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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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旅立ち 上

 今宵もアタシを呼んでくれて嬉しいよ。

 例の話の続きだろう。

 わかってる、慌てなさんなって。

 物事には順番ってものがあるんだ。

 おまえたちは まだ九字姉妹の始まりの物語を知らないだろう。

 今夜は二人の旅の始まりを語ろうじゃないか。

 さあ、心の準備は良いかい。

 事の発端は まだ元号が昭和と呼ばれていた頃だった。

 妹の九字 優璃が誕生して半年経過した頃、こんな事件が起きたのさ。



 九字夫婦は幸せだった。

 夫の晃樹(こうき)は妻 沙由理(さゆり)を本当に愛していた。

 そして五歳になったばかりの長女、蜜華。

 生後半年の優璃。

 事業も順風満帆。

 まさに幸せの絶頂だったのさ。

 その夜も幸せに包まれていた。

「子どもたちを寝かしつけてくるよ」

「大切に運んでね」

「もちろんさ」

 晃樹は生後半年の優璃を抱いて、二階の子ども部屋へ向かい、その後を、五歳になったばかりの蜜華がついて行く。

 子ども部屋に到着して、優璃をベビーベッドに入れてやると、優璃は嬉しそうに笑う。

「かわいい」

 蜜華が嬉しそうに笑い返す。

「大きくなったら、一緒に遊ぼうな」

「うん」

「さあ、おまえももう寝なさい」

「わかった」

 そして蜜華を部屋へ送り、ベッドに入ったのを見届けると、晃樹は一階へ降りることにした。



 それから妻の沙由理は、しばらくして夫が戻ってくるのが遅いと思った。

 なんだか不安になり、沙由理は二階へ向かい、階段から様子を覗くと、そこには夫の後ろ姿があった。

「……今 戻るよ……」

 沙由理の気配を感じてか、それはそう言ったので、沙由理は一階へ戻ることにした。

 沙由理は思う。

 なんだか変ね。

 違和感があって、気にはなったが、しかし正体が掴めない。

 そして一階に戻ると、不意にトイレのドアが開いた。

「ふう、急に催してきてね」

 それは夫の晃樹だった。

 夫はトイレに入って遅くなっていたのさ。

 なら、二階のあの人影は?

 戦慄が走り、沙由理は二階へ走った。



「どうした 沙由理!」

 事態が飲み込めない晃樹は、狼狽し出遅れた。

 そして遅れて二階へ上がると、優璃の部屋へ。

 沙由理の姿はない。

 優璃は無邪気に笑っている。

 周りを見ても、沙由理が見当たらない。

「優璃、沙由理を見なかったか」

 まだ赤ん坊の優璃が応えるわけがないと思ったが、しかし優璃は天井を指さした。

 見上げると……そこには沙由理が天井に張り付けにされていた。

 沙由理は血まみれの姿で、晃樹に助けを求める。

「あ、あなた……助け……て……」

「沙由理!」

 晃樹が名を叫ぶと同時に、沙由理の体から炎に包まれた。

 人体発火。

 火は真瞬く間に燃え広がり、部屋一面 炎に包まれる。

「お父さん!」

 異変に気づいた蜜華が叫ぶ。

 晃樹は我に返り、優璃を抱きかかえると、部屋を飛び出す。

「蜜華!

 逃げるんだ!」

 そして火災報知器が火と煙を感知し、自動で緊急通報を行った。



 それから一時間後、火は消し止められ、大規模な火災には至らなかったが、妻の沙由理は無残な焼死体で発見された。



 家族のささやかな幸せは、この日 崩壊したのさ。



 それから二十年後。

 平成十七年の秋。



「ハッピーハロウィーン!」

 大学のキャンパスにて、ちょっとしたハロウィンイベントが行われていた。

 二十歳になった優璃は、彼氏の秋晴と一緒にコスプレを楽しんでいた。

「優璃、すっげーイケてる」

「秋晴もイケてるわよ」

 二十歳になり、酒も覚え始めた優璃。

 彼氏もでき、サークルでできた友達とも仲がいい。

 大学生活は順風満帆だった。

 サークルの友人が二人の仲をはやし立てる。

「それで、学生で早くも婚約して、同棲まで始めた感想は?

 どんな感じなの?」

 優璃は笑顔で応える。

「幸せいっぱい」

 そして彼氏の秋晴を抱きしめる。

「おーおー、熱いねー」

 そうして夜が更けていった。



 しばらくパーティーを楽しんだ後、優璃と秋晴は笑いながら部屋に帰る。

 すると扉の前で待っていたのは……

「久しぶりね、優璃」

「蜜華」

 姉の蜜華が部屋の前で待っていたのだ。

「知り合い?」

 秋晴が聞くと、優璃は紹介する。

「姉の蜜華よ。

 蜜華、彼は、その、私の彼氏の秋晴」

「よろしく」

 蜜華が挨拶すると、秋晴はしどろもどろに挨拶を返す。

「ど、どうも」

 優璃の親類に会うのは初めてで、まるで結婚の報告でもするかのような緊張を感じた。

 少し深呼吸して、秋晴は優璃に言う。

「とりあえず、中に入ってもらったら」

「そうね。

 蜜華、中に入って」

「そうさせてもらうわ」



「それで、要件は?

