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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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 アタシを呼んでくれて嬉しいよ。

 こんなことを遊びでやる人間には、いつもなら祟りを起こして懲らしめてやるところなんだけどね。

 でも今回はやらない。

 実は聞いて欲しい話があるんだ。

 だから、これも何かの縁だと思って聞いてくれないかい。

 アタシを呼ぶ遊びなんてやってるんだから、どうせヒマなんだろう。

 夜は長い。

 嫌だと言っても、力尽くでも聞いて貰う。

 なぁに、大した話じゃない。

 とある姉妹の話だよ……



 あれは平成十八年。

 蒸し暑い夏のことだった。

 アタシが街を歩いていると、ふと とある山に近づいたんだ。

 ずいぶん陰気な山でね、これはなにか曰くがありそうだなと思った。

 そこに一台の車が走ってきた。

 その車は山の麓にある屋敷に停車すると、二人の若い女が下車した。

 片方は、齢二十五ほど。

 もう片方は二十歳といったところか。

 顔立ちが似ている。

 どうやら姉妹のようだね。

 それにしても、驚きだよ。

 二人ともすごい霊力だ。

 その二人は大きな屋敷に入っていった。

 面白い。

 ちょいと、後を憑けてみよう。



 屋敷に入ると、年老いた男が二人の若い女を迎えた。

「ようこそ、おいでくださいました。

 九字(くじ) 蜜華(みつか)様。

 九字(くじ) 優璃(ゆうり)様。

 どうぞ、こちらへ」

 男の案内で座敷へ入ると、男は説明し始めた。

「お二人にお頼みしたいことはほかでもありません。

 五十年前に、あの山で自殺したと思われる女性の遺体を見つけ、浄化していただきたいのです」

 蜜華が質問する。

「あの山は自殺の名所として有名だそうですが、しかし、五十年前の自殺者の遺体を、今更 発見してどうするのですか?」

 男は答える。



「あの山の山頂は隠り世、黄泉とつながっており、そこから隠り世の水が湧き出るのです。

 それは この世ならざる水。

 災いをもたらす水。

 私たちは、その水を封じるために、ある儀式を執り行うことにいたしました。

 一組の男女が夫婦の契りを交わし、その夫婦の繋がりを、黄泉を封じる縄とするのです。

 そして、そのときの男は私でした。

 彼女の意思もあり、我々は合意の上で夫婦となるはずでした。

 しかし、別の女性がそれに異を唱えたのです。

 私と結婚するのは自分だ。

 自分は学生時代からの婚約者だと。

 しかし、私はその女性とは初対面で、いったい誰なのか心当たりがありませんでした。

 しかし女性は執拗に迫り、儀式は中断せざるを得ませんでした。

 今 思えば、あの女性は、昨今でいうところのストーカーというものだったのでしょう。

 警察なども、そういったことが話題になる以前でしたし、対応はしてくれませんでした。

 その結果、最悪の結末を迎えることになりました。

 女性は私の妻となるはずだった彼女を殺害し、私と死んで結ばれるといって、山へ入り、そして行方不明となりました。

 黄泉を封印することは失敗し、しかも女性の自殺を機に祟りが始まり、死に魅入られやすい者たちを引き込むようになったのです。

 こうして、あの山は自殺の名所となりました。

 しかし、手立てはございます。

 黄泉を封じる儀式を完了させることです。

 私が亡くなった彼女と夫婦の契りを結び、その繋がりを黄泉を封じる縄とする。

 冥婚。

 いわゆる死後結婚を執り行うのです。

 そのためには、儀式を妨害する、あの自殺した女性の霊を鎮めなくてはなりません。

 どうか、この老いぼれの依頼を、引き受けてはくれませんか」



 男は頭を下げた。

 蜜華が応える。

「お話はわかりました。

 その仕事引き受けましょう」



 九字姉妹はこうして山に入った。



 優璃がビデオカメラを起動させる。

「まずは廃旅館を調べようか」

 山の自殺者は、この廃旅館にしばらく滞在した後、自殺するという。

 この世への未練がそうさせるのだろう。

 生と死の狭間の宿か。

 優璃が構えたビデオカメラを、蜜華が覗く。

 画面には無数の発光体が映っていた。

「すごいオーブの数ね。

 自殺者たちの怨念が立ちこめている訳か」

「でも、これだと、誰が目的の女性なのかわからないわよ」

「自殺の名所の核となっている悪霊よ。

 たぶん、私たちも狙ってくるはず」



 廃棄された旅館に入ると、中は朽ちかけており、今にも崩れそうだった。

 薄暗く、中は湿気でジメジメしている。

 不意に、雨漏りで形成された水たまりが、不自然にパシャリと撥ねた。

「蜜華、そこ」

「わかってる、優璃。

 気をつけて」

 ぱしゃり、ぱしゃり……

 べたり、べたり……

 見えない何かの足音が聞こえる。

 そして蜜華は、狩猟用空気銃を構えた。

 幽霊に実弾は聞かない。

 たとえ火薬式でも まるで役に立たないはずだ。

 ましてや空気銃じゃあ。

 なにを考えてそんなもの用意したんだ。

 不意に霊魂が実体化した。



「結婚するのよ。

 結婚、結婚。

 んあぁーいきぃぃぃぃぃ!

