と!一緒に!わー!ドキドキするぅ!…… どう?」
「おおむねその通りです。恥ずかしいから当てないように」
「自分から連れて来ておいて何だよって話なんだけどね」
(はい。俺の心の中、99%当てられましたとさ)
「…… 試しに手くらい触ってみる?」
「え…… 」
東條の突然の提案に困惑する。
(何の試しだよ?手って、東條の手だよな。手って手?手?)
「ほら、早く」
東條が手を差し出す。
俺はそっと東條の手に触れてみた。
「柔らかいな」
そう言った途端、東條が手をサッと引っ込める。
「感想がつまらないのでおしまい。さ、手当てしよっか」
「すっげえ、スベスベで柔らかくて、良い匂いがして、とにかくすごかった」
気が動転してしまったのか、小学校低学年の作文みたいな語彙力になってしまった。
(しかも、めちゃくちゃ気持ち悪い言葉ばかり言ってたような)
「…… 南くんってほんと私の匂い好きだよね」
「まあ、良い女だもん。そりゃあ―― あ、」
思わず口が滑ってしまった。
今、こんな事言わなくていい。引かれ――
すると、東條の顔が少しずつ赤くなり
俺から目線を僅かに逸らした。
「…… 西川さんと仲直りしたけどさ、私達の関係は変わらないよね?」
俺からまだ目線を逸らしながら、東條は聞いてくる。
「変わるわけないだろ。俺には東條が必要だ」
すると、東條と再び目線が合う。
「…… なんかごめん。急にどうしちゃったんだろ私。やだやだ」
東條は話を続ける。
「手当てだよ。ほら傷の手当てしよ!」
「お、おう」
手当てをしてる間、どちらからともなく無言になった。
俺たちが話し始めるようになってから、俺の部屋で漫画を読んだ時以外で、完全な無言というのは珍しい事だった。
◇
予鈴が鳴ったので保健室から出ると本音が、また口から溢れたのか東條はこんな事を言う。
「ずっと不安だったんだ、私。南くんが西川さんと仲直りしたら、どうなるんだろうって……でもさ――」
東條は立ち止まり、話を続ける。
「南くんが私を必要って言ってくれて、凄く凄く嬉しかった」
東條は俺に向けて最高の笑顔を見せた
今まで俺が見た笑顔の中で一番美しかった
俺はこの瞬間はっきりと自覚した
東條聖奈のことが好きだと
彼女の言葉に救われたあの日から
ずっと心奪われていたんだ
「聖奈早く戻ろう。五時間目が始まる」
聖奈は、一瞬驚いた様子だったがすぐに頷く。
「うん! 拓斗早く行こ」
教室までの廊下を二人並んで歩く
ゆっくりでいい。
俺たちのペースで歩んでいければ、それで。