 ただ様子を見に来たわけじゃないんでしょ」

「単刀直入に言うわ。

 父さんが行方不明になったの。

 探すのを手伝ってほしい」

 それを聞いた秋晴が、怪訝な顔になる。

「それ、警察には?」

「警察には言えない。

 父は狩りの途中だったから」

 狩り、という言葉を聞いて、優璃の顔が強張る。

 そして慌てて、秋晴に伝える。

「秋晴、ごめん。

 蜜華と二人きりにさせて」

「え?」

 戸惑う秋晴に、優璃はお願いする。

「家族の大切な話なの。

 お願いだから」

 秋晴は事態が飲み込めなかったが、しかし優璃を困らせたくなかったので、了承する。

「あ、ああ、そうなんだ。

 わかった。

 しばらくその辺で時間を潰してくる」

「ごめんね」

 優璃は、秋晴には悪いと思ったが、こんな話 聞かせられなかった。



 秋晴が近所の喫茶店に行った後、蜜華は資料を鞄から取り出し、説明する。

「ここ二十年、同じ橋で女性の死者がでるのよ。

 でも交通事故じゃないわ。

 すべて心筋梗塞なの。

 年齢も、心臓麻痺を起こすとは思えない若さで、至って健康体。

 にもかかわらず、同じ橋で同じ死因で死亡事故が起こる。

 このことを父さんは調べていた。

 おそらく、闇に巣くうモノが関わっていると。

 でも、連絡が一昨日を最後に途絶えて、それっきり。

 今までにこんなことなかったわ。

 そして最後の電話がこれよ」

 蜜華はボイスレコーダーを再生する。

 ノイズがひどい音声が流れる。

 だが父の晃樹の声だとはわかる。

「……まずいことに……から……俺はしばらく……す……あとは……それから……そして……」

 あとはノイズが流れるのみ。

「このノイズを解析してみたの。

 するとこんなものが聞き取れた」

 ボイスレコーダーを操作すると不気味な声が流れた。

「もう二度と戻れない」

 父 晃樹とはまるで違う、女の声だった。

 優璃はしばらく考えて、

「話はわかった。

 三日間だけ、手伝うわ。

 でも三日後には試験があるから」

「わかってる。

 あなたの生活の邪魔はしない」

「そうと決まれば、急ぎましょう。

 時間が惜しいわ。

 今夜にも出発するわよ」

 優璃は秋晴に携帯でメールを打つと、手早く準備した。



 こうして、九字姉妹は、父が行方不明になった町へ向かったのさ。



 事件の起きている町に到着した九字姉妹は、まず管轄の警察署へ向かった。

 受付の警官に、蜜華が署長に面会したいと告げると、警官は怪訝な顔をした。

 苦情だろうかと思ったのかもしれない。

 まあ、小さな町の小さな警察署。

 たいしたことはないだろうと、警官は一応 署長に連絡すると、三分もしないうちに署長は現れた。

「こ、これはこれは、事前に連絡していただければ、出迎えの準備をいたしましたものを」

 平身低頭で もみ手までしている署長に、受付の警官はぽかんとしていた。

「必要ないわ。

 それより遺体安置所に案内してもらいたいのだけど」

「はは、かしこまりました。

 こちらです」



 遺体安置所に現在安置されている遺体は、三つ。

 二人は交通事故死による者。

 二人とも女性で父ではなかった。

 そしてもう一つが、例の橋で発見された遺体。

 これも女性だった。

「この遺体は?」

「この町にある唯一の橋で発見されたのですが、死因がわからないのです。

 おそらく心筋梗塞を起こしたとしか。

 しかしまだ二十代で健康体なのに、なぜ心臓発作など」

 優璃が蜜華にささやく。

「例の事件の犠牲者かしら?」

「たぶん」

 そして蜜華は署長に告げる。

「署長、過去二十年の事件の資料のコピーが欲しいのだけど」

「コ、コピーですか。

 しかし、それはさすがに……」

「そろそろ退職の時期が近づいているわね。

 再就職先を探すのも大変でしょう」

「そ、そうですな。

 わかりました。

 すぐにコピーさせましょう」



 なるほど。

 いったいどうやって国家権力者を言いなりにできるのかと思ったけど、天下りの約束をしているのか。

 天下りなんて、時間差の賄賂だからね。



 こうして過去二十年の事件の資料を手に入れた九字姉妹は、父の企業の系列のホテルへ向かった。

 蜜華が説明する。

「父さんがここに泊まったのは確かなのよ」

 受付に行くと、スタッフが対応に出る。

「お待ちしておりました。

 お嬢様。

 会長が使われていた部屋はこちらです。

 案内しましょう」

 スタッフの案内で、スイートルームへ。

「会長は誰も入れるなとおっしゃっておられましたが、しかし、お嬢様なら話は別でしょう」

 中に入ると、雑誌のスクラップが壁一面に張られていた。

「会長は何かの事件を調べていたようです。

 ただ、それが なんなのかは私たちにはお話ししてくださいませんでした。

 お嬢様方、ご健闘をお祈りします」

 スタッフは去って行った。

「父さんは どこまで掴んでいたのかしら」

 優璃が呟く。

「警察には まだ行っていなかったみたいだけど」

 蜜華が壁の記事を見て、

「でも、事件の確信に迫っていたみたい。

 父さんのファイルがあるわ。

 どうも、これが事件の鍵らしいわね」



 それは この町に流布する都市伝説だった。

 女性が一人で運転していると、白い服の女が道路の真ん中で助けを求める。

 車を止めて事情を聞くと、女性は家まで送ってほしいという。

 それはすぐ近く。

 橋の付近の家。

 親切心で送っていくと、運転手は次の日、橋で遺体で発見される。

 死へ誘う謎の白い服の女というわけだ。

 ただの都市伝説じゃあないようだけど。



「これが事件を起こしている悪霊?」

 優璃が聞くと、蜜華は応える。

「父さんはそう考えていたみたい」

「とりあえず、事件の資料を当たってみる」



 二人は、父の資料の調査を始めた。




 続く……

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