第10話 影響
俺の言い訳を聞いて、東條は呆れていた。
呆れていたが、言葉を紡ぎ出す。
「南くん、相手と同じ土俵に立ったらダメだよ。あなたの価値も下がるから」
東條はそう言うが、俺は納得いかなかった。
「やられっぱなしでいろって?」
「そういうことじゃなくて。このまま挑発に応じるような事ばかりしてたら、敵が増えるよって言っているの」
「じゃあ、どうすれば……」
「ほっとけばいい。嫌な事があっても私が話聞くし」
東條が真っ直ぐ俺を見る。
「愚痴りまくるけどいいのか?」
「そのために、私がいるんでしょ」
――ああ、そうだった。もう東條とはあの件を通じて、友達になったんだ。
東條は本当に良いやつだ。
解決策を示してくれるし……可愛いし。
おっと、容姿は関係無いな。
「どうしたの、急にボーッとして」
「分かりました。東條様に従います」
「分かったならいいけど、それ、やめて」
東條は、やや冷ややかな目で俺を見ながら言った。
その時、予鈴が鳴った。
昼休みが終わり、もうすぐ午後の授業が始まる。
教室に戻って来た中村が俺を睨んできたが、俺は視線を逸らし、窓の方へと向けた。
俺はあいつと揉めたい訳じゃないからな。そこを履き違えて、自ら泥沼に嵌りかけていた。
ある意味、また東條に救われたな。
「偉い偉い」
子どもをあやす様な言葉遣いで、東條が後ろの席から呟いてくる。
中村にも言われた通り、俺もまだまだガキだったってことか。反省しないといけないな。
◇
「南くん、この後予定ある?」
帰りのHRが終わってすぐ、東條にこの後の予定を聞かれた。
「今日は好きな漫画の新刊が発売されるから、本屋に行こうと思ってるけど――」
「私も付いていっていい?」
なんだと……
「別にいいけど、何か読みたい本でもあんの?」
「そういう訳じゃないんだけど、良さそうな本があったら買おうかなと思って」
「じゃあ一緒に行くか」
「うん」
可憐な笑みを向けながら、東條は俺の後ろをトコトコと付いて来る。
「……」
そんな様子を西川風夏は黙って見ているしか無かった。
どうしてこうなったの?
私は何もしてないのに
悪いのは綾音たちなのに
どうして――
◇
駅前の本屋に着いた俺達は、一旦別れて行動する事にした。
東條はミステリー小説が好きなようだが、俺はあまり難しい本は好みではないので、少年漫画が並ぶ棚に移動した。
お、あったあった。マジンクエストの新刊。
新刊本がズラリと積まれている所から、少し考えて上から三段目の本を手に取った。
これは気分的な問題なのだが、一番上から取るのは何か嫌だった。他の客が手に取って眺めたりしている可能性があるからだ。
シュリンク加工されているから、あまり意味は無いのだが、本当に気持ちの問題だ。
他にも何か良さげなものは無いかと、眺めていると、背後から急に声を掛けられた。
「少年漫画かぁ。読んだ事ないなあ私」
「うわっ!びっくりした。急に近付くなよ」
振り向くと東條がすぐ目の前に居て驚いた。
「そんなに驚かないでよ。私と一緒に来てるの忘れてた?」
「いや、そういう訳じゃないが」
友達にこんな事を思いたくないが、あまり近寄られると嫌でも意識してしまう。
「あらすじ見てみたら面白そうだし、私も試しに買ってみようかなあ」
「貸そうか?この漫画以外にも、こういうジャンルなら家に山ほどあるし」
「そうなんだ。こういうのって女子でも読んだりするのかな?」
「綾――北原はよく読みに来てたよ」
「え、南くんの家に?」
東條は、不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。
「ああ、幼馴染だからな。いや、だったが正しいか。今は、ただのクラスメイトでご近所さんだけど」
「その言い方はどうかと思うけど、へー、そうなんだ。ふ〜ん」
東條は何か言おうと、逡巡している。
「どうした?」
「北原さんがいいなら、行っても問題無いよね」
「行くって――」
「南くんの家」
……はい?




