第18話 告白
「ねえ、今日の放課後、カフェにでも行かない?」
東條にカフェに誘われたが、俺は少し考える。
さすがに、これは放課後デートというやつではないだろうか?
(まあ、先週は俺の家に来たくらいだし、それを思うには今更感はあるがカフェって特別だよな。うん、俺はそう思――)
「ミナミタクトクン、ムシデスカァ?」
東條は、不満そうに口を尖らせる。その外国人みたいな喋り方はなんだよと、思わず吹き出しそうになる。
「悪い悪い、ボーッとしてた。いいよ行こう」
「南くんってそういうところあるよね。何考えてるんだか」
東條は、呆れたようにため息をつきながらも、表情自体は穏やかだ。
転校してきた当初は、こんなにも表情豊かなやつだとは思わなかったな。
◇
カフェに着くと、俺はコーヒー、東條はミルクティーを注文し、二人でゆったりと過ごした。
だが、好きな漫画の話から話が変わって学校で起きたことを話してる内に、またあいつらの事を思い出してしまった。
「…… 私のことなんて気にしなくていいんだよ? 自分に素直になればいいのに」
「一度決めたことだから。それに、俺に変わるきっかけをくれた東條に対しても誠実じゃない気がして」
「…… ウジウジしてる南くん、カッコ悪いよ」
(たしかにな。気になっているなら聞けばいいだけ。何をウジウジしてんだろうな俺は)
その時、テーブルに置いていたスマホが震える。
(琴葉から?)
…………
「西川が家に来てるらしい。俺と話したいって」
「ちょうどいいタイミングだね。話聞いてみれば?」
「ああ…… でも、少し怖いな」
「西川さんにも、南くんに対して思うところがあるから家にまで来たんだと思うし、彼女と、しっかり向き合った方がいいと思う」
俺は何度、東條に背中を押されるんだろう?
その度に勇気をもらって、戦う事が出来る。
東條の言葉は俺にとって、一種の魔法のようなものだった。
「東條がそう言うなら、分かった。逃げずに、あいつと向き合ってみる」
「そうと決まったら行かなきゃ。ここは、私が立て替えておいてあげるから」
「バタバタしてごめん。今度埋め合わせするから」
その場を東條に任せて俺は走った。
別に急ぐ必要は無いが、決心を鈍らせたくなかった。
◇
電車から降りると、家の辺りは日が暮れて、すっかり薄暗くなっていた。
俺の家の前に、人影がポツンと一つあった。
それが誰であるかなんて、すぐに分かった。
俺を見るなり、言葉をぶつけてきた。
「拓斗くん」
「風夏。大丈夫だよ、お前だけが悪いんじゃない」
自然とそう呼んでいたし、言葉が出てきた。
意地があったから、学校や東條の前では呼べなかった名前呼び――
「…… 拓斗くんごめん、ごめんなさい。私が、みんなを止められなかったから傷ついたよね、苦しんだよね…… もっと早く気づいてあげられたらよかった……」
風夏は涙を流しながら俺に謝罪の言葉を述べる。
俺は黙ってそれを聞いていた。
「また、私は拓斗くんを助けられなかった…… 謝っても許される事じゃないのは分かってる。でも、けじめはつけたから。綾音たちとはもう関わらない。約束する」
「どうして? 綾音とは親友だったんじゃ――」
「親友なんかじゃないよ…… 今だからもう言うけど私は拓斗くんに近付く為だけに綾音を利用してたの。最初からずっと。自己防衛の為でもあるけど、最低だよね私って」
ようやく腑に落ちた。
中二のあの日から風夏が突然変わった理由。
学校でも目立っていた綾音に近づいた意味。
「なんて言ったらいいか…… 風夏。ごめんな、俺のせいで」
「拓斗くんは何も悪くない。悪いのは私」
ひたすら自分を責める風夏。
「もう俺を気にしなくていいんだ。周りに合わせる事もしないでいい」
「そんな事言わないで! 私はずっと拓斗くんの事…… でも、もう遅いよね…… 」
風夏のその言葉に、答える事は出来ない。
その気持ちもないけれど、これだけは言える。
「…… 風夏。俺はお前だけは許そうと思っている。だが、あいつらだけはどうしても許せない。人の気持ちも考えられない、最後まで人のせい、そんな奴らは絶対に許さない」
俺の考えを風夏に話す。こいつになら話してもいいと判断した。
元々、風夏には申し訳なさを感じてはいた。
あいつらを止めるなんて受け身がちの風夏には難しい。
それを頭では理解していながら、クラスのみんなが見ているあの空間では、グループ全員に対して感情的になってしまった自分がいた。
「ありがとう拓斗くん。私に出来る事があるなら何でもするから」
「その気持ちだけで充分だ。ありがとな風夏」
涙を流しながら歩く風夏の背を見送りながら、これでもう終わったと安堵する。
だが、この時の俺は少し甘く考えていたのかもしれない。
西川風夏を許した。これが誰にどんな感情を与えるのか、この時の俺には分かるはずもなかった――




