第12話 本心
「南くん、さすがに見すぎ。集中させて」
「ごめん、ボーッとしてた」
俺が見ている事に気づいた東條に指摘され、慌てたように手元の本に視線を落とす。
その時
「たっだいま〜。お兄ちゃん、誰か来てるの〜」
俺の部屋にも聞こえる、大きな声が響く。
琴葉が、学校から帰って来たようだ。
「あー。今、友達来てるからドア開け――」
バンッ
部屋のドアが勢いよく開かれた
「琴葉、勝手に入ってくるなよ」
「友達なら私にも紹介…… えーー! 女だ。お兄ちゃんが可愛い女、部屋に連れ込んでる!!」
こっちの都合などお構い無しに、琴葉が叫ぶ。
「連れ込んでるって言い方やめろ」
「連れ込まれちゃった」
「東條も乗っかるなって」
「東條さんっていうんですね。ちなみに下のお名前はなんていうんですか?」
「東條聖奈です。よろしくね、琴葉ちゃん」
「よろしくされちゃったよ、お兄ちゃん」
「お前らのそのノリは、なんなんだよ……」
琴葉はそのまま、俺の部屋にあるクッションに勢いよく座り、質問をする体勢に入る。
「お兄ちゃんとは付き合ってるんですかー!?」
中学生らしい真っ直ぐな質問だな。
「今はまだ付き合ってないよ」
ん?
「今は。という事はこの先、可能性あるんですかぁ!?」
「学校の友達が南くんだけだから、そういう意味で言ったら第一候補になる…… かな?」
こちらの様子を伺いながら、迷ったように、東條は答える。
まあ、嘘は言っていないが、俺が第一候補はさすがに言い過ぎだろう。
東條ならその内、周囲にも認められて上手くやっていけるはずだ。
「友達がお兄ちゃんだけ…… でも、こんなに可愛くてスタイルも良いのに、友達がお兄ちゃんだけっておかしくないですか?矛盾してます。何かあったんですか?」
最近、覚えたての言葉を使って可愛いやつだ。
この場合、使い方が合っているかは分からないが…… にしても鋭い。
「私が思った事を口にして、みんなを傷つけたの。だから周囲からは、あまり話しかけられることはないかな」
「もしかして、お兄ちゃんが変わるきっかけをくれたのは…… 聖奈さん?」
「南くん。どう、私のおかげかな」
東條は小首を傾げ、俺に答えを求める。
答えは決まっていた。
「あの時、東條に勇気を貰えなかったら、俺は今もまだ、複雑な気持ちを抱いたまま、あいつらと一緒にいたかもしれない。俺は東條に救われたし変われたと思う」
「南くん……」
「素敵だなあ。相思相愛だね!」
「さっきから使い方も意味も間違ってると思うが……」
「よし!色々お話聞けたし、私はお邪魔だと思うので、そろそろ消えますね。ありがとうございました」
バタンッと部屋のドアが閉まる。
質問したいだけして去りやがった。
嵐のような奴だ。まったく
「…… そろそろ良い時間だし、私も帰ろうかな。妹ちゃんにも会えたし楽しかったよ」
「漫画、全然読めなかっただろ?貸すよ」
「ありがとう。明日返すね」
「明日は学校無いぞ」
「あ、そうだった。じゃあ来週、返す」
俺は、玄関前まで東條を送る。
「駅まで送ろうか?」
「気持ちは嬉しいけど、大丈夫。また来週、学校で」
「ああ、また来週」
どこか名残惜しい気持ちを抑えながら、東條に手を振り、玄関ドアの鍵をガチャリと閉めた。
◇◇◇◇◇
【東條聖奈視点】
「良い匂い…… いや、これはその」
不思議だった。男の子にこんな事を言われたら、いつもの私だったら嫌悪感を抱いていたはずだ。
なのに…… どうしてだろう?
南くんに言われると素直に嬉しかった。
思えばあの時、教室で彼が仲間と決別する姿を見た時から、私は彼に対して一目置いていたのかもしれない。
恋愛感情では無い。今は、まだ。
ただ、彼と一緒に居ると居心地は良かった。
私は、歯に衣着せぬ物言いを他人にするから、周りから嫌われがちだ。
前の学校でもそれが原因で嫌がらせをされた。
そんな私を受け入れてくれたのが南くんだ。
お互いに助け合えるような存在になりたいと、今は思っている。
それが今の私の本心――




