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コックリさんが通る  作者: 神泉灯


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13/18

もう一人の自分 下

 しばらくして優璃が目を覚ますと、下水道の広間のような場所で、縛られていた。

 そして、目の前には蜜華の姿をしたシェイプシフター。

「……蜜華はどうしたの?」

「私が蜜華よ。

 姉さんのこと忘れたの」

「ふざけないで」

「ふざけてなんかいないわよ。

 今の私は蜜華なのよ。

 その証拠もあるわ」

 シェイプシフターは不気味な笑みを浮かべる。

「私は大変な人生だったわ。

 大学にも行けず、父さんの仕事の手伝いばかり。

 毎日 毎日、命がけで人々を助ける。

 なのに あなたは大学に進学して、友達を作って、恋人まで できて、幸せな人生を送った。

 婚約者が殺されたときは清々したわ」

「蜜華に化けて なにをするつもりなの」

「あなたの後輩の恵って子、私 好みなのよね。

 ちょっと誘ってみようかなって。

 私も人間の肌が恋しいの。

 だから人間になるのよ。

 それじゃあ行ってくる。

 大人しくしててね。

 帰ってきたら、次は あなたになるから」

 シェイプシフターは去って行った。



 恵が部屋で勉強をしていると、チャイムが鳴った。

「はーい」

 恵がドアの向こうを見ると、そこには蜜華の姿が。

「あら、蜜華さん」

 恵は疑いもせずにドアを開けて、蜜華を招き入れた。

「実は調査に進展があったの。

 それで あなたに報告を」

「わあ、そうなんですか。

 これで浦沢先輩の疑いも晴れますね」

「ええ、でも難しいの」

「難しいというと?」

「実はね……」

 蜜華はシェイプシフターの話をした。

「あの……その話を信じろって言うんですか?」

「信じられないのも無理はないけれど、でも事実なの。

 この世には、人間には理解できないことがある」

「それで、その、優璃先輩は?」

「今、その線で調査を進めているわ」

「そう……ですか」

 恵は蜜華に不審な眼差し。

 そして下手に反論するのは、なにか危険だと思い、質問してみる。

「そのシェイプシフターって妖怪は、どういう生き物なんですか?

 カメレオンみたいな感じですか?」

「脱皮するのよ。

 その姿になりたい人間の姿を記憶して、脱皮する」

「それって生物学的にどうなんですか?

 爬虫類や昆虫みたいな感じですか?

 それに人間みたいな行動をするって」

「始めは人間から誕生するわ。

 人間のことを学習しながら成長し、思春期になると変化が始まるの。

 自分の姿を変えられるようになる。

 そのことを ずっと隠して生きている。

 でも、本質は人間と同じ。

 良い服を着て、美味しいものを食べて、素敵な おうちに住みたい。

 人間と何も変わらないわ。

 でも、自分の正体は誰にも言えない。

 知られれば化け物扱いされるから。

 だから孤独なのよ」

「わかりません」

「そう、あなたは理解できないのね。

 でも、私は理解できる気がする。

 誰でも一人は淋しいもの。

 誰かと一緒にいたい。

 愛が欲しい。

 人の温もりが恋しい」

 蜜華の姿をしたシェイプシフターは恵にすり寄る。

「あなたも淋しいでしょう。

 誰かが側にいてほしいと思わない」

「え?

 え?

