第15話 不穏
「南くん。この漫画、面白かった。早く続きが読みたくて、月曜日を楽しみにしてたよ」
学校に着くと東條が挨拶そっちのけで、俺に話しかけてきた。
「それは良かった。お嬢様の好みに合ったようでなにより」
「お嬢様って…… どこから出てきたのそれ」
「雰囲気」
「偏見が過ぎるよ。恥ずかしいからやめて」
誰がどう見ても、お嬢様なんだけどな。
これ以上言うと嫌われそうだし、やめておこう。さすがに東條に嫌われたら泣く。
「悪い悪い、はい二巻」
「ありがとう。それでね、一巻のあの魔人が――」
東條と漫画の話をしていると、男子生徒数人が俺達に近寄ってきた。
「南、今ちょっといいか?」
「ああ、どうした」
「あいつが教室に居ない今だから言うが…… 先週は悪かったな」
「あいつ…… 先週…… なんのことだ?」
(まあ多分、中村のことだろうな)
「中村だよ。体育の時」
「あー、気にするな。俺もやり返せたし大丈夫だ」
「そう言ってもらえると心が軽くなるよ。それでさ、悪いのは中村達じゃね?って今更ながら思ってさ」
(へぇ。やっぱある程度、頭が良いクラスだとこうなるんだな)
「それで」
「なんで南たちのことを、無視したり嫌ったりしなきゃいけないんだって思ったんだ」
「東條さんだって、正しいこと言ってたしさ。今考えると転校してきたばっかなのに、凄えよな」
「私は何も…… ただ、思ったことを言っただけだから」
クラスメイトの突然の賛辞に、東條は、やや困惑したように答える。
「とにかく、話はそれだけだ。これからもクラスメイトとして仲良くしてくれ」
「…… 俺からも一ついいか?」
「なんだ?」
「あの事が原因で、あいつらを無視したり虐げたりするのは止めてあげて欲しい。みんなに嫌われる要因があるのは確かだが、全否定される理由にはならないはずだ」
「どうして、あいつらなんかの事を気にすんだよ。あいつらはお前を――」
「一年間楽しくやってきた相手を、他人の揉め事を見ただけで簡単に切り捨てるなよ。俺から言いたいことはそれだけ」
「私も同じ意見かな。南くんは仕方ないにしても、あなたたちまで彼らを攻撃する必要はないと思う」
「…… お前ら、やっぱ大人だな。俺達とは全然違うわ」
クラスの男子生徒達が感心したように頷く。
「大人がバスケットボールで反撃したりは、絶対しないけどな」
クラスの男子生徒達が確かにそれはそう。と反応し、一通り笑い合ったところで、また話を続ける。
「思うところはあるけど、分かった。俺達は普通にしてるよ」
「ありがとな」
言いたいことは全て言い終えたのか、クラスの男子生徒達は俺達がいる場所から遠ざかっていった。
「南くんって、優しいんだね」
「そうか?」
「うん。彼らが孤立しないようにしてあげるのは良いことだよ」
「女子はどうなんだろうな、雰囲気悪そうだけど」
「女子達には、私が話してみるよ。ちょっと怖いけど、南くんもやったし私もやる」
「東條…… ありがとう」
「漫画も借りた事だしね、それに私にも責任があるから」
「責任なんて感じてないって、言ってなかったか?」
「さあ?いつの話でしょう」
「ったく。なんだかんだ優しいんだなお前も」
やっぱり、東條は良いやつだな。見ていて気持ちが良い程に真っ直ぐだ。
自分が正しいと思うことなら、誰の目も気にせずに行動しようとする東條の姿に、改めて感心した。
◇
【中村皇輝視点】
俺が教室に入る瞬間、クラスのやつらがあいつらの近くで何かを話しているのが見えた。
それが妙に腹立たしかった。
クラスのやつらが俺らを罪人のような目で見ている。それに、あのことがあってから俺達のクラス内での立ち位置が極端に下がった。
確信は持てないがクラスの女子達は、いまだに、綾音や風夏を悪く言っているようにみえる。
(たかが嘘告で騒ぎやがったあいつらのせいで…… つか、そんなことより)
何故、風夏までグループを抜けた?
連絡しても既読にしかならないし、話しかけても無視された。なんで、なんで……
(綾音は落ち込みすぎだし、健也も拓斗をそこまで敵視していないように見えた。風夏はあの時、明らかに一番動揺していた。なんで、なんで……)
なんでだよ、あんな奴どうだっていいだろ!
(拓斗が勝手にグループを抜けるならまだしも、風夏まで責任感じて抜けるこたぁねえだろ)
俺は密かに、風夏に恋心を抱いていた。
高校に入学してから彼女と出会って、こんな子と付き合えたらいいなと思い描いていたが、その可能性が今、消えつつある。それもあって、どうしてもあいつらを許せなかった。
あいつらを睨みながら、俺は拳を強く握りしめる。
(許せねえ、俺らの平穏を奪いやがって。拓斗、お前らだけは絶対に――)
拓斗と視線が合う。すぐに目を逸らされたが、俺だけは、じっと睨み続けていた――




