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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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3/4

旅立ち 下

 二人は一時間ほどパソコンで父 晃樹の資料を調査すると、それらしい事件を見つけた。

「蜜華。

 二十二年前に、橋の近くに住んでいた女性が、自殺している。

 自分の子ども二人を溺死させた後、橋から飛び降りて自殺だって。

 都市伝説の悪霊の行動と一致しているし、これで あってると思う」

「普通なら、遺灰を塩で浄化して、もう一度焼けば解決するけど。

 でも、父さんがなぜこんな簡単なことをしてないのかしら」

「墓の所在がわからないのよ。

 女性は無縁仏に出されたわ。

 だから知っている人がいない。

 一人を除いて」

 自殺した女性の夫の写真があった。

「彼だけが、場所を知っている」

「今 住んでる場所はわかる?」

「隣の県に引っ越している。

 住所はわかるわ」

「早速 行きましょう」



 三時間後、目的地へ到着した九字姉妹は、雑誌記者と偽って夫だった男に話を聞く。

「なぜ二十年も前の事件を調べているんだ」

 優璃が応える。

「雑誌の方針で、過去の事件をもう一度 扱うコラムが作られることになったんです。

 昔 話題になったけれど、その後 忘れられた事件をもう一度思い返そうという趣旨だとか」

「そうか、まあいい。

 取材料さえ払ってくれれば なんでも答えるよ」

「なぜ、奥様は子どもを殺害されたのでしょうか?」

「なぜ妻が子どもを殺したのか、誰にもわからない。

 警察は育児ノイローゼだと言っていたが。

 俺はどうすればいいのかわからず、このありさまだ」

 男の その後の人生はうまくいかず、みすぼらしい有様だった。

「奥様の遺骨はどこに?」

「ああ、住所を教えるよ。

 だが俺は墓参りには行ったことはないんだ」

 優璃は、彼が何か罪悪感を抱えていることに気づいた。

 もしかして、引っ越しした本当の理由は……

「……あなたは、浮気をしていましたか」

 男はぎょっとする。

「なぜそんなことを聞く?」

「浮気なら動機になり得ると思って」

「……あれは過ちだったんだ。

 ただの、間違いだったんだ。

 一時の気の迷いだったんだ!」

 男は怒りを顕わにし、殴りかからんばかりだった。

「わかりました。

 本日の取材はこれで終わりとさせていただきます」

「もう二度と来るな!」



 町へ戻る途中、優璃は蜜華に説明する。

「どうも夫の浮気がショックで、子供たちを殺し、その後 自殺したみたいね」

 蜜華が感心する。

「やるじゃない、優璃。

 勘が戻ってきたみたいね」

 優璃は嫌悪感を顕わにする。

「やめてよ、こんな人生送るつもりはないんだから」

「でも、闇に巣くうものの存在を知ったからには、普通の人生は送れないわ」

「私、秋晴と結婚の約束しているのよ。

 こんな危険な人生じゃない。

 安全で幸せな人生が欲しい」

「母さんの敵は討ちたいとは思わないの?」

「私は一歳にもなっていなかった。

 母さんのことを何も覚えていないのよ。

 それなのに命をかけてまで戦うほどの覚悟は持てない」

 蜜華はしばらくの沈黙の後、同意する。

「……そうね。

 その通りだわ」



 町に戻った二人はいったん別れることにした。

 男から聞き出した寺の近くで蜜華は車を降りる。

「優璃は、自殺した女性の家を調べて。

 私は無縁仏の寺を当たってみる」

「遺骨を発見したら、私を待たずに処理して」

「わかったわ」



 蜜華は男から聞き出した寺に到着した。

 しかし、寺は存在しておらず、駐車場になっていた。

 近所に聞き込みをすると、

「あの寺なら廃棄が決まったよ。

 檀家がもう少なくて経済的な理由で維持できなかったって。

 それで寺も墓も全部 最終処分が決定したんだ。

 もう十年も前だよ」

「そうですか」

 となると浄化することは不可能となった。



 蜜華は優璃に電話する。

「優璃、寺は最終処分された。

 遺灰は残っていないわ」

「家にもうすぐ到着するから、なにかヒントがあるかも。

 ……って、うわぁ!」

 優璃の突然の声に、蜜華は驚く。

「え?

