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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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15/18

偽りの純潔 下

 それから二十分後、警察に連絡が入り、緊急出動した警察が、現場の封鎖と、日下部 亮子の保護にあたった。

 九字姉妹は、癒着している警察署長から連絡を受け、そして圧力を掛けて、現場捜査が終わり次第、現場に入れるようにした。

 夕方、ようやく基本的な捜査が終わり、九字姉妹は現場に入ることが出来た。

 まだ血痕が残っている現場で、九字姉妹は壁のメッセージを見つめる。

 優璃は、

「ルームメイトは殺したのに、日下部さんは殺さなかった。

 どうして?」

 蜜華は推理する。

「なにか理由がある。

 この悪霊、無差別に殺しているわけじゃない。

 殺害する人間に、なにか共通項があるのよ」




 二人は図書館での調査を再開した。

 そして膨大な資料の中から、六十年前の事件を見つけた。

 とある神父が性風俗撲滅運動をしていた。

 淫らな行いは罪であるとして、性風俗や それに類するものを全て禁止にするようにと。

 やがて殺人事件が起きるようになった。

 性風俗に関わる人間達が殺されていく事件。

 しかし手がかりはなく捜査は難航。

 その時、神父は淫らな行いをするものに神の裁きが下ったと主張していた。

 警察は神父に容疑を向けたが、しかし警察が犯人と断定する前に、神父は交通事故で死亡。

 遺体は埋葬され、殺人事件も途絶えた。

 このことから疑いはさらに濃厚になったが、しかし証拠を得られることはなく、迷宮入りとなった。

 そして、この神父は子どもの頃に左手を事故で失っており、鉤爪の義手を付けていた。



 蜜華が断定する。

「この神父が犯人で間違いないわね。

 そして悪霊と化し、死後も犯行を重ねている」

 優璃が推理を重ねる。

「となると、悪霊は日下部神父に取り憑いている可能性が高いわね。

 日下部神父は聖職者よ。

 内心、娘の日下部 亮子に彼氏が出来たことを快く思っていなかったんだわ。

 それに、二人を応援していたルームメイトも。

 娘を淫らな行為に誘う者が邪魔だった。

 娘の純潔を守りたかった。

 そこに悪霊がつけ込んだ」

「ともあれ、これで遺体の場所を特定できたわ。

 あとは遺体を浄化すればいいだけよ。

 でも、こうしている今も、悪霊が動き出すかもしれない。

 優璃、あなたは日下部 亮子を見ていて。

 遺体は私が処理するから」

「わかったわ」



 そして二手に分かれた。



 夜 九時頃、蜜華は墓地で墓を見つけ、墓を暴いた。

 遺体に蜜華は大量の塩を撒き、ガソリンを掛けて火を付ける。

 しかし、これは……

 蜜華は燃え上がる遺体を見つめながら呟く。

「これで良し。

 悪霊はもう出ない。

 手間取ったけれど、これで事件は解決ね」

 安心するのは、まだ早い。



 それから一時間後。

 優璃は教会のベンチに座り、バッグのなかの猟銃を確かめた。

 二階の窓のところで、日下部 亮子と日下部神父が言い争っている様子が見えた。

