第14話 後悔【北原綾音視点】
学校までの通学路。
いつも当たり前のように、私の隣に居た彼の姿はもう無い。
たった一回の過ちで、私のほとんどを失ってしまった。
周りのノリ、遊び、好意の有無、そんなものは言い訳にならない事は、こっちゃんやお母さんに言われてよく理解した。
後悔している。
ただ……
ただ一つ理解出来なかった事があるとするならば、それは……
風夏。
そう、私の親友だったはずの風夏だ。
たっくんがグループから抜けて寂しいのは分かるが、それでも何故、私は彼女に突き放されたのか。
(仲良かったのになあ。それとも仲が良いと、思ってたのは私だけだったのかな?)
私が、たっくんとの仲直りは難しい事を話すと、風夏の様子がいきなり変わり始めた。
「…… 私、グループ抜けるから。嘘告なんて酷い事する人達と関わりたくないし」
急に? 何故?
「私は止めたもん!拓斗くんが傷つくのは見ていられなかった。でも皆が」
傷つくのが見ていられなかった……
その理由は?友達だから?いや、違う。
思い返してみると、それほど考えなくても答えはすぐに出た。
今更の気付きかもしれないけど……
(風夏はずっと前から、たっくんの事、好きだったんだ。たっくんと一緒にいる為に私は――)
その先を考えたくもなかった。
◇
教室に入ると、最近になって変化が訪れた。
あの件が教室で起こる前までは、くだらない話をしたりしていた、私の席の近くにいるクラスメイト達の様子が変わり始めた。
私が登校してくる度に会話を止める。そして話題を変更したのか、会話を再び始める。
ここまでされると、薄々勘づいてしまう。
私の事を話しているんだ……って。
表向きには言えない私の悪口を仲間内で共有しているんだ。
傷付いてはいけないはずの私だけど、心が凍るように冷たくなる。
「綾音ちゃん、おはよう〜」
「おはよう、カナちゃん」
怖かった。
この言葉の裏には、どんな事を思っているんだろう?と考えてしまう。
そんな時だった。
あの女とたっくんが仲良さげに、話をしているのが目に映る。
「南くん。この漫画、面白かった。早く続きが読みたくて、月曜日を楽しみにしてたよ」
(あ!あの漫画、私が好きな漫画だ)
「それは良かった。お嬢様の好みに合ったようでなにより」
「お嬢様って…… どこから出てきたのそれ」
「雰囲気」
「偏見が過ぎるよ。恥ずかしいからやめて」
(そうか…… もう私の居場所なんてどこにもないんだ)
早く、学校終わらないかな。
そんな事を考えていると。
「綾音。大丈夫か」
健也が私に話しかけてきた。
「大丈夫…… では、ないかな」
「今日の放課後、少し話さないか。色々と状況を聞きたい」
「うん…… 皇輝は?」
「誘わないでおいた。あいつがいると話が進まないからな」
「そう」
一人で抱え込むには限界があった。
健也に話を聞いてもらおう。
「綾音、もう俺達のせいでって言わないんだな」
「さすがに気付いた。私がやった事だから私が悪い」
「……」
健也は黙ったまま、何かを考えている様子だった。
◇
放課後
皇輝に悟られないよう、私達はファミレスに現地集合の約束をした。
席に着きドリンクバーをタッチパネルで素早く注文し、席にドリンクを持ってくる。
「早速だが聞かせてくれ。何故、風夏までグループを抜けたんだ。やっぱり、あの事が原因か?」
「……うん」
(多分、あの事だけではないけどね)
「そうか…… 俺達が提案したちょっとした遊びでこんな事になるとはな」
「ほんとだよ。おかげで私は…… 」
「綾音、すまなかった」
「え、」
驚いた。健也が初めて、私に謝罪の言葉を口にした。驚く私に対し、健也は話を続ける。
「俺は、お前のそんな顔が見たかったわけじゃない。俺は――」
健也が私の目をじっと見つめる。
「お前の事が好きだ。だから、そんな顔をしないでくれ」
「え、えっと…… 」
突然の告白に私は言葉を失ってしまう。
「言葉が足りなかったな。拓斗が綾音を好きな事は、何となくだが分かっていた。だから少しでも拓斗が綾音の事を嫌いになればいいと思ったんだ。俺は綾音が好きだから」
健也が何を言っているのか、理解出来ているようで理解出来なかった。
「は、はぁ。え、そんな事のために?じゃあ、こうなる事が分かっていて健也は狙ってやったって事?」
「違う!ここまで大事になるとは本当に思ってなかった!」
店内に健也の声が響く、健也は申し訳なさそうに周囲に軽く頭を下げた。
「…… 私が健也に怒る権利なんて無いのは分かっているけど、最低だね私達。人の好意を蔑ろにして」
「そうだな。拓斗には、本当に申し訳ない事をした。後悔してる」
私達は分かっていた。後悔しても、もう遅いと。ただ、言葉に出さずにはいられなかった。
それくらい今の状況は未熟な私達にとって、受け入れがたく重い現実だった。