 優璃、優璃!

 どうしたの?!」



 優璃は車を運転している最中、蜜華から電話を受けた。

「家にもうすぐ到着するから、なにかヒントがあるかも。

 ……って、うわぁ!」

 道の真ん中に女の人が立っていた。

 思わず急ブレーキを踏み停車する。

 見ると、白い服の女の人が近づいてきて、窓をノックする。

「……お願いします……

 ……助けてください……」

 優璃は直感する。

 例の悪霊。

 今度は私を狙っている。

 電話は切れている。

 さっきまで電波は繋がっていたのに、急に切れるなんて。

 たぶん、こいつの仕業。

 どうする?

「……お願い、家に帰りたいの……」

「……わかったわ。

 車に乗って」

「……ありがとう……」

 優璃は車を慎重に発進させた。



 女性は不意に話しかけてきた。

「……あなたは浮気する夫をどう思う?」

「……最低だと思うけど。

 浮気したら即 離婚でしょ」

「そうね、そうよね。

 でも、離婚しても子どもたちはどうなるの?

 子どもには親が必要よ。

 誰か代わりに母親になってくれればいいのに……」

「……私はなれないわ。

 まだ母親にはなれない」

「そんなこと言わずに、お願い。

 かわいい子供たちなの……」

 この霊、自我が崩壊している。



 優璃は努めて冷静に対応し、車が家に到着した。

「到着したわ。

 この家でしょ」

「……家に帰れないの」

「家に帰るべきよ」

「帰れないのよ」

 不意に、女性の姿が消えた。



 お願い。

 あなたがあの子たちの母親になって!



「うわぁあああああ!」

 優璃の心臓が急に苦しくなった。

 心筋梗塞を引き起こそうとしている。

 悪霊の手が物理的制約を無視して、直接 心臓を鷲掴みにしている。

 優璃は柏手を打って、呪法を使おうとするが、力が入らない。

 まずい、このままじゃ……

「ノウマクサンマンダバサラダンカン!」

 真言によって悪霊が霧散した。

「優璃!」

 車の外には、蜜華がいた。

 電話が不自然に切れたことによって事態を察知した蜜華は、急いで駆けつけたのだ。

「今のうちに車から降りて!」

 簡易的な真言では一時的にしか効果はない。

 早く退避しなければ。

 しかし優璃は蜜華に叫ぶ。

「蜜華!

