第13話 あの日【西川風夏視点】
スマホにふと視線を落とすと、グループを抜けた私のスマホの通知欄が大量の通知で埋め尽くされていた。
健也から2件、皇輝から10件、綾音からは来ていないようだ。
「なんでグループ抜けたんだよ」
「嘘告か?嘘告が原因か」
「なんか言え」
「おーい風夏〜」
「おーい」
その後はスタンプが覆い尽くしていた。
中村皇輝。相変わらず、鬱陶しい男。
彼とは高校で知り合ったけど、正直あまり好きではない。
グループのメンバーとは、仕方なく付き合っていた部分があった。
それは、拓斗くんが居たから。
確かに私は綾音と親友だった。
ある程度、信頼されていた。
それもこれも全部全部、自分の為。
拓斗くんが好きだから。
話は中学時代に遡る――
◇
中学二年生の頃の、私は学校で目立つ方では無かった。
性格も暗くて友達も居ない生徒。
いや、それだけならまだよかった。
教室で無視をされたり、教科書を隠されたりするようになった。
「おい、西川。教科書どうした?」
「…… 忘れました。」
クラスのみんながクスクスと笑い始める。この、教室の空気が大嫌いだった。
そんな時
「嘘つくなよ、俺に貸してくれただろ?」
普段は大人しい南くんが、私に声を掛けてきたのだ。
誰かが助けてくれるとは夢にも思わず、私はただただ驚いた。
「先生!忘れたのは、俺です」
「南。忘れたのなら早く言え」
この瞬間、私は嬉しさと同時に悲しくなった。
何故なら……
チッ
どこからか分からないが、舌打ちが小さく聞こえた。
標的が私から、南くんに変わるだけだから――
南くんがよくクラスで話をしていた友達に、無視をされるようになった。
私のように何かを隠されたりはしていなかったようだが、クラス全体で南くんを無視するようになっていた。
「南く――」
「今話しかけたら、またお前だから」
クラスで目立つ男子生徒に耳元で言われ、私はその場から動けなくなってしまった。
私は南くんに対して、何も出来なかった。
一ヶ月後
ようやく、南くんが罰から解放された。
次第に、周りからも声を掛けられるようになっていた。
その日、私は誰も居ない校舎裏に、南くんを呼び出した。
当時はスマホを持っていなかったので、手紙を彼の机に忍ばせた。
当然、告白などでは無い。
あの日の謝罪をする為……
南くんがゆっくり姿を現すと、すぐに私に近付き、口を開いた。
「西川、大丈夫だよ。お前が悪いんじゃない」
「でも!私のせいで南くんがあんな…… あんな酷い目に」
「俺が自分の意思でやった事だ。気にするな」
「あいつら、絶対許さない!許さない!復讐してやる――」
「ちょっと待てって、西川。中二もあと少しで終わる。あいつらとは関わらなくなる可能性の方が高い。冷静になれ」
南くんに止められたが、今の私は収まりそうになかった。
だけど、南くんの本音を聞いた時。
悲しい声音を聞いた時だ。
「もういい。俺は、俺は、平穏に毎日を過ごしたいんだよ…… 西川がまた貶められる事になれば、俺はもう耐えられない。西川を救ってやれない。俺の為にあいつらへの怒りを鎮めてくれ」
私は、何も言えなくなった……
南くんの心も限界だったんだ……
その瞬間、私は変わろうと決意した。
クラスで悪目立ちするからあんな事になるんだ。とにかく普通以上にはなる。
南くんの為に。
背筋を伸ばす。髪を切る。その他諸々。
中学生だから出来ない事もあったけど、私なりに人に好かれる努力をした。
南くんの為に。
小さな努力が一つずつ実を結び、中学三年生に進級して環境が変わった時には、友達がたくさん出来ていた。
そんな時に出会ったのが、南くんの幼馴染の北原綾音だった。
彼女は容姿が整っていて明るくて、男女問わず人気が高かった。
だから、好都合だった。
「綾音ちゃん」
ぎゅっと背中側から彼女を抱きしめる。
「びっくりした〜。てか、風夏ちゃん可愛すぎない?どこから湧いてきたのぉぉぉ」
「ずっとこの学校に居たよ〜。よろしくね、綾音ちゃん」
彼女と居れば私の価値も上がり、周りから貶められる事も無くなるはず。
それに、南くんとも繋がり続けられる。
自分の気持ちには、とっくに気がついていた。
自分を偽り続けた。
彼女の親友を演じ続けた。
友達ではあったが、親友では無い。
全ては彼の為。
私を救ってくれた存在を――
ただ、振り向かせる為――
「たっくんかぁ…… 私は、拓斗くんって呼んでもいいかな」