 ちょっと……」

 シェイプシフターは艶やかに嗤った。



 下水道では優璃が袖に仕込んだ小型ナイフを取り出し、ロープを やっとのことで切断した。

「早く恵のところに行かなきゃ」

 そして下水道の入り口へ向かうと、途中で誰かが縛られていた。

「蜜華!」

 蜜華は気絶していた。

 優璃は蜜華の頬を軽く何度か叩く。

「うぅ……」

 蜜華が目を覚ました。

「よかった」

 優璃は蜜華のロープをほどく。

「優璃、無事だったのね」

「蜜華、急ぎましょう。

 シェイプシフターは恵のところへ行ったわ。

 次は恵を狙う気よ」

「わかった」

 二人は下水道の入り口へ向かう。

「それにしても、優璃も騙されるなんて」

「あれは姿をコピーするだけじゃなく、記憶までコピーしていたわ。

 一度 化けられると見抜くのは困難よ」

「ってことは、私に化けている今がチャンスね」



「車は?」

 蜜華が聞くと、

「やつに奪われた」

 と優璃。

 走るしかない。

 下水道を出て、二人はアパートへ向かったが、電気屋のウィンドウにあるテレビが、地元のニュース番組を流していた。

「まって、優璃。

 これ」

 そのニュースは傷害未遂事件の緊急速報だった。

 恵のアパートで何者かに襲われ、被害者は警察に通報。

 緊急指名手配された似顔絵と共に氏名がテロップされていた。

 九字 蜜華。

「遅かった」

 しかしニュースでは被害者は怪我もなく無事とのこと。

 犯人は以前逃亡中。

「蜜華、あなたは外を出歩けない。

 こんなニュースが流れたんじゃ、すぐに見つかる。

 どうすれば?」

「二手に分かれましょう。

 私は下水道に戻って、手がかりがないか調べてみる。

 優璃は恵さんのところへ」

「わかった」

「二手に分かれるのは危険だけど、何とかするしかないわ」

「ええ」

 こうして優璃は恵の元へ、そして蜜華は再び下水道へ。



 優璃はタクシーで恵のアパートに到着した。

 チャイムを鳴らすと、恵がドアを開ける。

 だが明らかに不機嫌な表情。

「なんのようですか、せんぱい」

 それは質問ではなかった。

「あの、話を聞いてほしいの。

 これには訳があって」

「お姉さんが あんなことして、よく顔を出せましたね」

「その事情も説明するから」

「シェイプシフターって妖怪の話でしょ。

 先輩、変な宗教に はまったんですか。

 それで大学を辞めたと」

「違うのよ」

「馬鹿げてる!

 先輩がそんなオカルトを信じているなんて。

 もう何歳だと思っているの?

 出て行って!

 二度と顔を見たくない!」



 その頃、蜜華は下水に戻って調査していた。

 そして何者かが縛られて顔に袋が被せられているのを発見。

「うー!

 うぅー!」

「今 助けるわ」

 蜜華が顔を覆っている袋を外すと、そこには……

「恵さん!?」

 蜜華は猿ぐつわを外すと、恵は恐怖の表情で。

「み、蜜華さん?

 本物の蜜華さんですか?」

「そうよ。

 あなたも捕まったの」

「あれ、一体 何なの?

 あれのこと知ってるんですか?

 あなたの姿だったのに、目の前で私に化けた」

「じゃあ、優璃が今 遭っているのは……」



 蜜華と恵は急いで部屋に戻った。

 すると そこには、荒らされた部屋と、恵の姿をしたシェイプシフターの死体があった。

 そして優璃が疲れた顔でソファーに座っていた。

「二人とも、思ったより早かったわね」



 その後、警察に通報し、駆けつけた警官達が捜査を始めた。

 警察は、整形手術を使った犯行の線で捜査を進めることに切り替えた。

 下水道に、盗まれた金品も発見。

 今回の犠牲者のものだけではなく、他にもあったことから余罪を追及することに。

 もっとも、犯人は死亡し、元の顔も分からないことから、身元を特定することは出来ないだろう。

 だが、犯行の早さから複数犯の可能性を視野に入れて捜査するとのこと。

 そして発端となった事件の容疑者だった浦沢は、容疑が晴れて釈放。

 しかし、暴行を受けた彼女は彼と別れることにした。

 恋人の姿をしたものに暴行を受けたことによって、同じ姿の浦沢に恐怖心を抱くようになってしまったからだ。

 その姿を見ただけで、恐怖で身体がすくんでしまうと。

 浦沢も これでは うまくいくはずがないと、恋人のことを諦めざるを得なかった。

 シェイプシフターの残した傷は深かった。



 そして九字姉妹は恵と別れの挨拶をした。

「優璃先輩って、こういうお仕事を始めたんですね」

「家業なの。

 父さんの跡を継いで」

「目撃した今でも、信じられない思いですけど。

 でも、受け入れるしかないですよね。

 私も何か気付いたら、連絡します」

 そして二人は別れた。



 車を走らせながら、蜜華は優璃に問う。

「大学に戻りたい?

 戻っても良いのよ」

「いいえ、父さんを見つけて、秋晴と母さんを殺したやつを倒さないと。

 でないと、ゆっくり眠れない」

「そう」

 蜜華は しばらく沈黙していたが、やがて、

「あなたが大学に進学したとき、私は嬉しかった。

 あなたを危険な人生を歩ませずに済むって」

「ありがとう。

 でも、もう引き返せないわ。

 それに楽しいこともある」

「どんなこと?」

「化け物をやっつけられる」

 蜜華は笑う。

「そうね」



 二人の旅は まだまだ続く。

 今夜の話はこれで終わりだ。

 次を楽しみにしていな。

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