 そして亮子が家を飛び出すと、ベンチに座っている優璃に気付いた。

 亮子は優璃の姿を見て、落ち着きを取り戻し、静かに隣に座る。

「こんなところで どうしたんですか?」

「あなたのことが心配で様子を見に来たの」

「優しいんですね」

 二人はしばらく沈黙して座っていた。

 やがて亮子は控えめに質問する。

「あなたの大切な人は、どんな人だったんですか?」

「素敵な人。

 優しくて、頼りがいがあって、それにイケメンだった」

「私と同じですね。

 彼も優しくて、頼りがいがあって、イケメンで……でも ちょっとエッチだった。

 でも、そんなところも好きだった。

 殺されたルームメイトも、私の大切な友達だった」

「……お父さんとなにを喧嘩していたの?」

「父は淫らなことを止めなさいって。

 結婚まで純潔を守るように。

 それが神の教えだと。

 でも、私 知っているんです。

 父は人妻と密会しているの。

 教会に来る人で、夫も子供もいる。

 そんな人を相手に浮気するなんて。

 自分はそんなことしているくせに、私に説教する資格なんてない」



 日下部神父が玄関から亮子に声を掛ける。

「亮子、家に入りなさい」

「私に命令しないでよ。

 父さんにそんな資格ない。

 なにが神の罰よ。

 罰を受けるのは父さんの方でしょ」

 日下部神父が困った顔で説明をしようとした その時、突然 背後に鉤爪の男が現れ、日下部神父の肩を切り裂いた。

「ぐあぁっ!」

 そして日下部神父はそのまま引きずられて家の中へ消えていった。

「父さん!?」

 亮子が声を上げると同時に、優璃は猟銃を手にすると後を追い掛ける。

 家に入り、日下部神父が引きずられて家の奥に。

 さらに後を追い掛けていくと、悪霊は鉤爪を大きく振りかぶり、とどめを刺そうとしていた。

 優璃は悪霊に発砲。

 塩弾の直撃を受けた悪霊は霧散し、しかし再び実体化する。

 亮子が愕然とする。

「なんなのあれ……」

 優璃はさらに悪霊に連続して発砲した。

 三発の塩弾を受けた悪霊は、さすがに その姿を消した。

「父さん!」

 亮子は日下部神父に駆け寄り、様態を見る。

「ああ、酷い出血……どうすればいいの?」

「救急車を呼ぶわ」

 優璃は冷静に携帯電話で緊急通報を行った。



 病院で手当を受ける日下部神父。

 警察の事情聴取も終わった。

 鉤爪の義手の大男が神父を殺そうとして、自分が戦って男は逃げたと。

 優璃の社会的立場も考慮され、追求はされなかったが、現場の刑事は優璃に なにかしらの疑いを持ったようだ。

 あとで署長に圧力を掛けてもみ消す必要がありそうだ。



 そこに蜜華がやってきた。

「なにがあったの?」

「鉤爪の悪霊が現れた」

「遺体を浄化するのが遅かったのかしら」

「何時頃に浄化し終えたの?」

「九時ぐらい」

「悪霊が現れたのは十時頃よ」

「……どういうこと?

 悪霊の正体は神父じゃなかったの?」

「少なくとも、日下部神父に取り憑いてはいない。

 取り憑いていたなら、彼を殺そうとはしないはず」

「……まさか、取り憑いているのは日下部 亮子のほう。

 日下部 亮子に取り憑いて、彼女の純潔を守ろうとしている」

「遺体は本当に完全に浄化したの?」

「もちろんよ」

「なにかを見落としている……なにかを……

 ……あ、鉤爪は?