 結婚! 結婚! 結婚!

 幸せになるのぉぉー!」

 奇声を発しながら実体化する。

「ああ、これはだめね」

 蜜華が断定する。

 アタシにもこれはもうだめだとわかる。

 完全に悪霊と化している。

 生きていたときから もともと そういう人間だったんだろうけどね。

 悪霊は九字姉妹を見ると豹変する。

「泥棒猫!

 私のフィアンセを奪いに来たのね!」

 襲いかかる悪霊に、蜜華は空気銃を発砲した。

 悪霊が弾丸を受けて霧散する。



 へえ、なるほど、塩の弾丸か。

 霊魂の類いは実体がない。

 だから物理的な攻撃は効かない。

 でも、例外はある。

 代表的なのが、塩だ。

 塩は霊魂に対して、物理的な作用をもたらす。

 そして浄化の力も。

 簡単に入手でき、そして汎用性もある。

 それを狩猟用空気銃で強烈に食らわせたんだ。

 ダメージは大きいね。

 でも、この悪霊には少し問題があるようだ。

「だめね、効果が薄い。

 黄泉の水の影響で、悪霊の力が強くなっているのかも」

 蜜華が銃に塩弾を再装填すると、次になにかを投げた。

 手榴弾。

 あんなものどこで手に入れたんだ?

 まさか、自作したのか?

 手榴弾は、悪霊のいるあたりに転がると、爆発した。

 でも、火薬の爆発じゃない。

 血だ。

 血液が爆発した。

 しかし人間の血じゃない。

 鶏の血。

 軍鶏か。

 神聖性のある軍鶏の血は、悪霊を浄化する力がある。

 物理的な作用をもたらし、悪霊に付着する。

 見えない存在が見えるようになった。



「んんぎぃぃいいいいい!」

 悪霊は苦しみだし、どこかへ去って行った。

 しかし、軍鶏の血痕が、地面に転々と残っている。

 優璃が、

「これをたどれば、遺体にたどり着くはず」

 蜜華が応える。

「いきましょう」



 姉妹は廃旅館を出て、地面に残っていた血液の足跡を追って、山頂付近の泉に到着した。

「これが黄泉の水。

 変色してるから、何かに汚染されてるみたい」

 蜜華が言うと、優璃が指さす。

「蜜華、あれ」

 泉の岩の陰に隠れるように、女の遺体があった。

 屍蝋化している。

 そして血の足跡はその遺体の場所へ。



「私があの人と結婚するのよぉぉおおおー!!」

 再び悪霊が現れた。

「蜜華!

 ここは私が食い止めるから、遺体を浄化して!」

 優璃が叫ぶと、パンッと柏手を打った。

 そして指を絡ませ印を結ぶ。

「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリバサラハンソワカ!」

 修験道の呪法か。

 悪霊を霊的な力が束縛し、動きを封じた。

 優璃が悪霊を食い止めている間に、蜜華が遺体に到着すると、大量の塩を遺体に巻き、ガソリンをかけた。

 引火。

 ガソリンのかかった遺体は勢いよく燃えだす。

 悪霊を倒す一般的な方法。

 遺体を塩などの聖なる物質で浄化し、燃やすこと。



「おぎみやぁああああああああああ!!」



 悪霊が悲鳴を上げてのたうち回り、そして少しずつ消滅していく。

 後には何も残らなかった。



「終わったわね」

 蜜華が呟くと、優璃がうなずく。

「終わったわ」



 下山すると、九字姉妹は依頼人の屋敷へ戻った。

 報告を聞いた男は感謝の言葉を告げる。

「ありがとうございます。

 これで やっと彼女と結ばれることができます」

 そして男は仏壇に手を合わせた。

 すると、山の陰鬱な空気が霧散し、よどんだ雰囲気が消え去った。

 まるで、晴れた日の朝日を浴びているかのような、清々しい気分になった。

 黄泉は封じられ、山は浄化されたのだ。



 九字姉妹は屋敷を去った後、話し合う。

 優璃が蜜華に聞く。

「この山の黄泉は封じることができたけど、手がかりはなかった。

 父さんの行方はわからないし、母さんの敵の手がかりもない」

「ほかに方法はないわ。

 旅を続けましょう」

 そして二人は車に乗り込んだ。



 アタシは姉妹に興味を持った。

 おもしろい。

 実に面白い人間たちだ。

 こんな面白いこと、めったにない。

 ここは一つ、二人に取り憑くことにしよう。

 そしてアタシは姉妹の旅をずっと見続けることになるのさ……。



 これで話は終わりだ。

 さて、ずいぶん夜も更けた。

 それじゃあ ここいらで、アタシは帰らせて貰うよ。

 ……おや?

 もっと話が聞きたそうだね。

 そうか、そんなに続きを聞きたいか。

 じゃあ、またアタシを呼んでくれ。

 呼んでくれれば いつでも話を聞かせてあげるからさ。

 でも 今日はお開き。

 あんたたちは寝る時間だ。

 さあ、そこのけ そこのけ、子供たち。



 コックリさんが通る。

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