 離れて!」

 優璃は車のアクセルを踏んだ。

「いい加減に家に帰りなさい!」

 車を発進させて、家に突撃する。

 車は玄関を轟音を立てて突き破り、家の中に突入した。



 蜜華が優璃の後を追って、家の中に入る。

「ちょっと、無茶しすぎよ」

「こうでもしないと、中に入らないと思って」

 車から出ると、そこには白い服の女性が立っていた。

 しかし、悪霊は二人を見ていなかった。

 その視線の先には、二人の子どもがいた。

 男の子と女の子。

「……ママ」

「……ママ」

「ママだ」

「ママが帰ってきた」

「「ママぁあああああ!」」

 子どもたちが母親に抱きつくと、悪霊はすさまじい悲鳴を上げた。

「ギャアアアアアッ!」

 その姿が不定形になり、やがて溶けるように消えていった。

 女性の霊も、子どもたちの霊も、完全に消滅していた。

 蜜華が呟く。

「子どもたちの霊が、母親をあの世へと連れて行ったのね」

「子どもが連れて行くから、家に帰ろうとしなかったの」

「殺されても なお母親を慕う子ども。

 悪霊に取っては恐怖以外何物でもないわ」



 事件は解決した。

 帰宅する車内にて話し合う。

「結局 父さんは見つからなかったね。

 蜜華は これからどうするの?」

「私は このまま父さんを探すわ。

 手がかりは父さんが部屋に残したファイルブック。

 この中に、私の名前と数字が書かれていた。

 多分、座標だと思う。

 調べてそこへ行ってみる。

 あなたも来ない?」

 優璃は首を振る。

「大学があるの。

 それに秋晴のことも。

 大学を卒業したら、すぐに結婚式を挙げようって約束しているの。

 それで就職して、キャリアアップして、いつか彼の子どもを産んで育てたい。

 自分の幸せを考えたいの」

 優璃は短く嘆息する。

「蜜華は母さんのことを覚えている。

 でも、私は一歳にもなっていなかった。

 母さんのこと なにも覚えていないのよ。

 父さんや蜜華みたいに、復讐に人生をかけるほどの強い動機がないの。

 私には無理よ」

 蜜華はしばらく考えた後、優璃に告げる。

「あなたの幸せの邪魔はしないわ」

「ありがとう、蜜華」



 蜜華はしばらく車を走らせて、不意に優璃に質問する。

「それで、恋人の秋晴ってどんな人?」

「やっぱり、妹と結婚する人は気になる?」

「当たり前でしょ。

 姉として、妹が悪い男に引っかからないか ちゃんと見ておかないと。

 今回の事件みたいに、浮気するかもしれないし」

「大丈夫、秋晴に限ってそんなことないわ。

 とても優しい人よ。

 それに成績も優秀。

 将来有望ね。

 スポーツも万能で、高校の時は陸上で結構良い成績だったのよ」

「なるほど、イケメンを捕まえた訳か」

「そういう蜜華こそ、いい人いないの?」

「こんな仕事してると、いい男に巡り会えないのよね」

「じゃあ、結婚はしないつもり?」

「全ての決着をつけたら、お見合いでもするわ」



 そんな話をしながら車を走らせ、二時間後、日が暮れた頃に、優璃のアパートに到着した。

 優璃は蜜華を誘う。

「少し上がっていかない。

 事件を解決したばかりで疲れたでしょ。

 少し休んでからでも、遅くはないわ」

「……そうさせてもらうわ」



 部屋に入ると、部屋は暗かった。

「秋晴が部屋で待ってるって言ってたけど、出かけてるのかな」

 部屋の電気をつけようとした時、蜜華が怪訝な顔をする。

「……ねえ、なにかおかしくない」

「なにが?」

「いえ、なんとなく……」

 優璃は ともかく電気をつける。

 すると、そこには……



「……ゆ……ゆう……り……たすけ……て……」

 血まみれの秋晴が天井に張り付けられていた。

「秋晴!」

 その瞬間、秋晴の体が燃え上がった。

 人体発火。

 火は瞬く間に燃え広がり、部屋を炎で埋め尽くす。

「いや!

 いやぁあああああ!」

「優璃!

 逃げて!」

 燃える秋晴を それでも助けようとする優璃の腕を、蜜華が強引に引っ張ってマンションの外へ。

 外に出れば、近所の人が通報したのか、消防車のサイレンが聞こえ始めていた。



 それから二時間後。

 火災は鎮火されたが、秋晴は焼死体で発見された。

 優璃は警察の事情聴取で なにも語らなかった。

 無言の優璃に変わり、蜜華が すべて上手く対応した。

 そして二時間以上 質問され、やっと解放された。



 優璃は車の荷台に積んであった除霊用の装備品を見つめていた。

 蜜華は なんと声をかければいいのか わからなかったけど、ただ、優璃のその目には決意が宿っていた。

 しばらくして優璃は蜜華に告げる。



「出発しましょう。

 父さんを探して、母さんと秋晴を殺したものを狩る」



 こうして九字姉妹の旅は始まったのさ。



 今夜の話は これでおしまい。

 続きを聞きたかったら またアタシを呼んでくれ。

 いつでも続きを聞かせてあげるからね。

 さあ、そこのけ そこのけ、子どもたち。



 コックリさんが通る。


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