 鉤爪はあった?」

 蜜華は気付いた。

「なかった。

 墓に鉤爪はなかったわ。

 それよ。

 悪霊は鉤爪に残っている。

 生前は鉤爪も身体の一部と化していたから」



 日下部 亮子が二人のところへ。

「……その話 本当なんですか?」

 二人は亮子に気付く。

「話は聞きました。

 本当に悪霊の仕業なんですか?」

「それは……その……」

 優璃が説明に困っていると、亮子は、

「私も確かに見ました。

 鉤爪の大男が目の前で消えるのを。

 まだ受け入れきれませんけど、でも この目で確かに見ましたから」

 優璃は首肯する。

「その鉤爪をなんとかすれば、もう こんなこと起きないんですね」

「そうよ」

「私も手伝います。

 もう こんなこと終わってほしい」

「わかったわ。

 調べ物を手伝って」



 三人は資料を当たり、鉤爪の行方を追う。

 三時間 資料と格闘した結果、日下部 亮子が悪霊の神父の遺品の資料を見つけた。

「見つけました。

 ここです。

 遺品は所属している教会に返されたと。

 鉤爪は銀で出来ており、鋳造されて別の品になった。

 その教会は……これ、私の家です。

 私の家の教会です」

 蜜華は確認する。

「つまり、鉤爪はあなたの家にある」

 亮子は愕然とする。

「私の家に全ての元凶が……」

「すぐに教会に行きましょう。

 あなたの家の銀製品は全て浄化する。

 それで悪霊を倒すことができる」



 三人は教会に到着すると、早速 銀製品をかき集めた。

 銀製品だけではなく、銀メッキされたものも、銀が使われている疑いのある物も、全て。

 その作業が一通り終わり、三人は教会で休憩する。

「これで もう事件は終わったんですね」

 亮子が呟く。

 優璃が請け負う。

「ええ、これで もう悪霊は出ない。

 二度とこんな事件は起きないわ」

 亮子は静かに涙を流す。

「でも、二人は帰ってこない。

 私の大切な人とは もう二度と会えない。

 私のせいよ。

 二人が殺されたのは私のせい。

 私なんかと関わったりしたから。

 私 呪われているんだわ」

 優璃は優しく慰める。

「いいえ、そんなことないわ。

 悪霊に道理は通じない。

 ただ悪意を暴走させて被害をもたらすだけの存在。

 あなたが罪の意識を感じる必要はないの。

 全ては悪霊が原因よ」

「でも、私がしっかりしていれば。

 父さんの言うとおり、純潔を守っていればこんなことにならなかった。

 私も罰を受けるべきよ」



 その時、ギイィィィ……と教会の壁に鉤爪でひっかく音が。

 蜜華が、

「悪霊!?

 まだ倒してない!」

 日下部 亮子が自虐的思考に陥ったために、取り憑いている亮子を狙い始めたね。

 教会の壁があちこち切られ、そして悪霊が実体化する。

 鉤爪の義手の大男の姿が。

 優璃が言う。

「まだ銀製品が残ってる」

 亮子は、

「でも、家にある銀製品はあれで全部よ」

「なにかが残っている。

 なにかが……」

 その時、優璃が気付いた。

 日下部 亮子の首に掛けられたロザリオに。

「それ、そのロザリオ、どこで手に入れたの?」

「父さんが、私が成人したときに贈ってくれたの」

「それよ!」

 亮子は急いでロザリオを外し、優璃はそれを蜜華に投げ渡す。

「蜜華、浄化して!

 ここは私が食い止めるから!」

「わかったわ!」

 蜜華は走った。

 優璃は猟銃を構え応戦体制に入る。

 近づいてくる悪霊に向けて発砲、悪霊は塩弾を受け霧散したが、しかし優璃は まだいると感知していた。

「どこにいる?」

 再び悪霊が実体化した。

 優璃は発砲、狙いを外す。

 再装填し、再び発砲。

 しかしその瞬間、悪霊が鉤爪で猟銃を払い飛ばし、優璃を吹き飛ばす。

「日下部さん!

 逃げて!」

 優璃は亮子を連れて逃走する。

 教会を出て扉を閉めると、鉤爪の強力な一撃が扉を貫く。

「こっちよ!」

 優璃はさらに奥へと亮子を連れて走る。



 蜜華は庭に出ると、ロザリオに塩を撒き、ガソリンを掛けて火を付けた。

 しかし物は銀だ。

 浄化に時間がかかる。

「早く、早く!」

 教会からは戦いの音が響く。

「優璃、持ちこたえて」



 教会の奥に追い詰められた優璃と亮子に、悪霊が近づいてくる。

 優璃は柏手を打ち、真言を唱え始める。

「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリ……」

 しかし悪霊が鉤爪の一撃を振り、それを回避するために真言を中断せざるを得なかった。

「これじゃ……こうなったら」

 優璃は素手で戦う覚悟を決めた。

 日下部さんだけは守らないと。

 悪霊が優璃に必殺の一撃を与えようと、鉤爪を大きく振りかぶった。

 その時……

 悪霊の動きが止まった。

 そして その鉤爪が少しずつ溶け出していき、それは腕に伝わり、身体へと。

 やがて銀が溶けるように、悪霊の身体が溶けていき、その姿が消滅した。

「……今度こそ、やった」



 次の日の朝、九字姉妹は町を出発しようと、準備をしていた。

 車に荷物を詰め込む。

 見送りに日下部 亮子が来ていた。

「二人とも、助けていただき、本当にありがとうございます」

 優璃は亮子に語りかける。

「亡くなった人は帰ってこない。

 でも生きている人間は、例え どんなことがあっても生き続けなければならない。

 どんなに辛くても、いつか幸せになるために」

「はい、私もそう思います」

 二人は別れの言葉を交わすと、車に乗り込んだ。

 蜜華は優璃に話す。

「あの子、ちゃんと幸せになれると良いわね」

「ええ、本当にそう思う」



 こうして二人は事件を解決したが、九字姉妹の旅は まだまだ続く。

 次の話を楽しみにしていな。

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